14 ヘアピンdeアームカット
「院長先生、なんスか、これ」
「見て分からんかね、医学書だ。K型と病理外健忘症の」
「……俺が読むんスか?」
「他に誰が読む。まぁ、君には石見から聞いたK型の基礎知識はあるだろうが」
い、石見さん、院長に中谷さんの個人情報を流したことバレてますけどクビは大丈夫ですか。俺、石見さんの居ないこの病棟なんて嫌ですよ。ていうか、患者に他の患者の病気の知識を与えてどうするつもりなのか、院長よ。
そういえば、さっき相互作用がどうとか言ってたけど、あれもどういうことなのか。
「院長先生、俺と中谷さんが仲良いと二人とも病気的なもの良くなるんスか?」
「あぁ、私はそう見込んでいる。だから、K型の医学書も渡したんだ。貴重なものだぞ」
……うーん。ついに俺の223での平和も脅かされ始めた。223で医学書を読む生活なんて、出来れはしたくないんだが。でも、K型の方は読んでみたいし。仕方ない、しばらくは退屈も平和も諦めるか……。
ていうか、俺の現状を「病理外健忘症」っていうのは初めて知った。
「じゃあ、もう二人とも寝なさい。それぞれの病室で、な」
そう言い残して、院長は今度こそ退場した。それぞれの病室で寝ろって、何を当たり前のことを。それぞれの病室の自分のベッドで寝る以外に何か選択肢でもあるのか?……あるか、同じベッドで寝ちゃうとか。
いや、いやいやいや。さすがに中谷さんが泣こうと俺は自分のベッドで一人で寝るぞ。
「中谷さん、戻ろうぜ」
「一人で寝るの、嫌だなぁ……」
「……仕方ない奴」
俺はそっと中谷さんを抱き締めた。明日の朝も抱き締めてやるから頑張って一人で寝ろ、と囁きながら。それで中谷さんの心細さは取り去れたようで、この晩、俺は223で。中谷さんは自分の個室で。別々に寝ることに成功した。
頭を撫でたり抱き締めたり、中谷さんはまるで俺のかの、じゃない。そうじゃない、妹みたいだ、妹。




