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異世界インスタ  作者: 五寸
第2章 アルフィノエの騒乱
31/117

4話

「うへぇ・・・」


 酒場での晩ごはん中、あーしはスマホの画面を見ながらそう呟いた。


「どうしたよアカネ、食べねえんなら俺が貰うぞ」


 そう言ってゼルは、あーしのお皿に乗せられたイカのお刺身を横取りして口に放り込む。いいよいいよ、どんどん食べちゃって。


「アカネさん、レベル3になってる」

「おぉ! よかったじゃねえかアカネちゃん!」

「おめでとうございます、アカネ」

「レベルが上がった反応じゃないわよそれぇ」

「水着の記事が効いたか」

「まぁ・・・そうなるね」


 隣から覗き込んでいたルビーちゃんの呟きを聞いて、それぞれなりに祝福してくれたみんな。

 ゼルの言う通り、インスタに上げた水着写真の記事はネクを筆頭にぐんぐん伸びていき、『いいね』はもちろんフォロワー数はついに三千を突破。めでたくレベル3に到達した。

 とはいっても、別に水着写真の伸びであんな反応になった訳じゃない。水着は水着でちゃんと見てもらうためって所もあるし、いやらしいのはそもそも上げてない。

 あーしがあんな反応になったのは、別の理由がある。


「レベルが上がってアプリ・・・スキルみたいなのが追加されたんだけど・・・その、『GoDrone』ってのが」

「ゴッドローン? なんだそりゃ?」

「さぁ?」


 失笑しながら返事を返す事しかできないあーし。

 いやまぁ大体想像は付くんだけど、もうちょっとこう、マシな名前無いの? なんでダジャレばっか?


「どんなスキルなんだ? 見せてくれよ」

「わ、分かった」


 今度アプリについても教えとこうなんて考えながら、あーしは光る玉のような物がデザインされた『GoDrone』のアイコンをタップする。

 するとテーブルの上に白い小さな魔法陣が浮かび上がり、そこからアイコン通りの小さな玉のような物が現れた。


「うぉっ、なんじゃこりゃ?」

「初めて見るわねぇ」

「不思議、どこから見ても光ってる」

「インスタグラマーってのは不思議なクラスだな」

「アカネ、これは一体何なんですか?」

「いや、あーしが思ってたのとちょっと違うなコレ・・・」


 ゴッドローン。名前的に多分ドローンか何かを呼ぶアプリだと思ったんだけど、出てきたのは機械じゃなくて、正体不明の小さな玉一つ。

 テニスボール程度の大きさのそれは、金属っぽい見た目の割にめっちゃ軽くて、かといえば落としても傷一つ付かないくらい頑丈。

 一応スマホの方も確認してみれば、いつものカメラ画面に仮想コントローラーのアイコンが追加されている。

 まさかなぁ・・・と思いながら触ってみると。


「うぉっ!? 飛んだぞコレ!」

「びっくりした」

「何をしたのぉアカネちゃん?」

「えーっと、とりあえず説明するね」


 正直あーしとしてもドローンに詳しい訳じゃないし、さらに言えばアレがドローンなのかも怪しいまま、あーしなりにドローンについての説明を始める。

 ざっくり簡単に、あの光る玉からの目線で写真が撮れるスキル、という風に覚えてもらった。


「ほー、また相変わらずのユニーククラスっぷりだな。意味が分からん」

「褒めてんのそれ?」

「でもこれなら、安全な場所で色んな写真が撮れる」

「これであの変な後光みたいなモンがなけりゃ、斥候みたいに使えたかもしんねえのにな」

「本当に、あの後光は何なんでしょう? どこから見ても光っていて、光源が分からない」


 たぶんあれがGOD成分なんだと思う。ダジャレの為にいらん機能つけてくれちゃって。

 まぁ夜でも光源の心配がないって考えればいいか。


「斥候には使えなくても、黄金橋の探索には使えるんじゃないかしらぁ」

「おぉ! それいいな!」

「なるほど! いい考えですね!」

「たまには役に立つじゃねえかクモ女」

「たまにって何よぉ!?」


 いきなり出てきた新ワードで、あーしを置いてけぼりに盛り上がるみんな。こういう時異世界人は辛いな。


「ねぇ、オウゴンキョウってなに?」

「・・・あぁ、そうか。OK、説明してやる」


 ゼルは一瞬マジかお前みたいな表情を浮かべた後、何かを察したように優しい表情に変わる。せめて何か言って。異世界人も辛いんだから。


「『失われた黄金橋』、かつて黄金の橋が架かっていたとされる跡地の事だ」

「いつ誰が何のために作ったのか、何処に向かって架かっていたのか、いつ失われたのか、全てが謎に包まれている、世界最大の謎」

「どの文献にも失われた後の事しか書かれていない、学者の多くが追求する題材の一つです」

「へぇー、この世界ってけっこうミステリー多いよね」

「その橋を見つける為に、冒険者になったってやつも多いからな!」

「アタシの前の職場でも、結局橋を見つけないとって結論に落ち着いたわねぇ」


 前の職場っていうのは、もちろん魔王軍の事だろうか。魔王軍もそういうの調べたりするんだ。

 そしてその魔王軍でも、何も分からなかったと。


「つまり、その黄金橋をあーしのドローンで探すってこと?」

「それもいいけど、どちらかと言えば橋の先の探索をお願いしたいわぁ」

「橋の先?」

「霧に包まれて何も見えねえんだ。色んな方法で霧の向こうへ突っ込んだヤツもいたらしいが、誰一人帰ってきてないんだと」

「一気にホラー感増してきたね・・・まぁ確かに、そういうのにはうってつけかもね。いつか行ってみるのもいいかも」

「場所は王都と魔王城のちょうど中間あたり」

「・・・だいぶ先の話になりそうだね」


 イカに全滅されかけたあーしたちには、当分先の話だろう。


「その通り! 脱線しちまったが、今夜は魔物漁についてレクチャーしようって話だったろ! そろそろ始めるぜ!」

「あっ、すっかり忘れてた」

「海での戦いは陸とは勝手が違いますから、ちゃんと覚えて下さいね」


 そうしてあーしたちはアセムとケルンのレクチャーを受け、翌日の魔物漁へと備える事になった。






 翌日の早朝。

 あーしたちはアルフィノエの海岸から少し離れた場所にある、港へとやって来ていた。

 港には大小さまざまな船が泊まっていて、それぞれの派手で特徴的な旗が風を受けて揺らめいている。

 アセムを始め港に居る人たちは皆忙しなく、あっちこっちと常に動き回っては何やら色々と準備をしている姿がどこを向いても目に入る。

 そんな中で、あーしたちは隅っこに立ちながらアセムたちの準備をぼーっと見守っていた。


「いいの? あーしたち何もしないで」

「今は素人の出番なんてねえよ。俺たちは海に出てからが本番だ。お前さんも眠いなら顔洗ってこい」

「なっ、別に眠たくないし!」

「さっき思いっきり欠伸してたわよぉ」

「言わないでよもー!」


 相変わらずのグダグダっぷりをかますあーしたち。ケルンに怒られないか心配だ。

 そんなあーしたちの目の前にあるのは、港の中でもひと際大きいアセムの船。

 異世界の文字で大漁と描かれた大きな旗を見るに、文字が違うだけで人の感性は変わらないんだなぁと考えさせられる。

 ビーチばっかりに目が行きがちだけど、こういう男のロマンあふれる光景も悪くないね。いっぱい撮っておこう。


 そうして暇つぶしがてら港の色んな風景を撮影していると、こっちに向かってくるケルンの姿がフレームに映り込んだ。


「お待たせしました皆さん。もう少ししたら出航するので、船に乗り込んでください」

「待ちわびたぜ」

「船に乗るのは初めてねぇ」

「私も」

「あーしも初めてかも」


 ケルンの案内に従って、思い思いの感想を述べながら船に乗り込むあーしたち。足の裏に伝わる波の揺れが、今から海へ出発するんだという事を強く実感させてくる。

 あーしは少し興奮しながら船首の方へ移動して、各々出航の準備を整え始めた港の船を改めて見回す。


「改めて見ると結構いるねー」

「ギルドを通して街の冒険者にも応援を出しましたから。特別報酬も出ますし、いつもの倍はいますね」

「こんだけ居れば抑えられそうか?」

「倍の数ですからね。これで逃したらいよいよ信用問題になります」


 ケルンは苦笑しながら軽く尻尾を揺らす。

 笑いながら冗談を飛ばすその余裕は、さすがアセムの相棒と言ったところ。


「改めて注意しておきますが、漁の間は船が常に揺れ動きます。物にぶつかったりだとか、船から振り落とされないように各々注意してください」

「わ、分かった」

「俺様は浮いてるから問題ねえな」

「私も飛べるし、なんなら泳げる」

「アタシは糸があるから平気よぉ」

「杞憂だったみたいですね。安心です」


 いやあーしは全然杞憂じゃないと思うんだけど。

 当然ながら、中世ファンタジーのこの世界に救命胴衣なんてすばらしい物は存在しない。

 なのであーしたちの格好はそれぞれ、水着の上にシャツだけ着たり、海パン一丁だったり、何を考えているのか分からない過激な水着と、身を守る事なんて一切考えていない装備になっている。

 その上ほぼ一般人のあーしは、何の対策も無しに魔物ひしめく海の上で耐え抜かなければならない。・・・やっぱあーしは止めといた方が良かったかな。

 こういう時は現代日本が恋しくなる。安全第一という言葉の大切さが身に染みるわぁ。・・・まぁみんなが守ってくれるとは思うけど。


 あーし一人だけが若干不安になっていると、不安ごと吹き飛ばしてしまいそうな明るい大声を挙げて、アセムが船に乗り込んできた。


「よっし! 待たせたなみんな! そろそろ出航だ、気合入れてけよ! 期待してるぜゼル!」

「おう!」


 熱い男二人はバシッとハイタッチを交わし、アセムはそのまま大きなホラ貝を持って船首へ向かう。

 アセムは口にくわえたホラ貝を高々と掲げ、一気に空気を送り込んで重厚な音を港全体に届ける。

 初めて生で聞いたな、ホラ貝の音。


「行くぞ野郎ども! 出航だアアアアアアアア!!!」


 アセムの合図に続いて、港全体から掛け声が帰って来る。なんかこういうの気持ちよさそうで羨ましいな。


「アカネさん、隙が無いね」

「ええ、驚きました。何も言ってないのに撮影を始めるなんて」

「えっへへ、インスタグラマーだしね」


 アセムの持つホラ貝を見たあーしはインスタ映えの気配を感じ、咄嗟の判断で動画モードに切り替え、今までの一部始終を撮影していた。

 レベル3になったんだし、これくらいはできないとね。


「その調子で、俺様の活躍もばっちり撮っといてくれよ」

「撮りはするけど、伸びるかどうかはゼル次第だからね」

「ネクさん、いっぱい捕獲するのを期待してる」

「アタシの糸は漁網じゃないんだけどぉ・・・分かったからそんな目で見ないでちょうだい」


 あーしたちを乗せた船は、どんどん水平線に向かって進んでいく。

 元の世界での漁も経験のないあーしが挑む、異世界での魔物漁。

 不安要素はてんこもりだけど、アセムやケルンがいるし、さらにいつもの倍の冒険者もいるから大丈夫でしょ。

 ・・・なんて、フラグにはならないよね、これ。

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