5 中谷さんが繋ぐ
とはいえ、本物のお医者さんに診てもらうのが一番良い。私と嵐君はナースステーションに行くことになった。後藤さんと徹君から、是非とも手を繋いで行け、と言われて手を繋いで廊下を歩いている。
落ち着くような、ドキドキするような。
「中谷さん、俺、全健忘の間の記憶が無いんだけど、どうだった?」
不意に嵐君にそう聞かれ、私は返事に困った。全健忘の間の嵐君ねぇ……。そうだな、好青年だった。それをそのまま嵐君に伝えると、複雑な顔をされた。さぞかし心境も複雑だろう。
「普段の俺って好青年じゃないのか……」
「好青年って言葉、似合わなーい」
「……ショック」
嵐君とこんな会話が出来る日は、うんと先だと思っていたから本当に嬉しい。私がどんなに失礼なことを言っても、嵐君は決して怒らない。だから失礼なことを言っても良いわけじゃないけど、ついからかってしまう。
「中谷さん、俺が全健忘の間、泣かなかった?」
「あなたに押し倒されるまで泣いてました」
「絶対、事実と違う。泣いてたのはマジだろうけど」
うーん、やっぱり嵐君はこうじゃないと。スパッと切り返してくる嵐君が、私は好きだ。嵐君に好きだなんて言ったことないけど、それでいいんだけど、私は嵐君の隣りに居られるのが一番落ち着くし、笑顔になれる。
なーんて、こんなことを言ったら今の嵐君でも顔を赤くするかな。私は歩きながら、そんなことを考えていた。




