最終回「大人しくしている」
6
午前0時の静かな時を経て、三上投手が経験したきつかったことを夢で見ていたと気づいた。
ーああ、もう大変な時期は過ぎたんだな。。。
きつかったことは、夢で起きるので充分だ。
それとなしに、外を歩いてみる。朝焼けの涼しげな六月。散歩している人もちらほら。
挨拶をする。
ーおはようございます。
ーおはようございます。
そういったやり取りが、とてもこころを静まらせる。
清々しい気持ちになることが、今の三上投手には必要なことだ。
家に帰り、電気治療をする。
朝の日課は、特になし。とにかく体を治せ。チームからは、そう言われている。
次の週もまた同じ夢を見る。
体を壊した日の夢だ。
それは、連続して見るのではなさそうだ。
今日は、街まで出て買い物に行こうと思った。本でも買って読んでみたいと思った。
電車に乗る。普段していないことをするのは、緊張してしまう。
手に汗を掻いている。プロということは、バレてしまったか。仕方ない。自然にしていれば、問題は起きないだろう。駅について大勢の客の中、歩いて階段を降りる。混雑していて、目のやり場がどこなのか、知らないでいる。前を向いていよう。そう思った。
改札を出て、すぐの店に入る。本屋はそこにあった。
何か笑ったりできる本が良いと思って、落語家の書いた本があったので、それを買った。
最初は笑ったりできたけれど、何か虚しくなってきて、笑えない。
ーこんなものか・・・。
大人しくしている。
7
とにかく自分にしっくり来る言葉。
張り切っていた緊張の糸が解けた時の言葉は、「金属疲労」というものだと、本を読む日々から学んだ。
鉄錆でポキっと折れてしまったのだった。
基本的には、「うつ病」と診断も下った。
肘は精神的な疲労から、肉体的な疲労まで、全ての顕現だった。
これからは、指導者となれるだろうか?
職に恵まれれば、後進の指導に当たることになるだろう。
もう二度とマウンドに立つことはない。
それを思うと、安堵の気持ちと、夢への挫折の気持ちの入り混じった混乱した気持ちになった。




