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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
33/117

6話 前半

 津波のような波しぶきを上げて、超巨大な魔物は再び海の中へと潜っていく。

 なんてことない普通の行動。たったそれだけで、あーしたちが身動きできなくなるほど船を揺らし、飛び散った水しぶきはひっくり返したバケツのように降りかかった。


「うおおおおおお!? 何だよアイツ超デケェ! 知ってるかアセム!?」

「いや、俺も初めて見る! しかし大物を見ると血が滾っちまうな!」

「いやいやいやいや! あんなの絶対無理だから! 船ごとぱっくり食べられちゃうから!」


 現れた魔物の大きさは、小さく見積もっても百メートルを余裕で超えていた。

 いつか見たネクのクモロボットすら難なく絞め殺せそうな太くて長い胴体は、びっしりと鱗のようなもので埋め尽くされていて、魚というよりは蛇とか竜のような、そういうイメージに近い。


「ビビってる割にはしっかり撮ってるんだよなお前さん」

「いやもうそんなんいいから! 絶対逃げた方がいいでしょこれ! 食べられちゃうって!」

「そうはいかねえ! アルフィノエに迫る魔物を食い止めるのが俺たちの仕事だ! ケルン、網と合流して迎え撃つぞ! 伝達は任せた!」

「はい!」


 アセムは舵を、ケルンは弓を握りそれぞれの準備に取り掛かる。

 矢じりに何かのアイテムを巻き付けたケルンは、網チームが待機している方角へ向けてそれを放つ。放たれた矢は放物線を描く途中で爆発して、緑色の煙を吐き出しながら飛んで行った。

 すると銛と網の両方のチームが動き出し、合流のために移動を始める。


「ほー、今ので全部伝わるもんなのか」

「これも訓練の賜物です。おそらくは網チームも状況を察して、ギルドに連絡を付けてくれるでしょう」

「そんなのどうやって・・・あっ!」


 ケルンの言葉を証明するように、こっちに向かってきていた網チームの船から赤い花火のような物が打ち上げられる。

 するとギルドのシンボルでもある灯台の炎が、どうやったのか緑色に変色した。

 

「すごい、色が変わった」

「ギルド側の受託メッセージです。今のでアルフィノエに緊急クエストの連絡が伝えられたはずです」

「アカネちゃんもボーっとしてないでぇ、インスタで呼びかけなさいな」

「わ、分かった・・・けど、あんなのに勝てるの?」

「勝てる勝てないの問題じゃねえ!」

「やるんだよ!」


 熱い男二人の言葉に支えられながら、あーしはインスタを使って世界中の冒険者に助けを求める。

 こういう時、芯になってくれる人がいると頼もしい。二人なら猶更ね。


 海という超アウェーなフィールドで怪獣みたいな化け物と戦おうというのに、ドローンから見渡す漁船団のみんなは誰一人として下を向かず、それどころかむしろ楽しそうにしている。・・・祭りか何かだと思っているんじゃないだろうか。


 銛と網のチームが合流する頃には辺り一帯が暗雲に飲まれ、激しい雷雨が降り注ぐ最悪の天候に。

 しかしそれでも男たちは、むしろテンションを上げながら嬉々として舵を握っていた。


「行くぞお前らぁアアアアアア!! アルフィノエの冒険者の意地、見せてやろうじゃねえかアアアアアアア!!」


 大荒れの天気で声なんて聞こえないハズなのに、心で繋がっているのかそれぞれの船が掛け声を上げているのが見て取れる。

 そんな男たちの気合に釣られたのか、海の化け物も大声を上げて再び姿を現した。


「撃てえええええええええええええ!」


 アセムの攻撃支持に従って、全ての船が飛び上がった化け物へ向けて攻撃を開始。

 ラクティスと比べて全体的にレベルが上がっているからか、放たれる魔法の規模や矢の威力が数段上がっているように見える。


「なぁ、俺は?」

「休憩」


 ゼルは当然攻撃に参加させていない。船の守りはもちろんのこと、魔力切れになったりなんかしたら目も当てられないし。


「どうだ、ケルン!」

「効いてませんね・・・。あの鱗、見た目以上に固いです」

「マジか・・・」

「えっ、効いてないの!?」


 低いうめき声を上げて再び沈んで行った化け物をドローンで追いかけると、ケルンの言った通り、全身に攻撃を受けておきながら傷一つ付いていなかった。ラクティスでネクに仕掛けた攻撃よりも数段レベルが上がっているのに。


「お前さん今サラっとやったが、あのドローン海の中も見れるのか」

「えっ? ・・・あっ、ほんとだ」

「気づいてなかったのねぇ・・・」


 さすがゴッドローン、防水性能も神レベルか。いやふざけてる場合じゃない。


「どうだケルン! 次はどの辺りから出てくる!?」

「・・・ごめんなさい、目標が大きすぎて細かい位置がつかめない! アカネのドローンなら見えませんか!?」

「ちょっと待って・・・なんか向こうの方で尻尾を振り上げてるよ! 海岸の方!」


 あーしの言葉に全員がその方向を向けば、ちょうど化け物の尻尾が海面から現れたところだった。

 さっきのお返しとでも言うように、複数の漁船に向かってその巨大な尻尾を振り下ろす。


「危ないッ!?」


 そう叫んでも間に合うはずもなく、尻尾を叩きつけられた漁船は嫌な音を立てて崩れ落ちていく。

 さらにそのまま尻尾が海面に叩きつけられたことで、強烈な波が残った漁船団に襲い掛かる。


「キャアアアア!?」

「一撃・・・洒落になってないわねぇ」

「並のプリーストじゃ防ぎきれねえだろうな。俺様は別だが」

「言ってる場合じゃないから! 乗ってた人たちは!?」

「救助は網チームに任せてある! 俺たちはここまま戦闘続行だ! 街から応援が来るまで持ちこたえる!」


 何の特殊能力でもない、純粋な力であっさりと沈められてしまった漁船を見て、あーしは全身に鳥肌が立ってしまう。

 生き物としての格の違いに、本能的な恐怖を感じてしまっていた。


「アカネ、索敵をお願いします! 海で敵の出方が分からなければ、まともに戦う事も困難になります!」

「わ、分かった! ・・・あれ?」

「どうしました!?」

「いや、なんか・・・どこ見ても真っ暗で、何も見えないんだけど」


 さっきまで濁った海中の景色を映していたスマホの画面は、今はドローンの後光でかすかに照らされた狭い範囲を映すだけ。

 どこを向いても真っ暗、というかそもそも動いているのかすら怪しい。ここは一体・・・?


「・・・食われたんじゃねえか?」

「・・・・・・」

「あぁ、確かにあれ、変な後光で悪目立ちするものねぇ」

「あーーーーーーもーーーーーーー!! せめてOFF機能くらい付けといてよもぉーーーーーー!!」


 クソみたいなダジャレのせいで陥ったピンチに、いよいよあーしは頭を掻いて叫んでしまう。ただでさえあーしは戦闘で役に立てないのに!


「チッ、しょうがねえ。ここは俺様が魅せるっきゃねえな! アセム! 船の守りは頼んだぜ!」

「構わんが、何をする気だ!?」

「俺様のスペシャルコンボなら、あの鱗もブチ抜ける」

「・・・無理だと思う。倒しきる前に、ゼルさんの魔力が尽きる」

「ドタマぶち抜いてやれば、さすがにくたばるだろ!」

「・・・豪胆ですね、あの妖精の方」

「いつものことよぉ」


 相変わらずのゼルっぷりを発揮して、一人空高く飛んでいくゼル。こんな時ドローンがあれば、ゼルが上で何してるか分かるのに。

 なんて考えていた、その時。


「・・・えっ?」


 同じように海中から飛び出してきた化け物が、ゼルを丸飲みにした。



 えっ、うそでしょ?



 ゼルが、喰われた。



「ゼッ、ゼルーーーーーー!!」

「待って、落ち着いてアカネさん!」

「だってゼルが! あの化け物に!」

「落ち着きなさいな! アナタが行っても意味ないでしょう?」


 化け物へ向かって動くあーしの体を、ルビーちゃんとネクが押さえつけてくる。


 心臓が痛いほどに脈打つ。呼吸がうまくできない。

 ウソウソウソ、そんな、ゼルが。


「・・・ルビー、アナタが面倒みてあげなさい」

「了解」

「あの、アカネは大丈夫でしょうか?」

「ゼルさんは、アカネさんが最初にパーティを組んだ人。きっと、アカネさんの支えになってたんだと思う」

「だったら連れ戻してやんないとなァ!」


 心臓と雨の音が妙に大きく聞こえる中で、忙しなく動く足音が聞こえた気がした。

 あーしの傍には、ルビーちゃんがいる。


「大丈夫アカネさん。ゼルさんはそう簡単に死んだりしない。それはアカネさんが、一番良く知ってるはず」

「・・・そうだよね、ゼルは生きてるよね」

「絶対。だから、連れ戻してあげないと」

「どうやって・・・?」

「分からない。けど、それはいつもの事だから」


 そう言って、ルビーちゃんはニコっと笑う。

 

 そんな笑顔すら叩き潰そうと現れる、巨大な尻尾。


「今度は俺たちの船が狙いか! 面白え!」

「気を付けて下さいね、アセム」

「おうよ! 『アーマーライズ』! 『パワーライズ』!」


 迫る尻尾を前に、魔法で自身を強化したアセムが大きく飛び上がって迎え撃つ。


「『スマァアアアアアアアッシュ』!!」


 固い拳と鱗がぶつかり合い、鈍い音が周囲に響く。

 アセムの放った右ストレートは迫る尻尾を左へと受け流し、船への直撃を防いだ。

 そうして空中で身動きが出来なくなったアセムをネクの糸が絡め捕り、船の上へと連れ帰る。


「クッソ・・・マジで固えなあの野郎!」

「アセム!? 腕が・・・!」

「モンクの一撃すらこれとはねぇ・・・」


 化け物の尻尾を殴りつけたアセムの右腕は、あらぬ方向へと曲がってしまっていた。

 渾身の一撃でさえダメージを与えられなかったという事実に、アセムは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


 プリーストの魔法で傷は回復は出来ても、このままじゃいずれ魔力は底を尽きる。

 打開策が見つからないままなら、いずれジリ貧であーしたちは為すすべなく食べられてしまうだろう。


 せめて、街から応援が来るまで持ち堪えられれば。


 でも、それまでにゼルは生きていられるだろうか。


 むしろ、それまでに生き残っていられるのか。



 そんな考えが浮かぶあーしを、あざ笑うかのように。


「マズイ! もう一回来ます!」

「嘘でしょう・・・今度は船ごと食べる気みたいよあの子ぉ・・・」

「全員避難の準備だ! 船を捨てるぞ! 『シェル』!」


 尻尾を殴りつけられたことに腹を立てたのか、今度は大口を開けて船に迫る化け物。

 アセムはケルンたちに指示を出して、傷の回復を途中で切り上げて壁の魔法を唱えた。

 しかしゼルの魔法とは違って、船の前面部分しかカバーできていない。


「たぶん長くはもたねえ! 早く脱出しろ!」

「アセム! あなたは!?」

「俺は大丈夫だ、心配ねえ」

「・・・行くわよぉ」

「イヤ! アセム!」


 泣きわめくケルンをネクが糸で絡め捕るものの、必死で抵抗するせいで中々移動することが出来ない。


「いい加減にしなさいな! アナタたちも手伝いなさい!」

「・・・了解!」


 ケルンを二人がかりで引っ張っている間に、いよいよ化け物の大きな口がすぐ傍まで迫ってきた。

 船首から見える視界すら塞ぐその巨大な口は、どう考えてもアセムの壁の魔法のカバー範囲を越えている。


「アセムーーーーーーーー!!」


 激突の一歩手前、泣きわめくケルンを抱えながら、いよいよ船から飛び降りようとするあーしたち。


 最後に一瞬だけ後ろを降り向いたその時、迫っていた化け物は突然腹の底から出したような叫び声を上げ、のけ反るようにして進行を止めた。

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