1 持ち込み禁止物
「むー……むむむむ、む」
周囲は穏やかな昼下がり。223のベッド上にK型の医学書を開き、一向にページを捲ることが出来ないことに唸り声を上げてしまう、俺、雨宮 嵐。だって、書いてあることが難しい上に字が小さいんだよ!
後藤さんは優雅にペットボトルの紅茶を飲んでいるし、徹君もぐっすりと昼寝中だし、余裕がない状態なのは俺だけ。K型の医学書を読もうと試みたのは、かれこれ数時間前。まだ定義のところで止まっている。
「嵐君、休憩したらどうだい?」
「そッスねー……今日はもうここまでにしようかな」
俺は付いていた栞を挟み、分厚い医学書を閉じた。この医学書、後藤さんなら難なく読めそうだけど俺には素手で崖を登るくらい難しい。かといって、後藤さんに読んでもらってそれを分かりやすく教えてもらう、なんてことは出来ない。後藤さん、K型の勉強したがってたけど、この医学書を渡されたの、俺だし。
俺がK型を──中谷さんを理解しないと意味が無い。恐らく、自力で。
そういえば、中谷さんは午前中にちょっと遊びに来たけど午後はまだ来てないな。昼寝でもしてるのかな。すっかり中谷さんが223に居るというのが当たり前になってしまっている。看護師さんも何も言わない。
「午後は中谷さん、来ないねぇ」
「あ、俺も同じこと考えてました」
後藤さんも中谷さんが居ないと落ち着かないようだ。退屈を尊いとした俺たちだが、やはり人間、順応していくらしい。そんな時だった。223の扉がノックされる。ようやく来たか。




