2 続・中谷さんがやってきた
夕方の薬を受け取りつつ、俺は看護師さんに恐る恐る聞いてみた。付き合いも長いし、多少の個人情報くらいなら横流ししてくれる、ゆるーい看護師さんに。名前は、石見 麗さんという。俺とそう年齢は変わらない。
「石見さん、隣りの中谷さんって近寄らない方がいい人ッスか?」
「あー、中谷さん?まぁ、最重度個室に入ったくらいですからねー」
「具体的に、どこがどう危険なんスか?」
俺は石見さんの返事を待つ間に薬を飲み干す。俺の夕方の薬は液剤だった。味は限りなく不味い、酸っぱ苦い何とも言えない味だ。石見さんは珍しく、ホイホイと俺の突っ込んだ質問に答えてくれなかった。
さすが、"あの"中谷さんに関する情報。
「うーん、んん……」
「教えてくれたら、今度、俺を新米看護師さんの採血の練習台にしてもいいッスよ」
「本当に!?」
「マジッスよ。だから、中谷さんの情報、ちょーっとばかしください、死にたくないんで」
後半の「死にたくないんで」は結構、本気で言っていた。重度の記憶障害の俺は重要なこともポンポン忘れるが、生きる為に必要なことはほとんど忘れない。一度聞いておきたい。彼女の歪みは、どこなのか。
一見、どこも悪くないように見えた中谷さんだが、精神科病棟において正常に見える患者が正常だとは限らないし、むしろ、明らかに病気だ、という患者の方が裏表が無くて安全なのである。
中谷さんにはきっと、裏表がある。俺は確信していた。




