第七章:膨れる借金と大物狙い
映画ノベライズ『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(おかわり)』第七章「膨れる借金と大物狙い」をお届けします。
妖怪との死闘の裏で、妖怪ハンターたちが直面する最もリアルでシビアな問題……それは「お金」!
今回は、命がけで戦ったのに見合わない賞金や、かさむアイテムのローン請求に頭を抱える雛の、なんとも世知辛い日常シーンです。一獲千金のために飛び出した「ヤマタノオロチ」の話題から、なぜか大和の名字を巡って七海の乙女心(?)が暴走する、クスッと笑えるコメディ展開をお楽しみください。
夜の居間。大和と雛がテーブルを挟んで座っていた。大和は手元で導線のようなものをいじりながら作業をし、雛は数枚の書類に目を通している。
「ムカデは爆弾で簡単に退治できると思ったけど……。やっぱりなんだかんだでトラブル続きで、ハプニングばっかりだし」
大和は手を動かしながら愚痴をこぼした。
「それにしても雛ちゃんてひどいよ。ノヅチが出るなんて聞いてないし」
「うん、私も聞いてないし」
雛は書類から目を離さずにあっさりと返す。そして、はぁーっとため息をついた。
「はぁ、ムカデとノヅチか。苦労の割には賞金少なかったな」
「いや、いつも苦労してるの僕なんですけどね」
大和が少しむっとしたように言い返す。
「爆弾も効かなかったし」
「そう。ノヅチに爆弾は効かない」
「いや、だからそういうの知ってたんだったら、先に言っていただけてもいいんじゃないかと」
「何でも吸い込んで、何でも消化する。だから爆弾も、爆発も、全部消化しちゃうってわけ」
雛は淡々と説明した後、「はぁ……」と手元の書類――請求書に目を落とした。
「七海の借金は帳消しになったけど、伊神のやつとは連絡取れないし。あいつ、がしゃどくろの時の協力代の五百万、踏み倒す気なんじゃ?」
「え?」
大和が驚いて顔を上げる。
「ああ、絶対そうだ。いやだー!」
雛は頭を抱え、髪をかきむしるようにして嘆いた。
「身代わり地蔵のお金も払わないといけないし……たっか!お札の三年ローンも残ってる」
手元の請求書には、『身代わり地蔵』の高額な請求や、『お札』のローンがはっきりと記されている。
「ああ、それに加えてロレッタの修繕費、葛城さんにも払わないと。消費税までついてご丁寧にどうも。はぁ……」
『葛城人形店』からの人形修理代の請求書を見つめ、雛はさらに深いため息をついた。
「……」
大和は何も言えず、ただ黙って雛を見ていた。
「これじゃあ借金が膨れる一方だよ」
雛はうなだれた後、意を決したように顔を上げた。
「ちょっと危ないけど、大物倒すしかないか」
「大物か……」
「一番賞金が高いのはヤマタノオロチだけど、出会える確率はめったにない。まぁ、メタルスライム並み?」
その時、襖が開いて赤い服を着た七海が部屋に入ってきた。
「キングメタルスライム並みって言った方がいいかも」
「えっ!あのさ、やっぱりスライムとかっているのかな」
大和が身を乗り出して聞く。
「「それは例えだから」」
七海と雛の声が綺麗に重なった。
「そうなんだね」
大和は少し残念そうに納得する。
「そもそもスライムは妖怪じゃないし」
と雛。
「そっか」
大和は気を取り直して尋ねた。
「もしかしてあのさ、ヤマタノオロチってさ、あのスサノオノミコトが倒したってあの、頭が八つで尻尾が八つのあの妖怪のことだよね?」
「うん」
七海は頷き、語り始めた。
「毎年ヤマタノオロチに娘を食べられている老夫婦に、最後の娘クシイナダヒメを助けてくれと頼まれて。スサノオノミコトがオロチに酒を飲ませ、酔っ払って眠り込んでいる間に見事オロチを退治して、クシイナダヒメをお嫁にもらったっていう伝説の」
「へえー」と大和が感心する。
すると、その伝説を再現するように、ロレッタが机の上で寸劇を始めた。三つ首のおもちゃの怪獣をオロチに見立てて前に青いコップを置き、オロチがそれを飲んで倒れ込んだところへ、白い棒を振り下ろして首を切って退治する。
「氾濫を起こした川、つまりヤマタノオロチが、その周りの田んぼ、すなわちクシイナダヒメを飲み込もうとするけど、スサノオによって治水されて助かったっていう話」
雛が補足する。
「へえー」
「八人姉妹でたった一人助かったのがクシイナダヒメ」
七海は二人の横に座り、ノートに鉛筆で文字を書き始めた。
「クシイナダヒメ。イナダヒメ。イナダヒナ」
「イナダヒナ?」
七海は自分で書いた文字を見て、怪訝そうな顔をした。
「絶対にありえない」
七海は消しゴムでゴシゴシと『イナダヒナ』の文字を消し、その下に新たに『イナダナナミ』と書き込んだ。そして、それを見つめて思わず「んっ、ふふっ」と笑みをこぼす。
その様子を不思議そうに見ていた大和が声をかけた。
「七海、何してんの?」
「え? 何でもない」
七海は誤魔化すように真顔に戻り、大和を見た。
「いや、でも……」
大和が食い下がろうとすると、七海は強い口調でピシャリと遮った。
「何でもない!」
その迫力に押され、大和は小さく頷いた。
「あっ、はい」
第七章「膨れる借金と大物狙い」、いかがでしたでしょうか。
お札のローンや身代わり地蔵の請求書、さらには第五章で登場した葛城からの「ロレッタ修理代」まで飛んでくるという、生活感あふれるハンターの裏事情がコミカルに描かれました。畳の上でヤマタノオロチ伝説を実演するロレッタの可愛らしい寸劇も、本作の癒やしポイントです。
そして、密かにノートへ「イナダナナミ(稲田七海)」と書いてニヤニヤする七海。大和をめぐる微妙な恋の矢印も見え隠れしてきましたね。
作中で大物として名前が挙がった「ヤマタノオロチ」。映像版では、がしゃどくろなどの特撮ミニチュア操演とは異なり、その巨大な多頭の姿が迫力の3DCGでダイナミックに表現されています。特撮表現の使い分けにもこだわった本編映像は、各配信サイトでご覧いただけます。
果たして彼らは借金返済のために大物と戦うことになるのか? 次章の展開もどうぞお楽しみに!




