【番外編SS】所有印
「少し足りない気がするな?」
それは契約妃になって数日後のこと、アーネスト様が首をひねりながらそんなことをおっしゃった。
「足りない、とは?」
「ミーナの寵愛具合だよ。もっと明確に周囲へ示したほうがいいと感じたんだ。毎日金剛宮を訪れているだけじゃ、俺たちの関係を疑われかねないだろう?」
「そう……でしょうか」
ソフィア様からはネチネチと嫌味を言われたぐらいだし、十分示せている――というか、騙せていると思うけど。
「他の宮殿の人間はさておき、金剛宮の使用人たちの反応が心配なんだ。俺たちは実際に体を重ねているわけじゃないし、ミーナの侍女たちが関係を邪推したり、そこから妙な噂が広がったりすることもあると思う」
「なるほど」
そう言われてみると、侍女と宮女はわたしや寝室を直接見るわけだから、いずれ寵愛の事実なんて一つもないことに気づかれてしまうかもしれない。だからといって、どうしたらいいかはわたしにはわからないけど……。
「ミーナ」
「へ?」
ふわりとベッドに押し倒され、驚きとともに心臓が大きく跳ねる。
「ア、アーネスト様?」
「少しだけ痛むと思うけど、許して」
アーネスト様が妖艶に笑う。パニックになっているわたしをよそに、アーネスト様はわたしの胸元に唇を寄せた。
チクリと鋭い痛みが全身に走る。優しく抱かれた両肩と、素肌に触れたアーネスト様の唇の温もりに、胸がありえないほどドキドキと鳴る。
(どうしよう……アーネスト様にバレちゃう)
落ち着かなきゃって思っているのに、体は全然言うことをきいてくれない。まるで全身の血液が沸騰したんじゃないかってくらい熱いし、ふわふわとして力がちっとも入らない。
そんなわたしに気づいたのか、アーネスト様はわたしの手を取りご自分の背中へと誘導する。チラリと見えた眼差しから『縋り付いていいよ』って言われている気がした。
(アーネスト様はズルい)
いつもわたしを翻弄してばかり。わたしがこんなにもドキドキして舞い上がっていること――契約を続けるための偽りの寵愛にすら喜んでいることを知らないんだもの。……ううん、知っていて、わざとやっているんじゃないかとすら思う。だけど、そんなアーネスト様がわたしは大好きなわけで……。
「……うん。これで誰が見ても、ミーナが俺のものだってわかるね」
アーネスト様はそう言って、満足そうに微笑む。
消えなければいいのに――ううん。寧ろすぐに消えてしまったらいいのにって、そう思った。




