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ラスボス前の街が、はじまりの街に宣戦布告した結果――レベル93の将軍が木の棒でスライムと戦う羽目になった  作者: 出水克幸
初心者冒険者がラスボス前の街に行く

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28/28

攻略記録その28 ラスボス戦で、市長が敵と味方の両方になりました


「待てええええ!」


 ガルドの絶叫などお構いなしに、魔王城最深部の空気が一変した。


《中断されていた戦闘を再開します》


《魔王 HP100%》


《勇者一行 戦闘継続》


《追加参加者を確認》


 表示が一瞬止まる。


《ガルド・バルバロッサ》


《所属を確認しています》


 ガルドも止まった。


「……所属?」


 勇者が聖剣を構えたまま眉をひそめる。


「ヴァルハラ市長だろう」


「そうだ!」


 魔王が横から言う。


「だが現在、我の相棒だ」


「違う!」


《所属情報》


《終焉都市ヴァルハラ》


《人類側》


 ガルドが胸を張る。


「見ろ!」


 次。


《パーティー情報》


《魔王本人の相棒》


《魔王側》


 ガルドの胸がしぼんだ。


「待て」


 さらに。


《イベント役割》


《初心者チュートリアル参加者》


《中立》


「増やすな!」


 三つの所属。


 人類側。


 魔王側。


 中立。


 全部。


 ガルド。


 ミーナが嫌そうな顔で表示を見上げる。


「完全に判定が喧嘩してますね」


「直せ!」


《所属を自動調整します》


「お、直るか?」


《状況に応じて最適な所属を使用します》


「直ってない!」


――――


 勇者の視界では、ガルドの名前が緑色に光っていた。


《ガルド》


《味方》


 魔王の視界でも。


《ガルド》


《味方》


 ガルド自身が確認すると。


《あなた》


《中立》


「俺だけ分からん!」


 勇者が試しに聖剣をガルドへ向ける。


《味方には攻撃できません》


「よし」


 ガルドが安心した。


 魔王も片手を向ける。


《味方には攻撃できません》


「こちらからも攻撃できん」


「なら安全だな」


 ミーナが首を振る。


「こういう時は絶対、そんな簡単に終わりません」


「縁起でもないことを言うな」


 勇者が魔王へ踏み込んだ。


《聖光斬》


 巨大な白い斬撃が玉座の間を走る。


 魔王が横へ避ける。


 そして、その延長線上にいたガルドへ。


 直撃。


「ぐあっ!」


 ガルドが吹き飛んだ。


 全員。


 止まる。


「……味方では?」


 ガルドが床から起き上がる。


《ガルド HP-6842》


 勇者が聖剣を見る。


「直接は攻撃できなかった」


 ミーナも理解した。


「範囲攻撃には巻き込めるんだ」


「それ一番困るやつだろ!」


――――


 魔王が試す。


「では」


「試すな!」


《終焉の炎》


 黒炎が扇状に広がる。


 勇者一行は避けた。


 中央。


 ガルド。


「待て!」


 どおおおん!


《ガルド HP-7131》


「お前もか!」


 魔王が少し驚く。


「我の攻撃も当たる」


「感心するな!」


 表示が出た。


《直接指定》


《味方判定》


《範囲内判定》


《戦闘参加者》


 ミーナが額を押さえる。


「名前を指定すると味方。でも範囲攻撃から見ると戦闘参加者だから当たるんですね」


「俺はどこに立てばいい!」


「戦場の外です」


《戦闘エリアから退出できません》


「出られない!」


――――


「なら俺も戦う!」


 ガルドが木剣を抜いた。


 魔王を見る。


《味方には攻撃できません》


「お前を殴れん!」


 勇者を見る。


《味方には攻撃できません》


「こっちも!」


 ガルド。


 剣。


 下ろす。


「俺は何をしに来た」


 レオンが部屋の端から答えた。


「キャンプ帰りです」


「知ってる!」


 ガルドは仕方なく回復薬を取り出した。


「せめて勇者を回復する」


 勇者へ。


《初心者用回復薬》


《使用》


《味方を回復しました》


《+5》


 勇者。


 HP。


 ほぼ変化なし。


「……気持ちは受け取る」


「受け取るな! 虚しくなる!」


――――


 戦闘は再開された。


 勇者が魔王へ聖剣を振るい、大魔導士が後方から魔法を撃ち込む。魔王も黒炎と闇の槍で応戦する。


 そして中央では。


「右!」


 ガルド。


 避ける。


 白い斬撃。


「左!」


 避ける。


 黒炎。


「前!」


 巨大な氷。


「後ろ!」


 闇の槍。


「俺だけ両方避けてる!」


 ラスボス戦なのに、ガルドだけ難易度が倍だった。


 しかも本人は誰も攻撃できない。


「せめて防御させろ!」


《防御》


 構える。


 勇者の範囲攻撃。


《被ダメージ軽減》


 魔王の攻撃。


《被ダメージ軽減》


「防御だけは両方に効く!」


 ミーナ。


「完全に障害物ですね」


「市長だ!」


――――


 その時。


 聖女が広範囲回復を使った。


《大聖域》


 光が勇者一行を包む。


《勇者 HP回復》


《大魔導士 HP回復》


《剣聖 HP回復》


《ガルド HP回復》


「俺も?」


 ガルドのHPが一気に戻る。


「助かった!」


 魔王。


 それを見る。


「ずるいぞ」


「何がだ!」


「貴様だけ敵側から回復されている」


「俺は人類側だ!」


 直後。


 魔王も広域回復を使った。


《深淵再生》


 黒い光。


《魔王 HP回復》


《ガルド HP回復》


「こっちからも!?」


 ガルド。


 ほぼ全快。


 勇者。


 見る。


 魔王。


 見る。


 ミーナ。


「両陣営の全体回復を受け取ってます」


 ガルド。


「……」


 少し。


 考える。


「悪くない」


「受け入れないでください!」


――――


 それから。


 ガルドの立ち位置。


 変わった。


 勇者と魔王。


 両者の間。


 最前線。


「来い!」


 ガルドが叫ぶ。


「何をしている!」


 勇者が驚く。


「どうせ両方から回復される!」


 魔王。


「貴様、開き直ったな!」


 勇者の範囲攻撃。


 当たる。


 魔王の範囲攻撃。


 当たる。


 HP。


 減る。


 聖女の回復。


 戻る。


 魔王の回復。


 戻る。


「俺だけ永久に死なん!」


 ミーナ。


「本来そういう使い方の所属判定じゃないです!」


――――


 さらに。


 別のことが起きた。


 勇者の聖剣。


《聖属性》


 魔王。


《闇属性》


 ガルド。


 両方の味方。


 勇者の聖属性強化が入る。


《攻撃力+30%》


 同時に。


 魔王の闇属性強化。


《攻撃力+40%》


 ガルド。


 木剣。


 光る。


 白。


 黒。


 両方。


「……」


 ミーナ。


「聖属性と闇属性、同時についてます」


 魔王。


「そんなことが可能なのか?」


 勇者。


「見たことがない」


 ガルド。


 木剣。


 振る。


《初心者用木剣》


《攻撃力+70%》


「木剣だけ無駄に強くなった!」


 しかし。


 誰も殴れない。


《味方には攻撃できません》


「意味がない!」


――――


 戦闘。


 十分。


 魔王。


《HP 64%》


 勇者側。


 優勢。


「押せる!」


 勇者が叫ぶ。


 魔王も顔をしかめた。


「さすがに全快でも四人相手は厳しいか」


 ガルドが中央で逃げ回りながら言う。


「俺を数に入れろ!」


「貴様、何もしていないだろう」


「被弾してる!」


「それは戦力ではない」


 その瞬間。


《戦闘貢献度を計算しています》


 ガルド。


「……何?」


 表示。


《勇者側貢献度》


《被ダメージ 42,187》


《回復受領 38,211》


《支援行動 1》


《総合貢献度 3位》


 勇者。


「三位?」


 剣聖。


「俺より高い」


 ガルド。


「被弾だけで!?」


 魔王側。


《ガルド》


《被ダメージ 39,421》


《回復受領 35,900》


《総合貢献度 2位》


 魔王。


「我の陣営でも二位だぞ」


「何もしてないのに両方で上位!」


 ミーナが叫ぶ。


 ガルド。


 少し。


 胸を張る。


「市長だからな」


「絶対関係ない!」


――――


 問題は。


 魔王のHPが50%を切った時に起きた。


《HP50%》


《第二段階へ移行します》


 魔王。


「今度は変身中に殴るな」


 勇者。


「保証はできん」


「保証しろ!」


 黒い霧。


 魔王を包む。


 その瞬間。


《戦闘参加者数を再確認》


 ミーナ。


「……何で今?」


《勇者陣営》


《5名》


 勇者。


「五?」


 勇者。


 大魔導士。


 聖女。


 剣聖。


 ガルド。


《魔王陣営》


《2名》


 魔王。


 ガルド。


 二人。


 同時。


「また俺か!」


 次。


《人数差を確認しました》


《少人数側へ補正を適用します》


 魔王。


 顔。


 上がる。


「補正?」


《魔王陣営》


《攻撃力+50%》


《防御力+50%》


《HP回復速度+30%》


 勇者。


「待て!」


 魔王。


 笑う。


「素晴らしい」


 ガルド。


「俺がいるせいで魔王が強くなった!?」


 ミーナ。


「二人しかいない判定です!」


「俺はそっちに入りたくない!」


《相棒状態》


《継続中》


「解除しろ!」


――――


 第二形態。


 魔王。


 強化。


 さらに少人数補正。


 強い。


「終焉の炎!」


 勇者。


 防御。


《HP-38%》


「威力上がりすぎだ!」


 大魔導士。


「人数補正を消さないと!」


 勇者がガルドを見る。


「こちらから抜けろ!」


「俺はそっちに入ってない!」


「表示では入っている!」


「知らん!」


 魔王もガルドを見る。


「こちらからも抜けるな」


「何でだ!」


「我が強くなる」


「正直に言うな!」


――――


 勇者が表示を操作する。


《ガルドをパーティーから退出させますか?》


《対象はあなたのパーティーメンバーではありません》


「ではなぜ人数に数える!」


 魔王。


《ガルドを相棒状態から解除しますか?》


《共同チュートリアル終了後24時間は解除できません》


「あと何時間だ?」


 ガルド。


 確認。


《残り23時間12分》


「ほぼ丸一日!」


 勇者。


「待てるか!」


 魔王。


「我は待てるぞ」


「お前は有利だからだろ!」


――――


 そこで。


 剣聖がぼそりと言った。


「ガルド殿が戦闘不能になれば?」


 全員。


 見る。


 ガルド。


「……何?」


「戦闘参加人数から外れるのでは」


 ミーナ。


「理屈としては」


 ガルド。


「待て」


 勇者。


 考える。


「ただし直接攻撃できない」


 魔王。


「我も無理だ」


 全員。


 ガルドを見る。


 ガルド。


 一歩。


 下がる。


「待て」


 勇者。


「範囲攻撃なら」


「待て!」


 魔王。


「当たる」


「お前まで乗るな!」


 ガルド。


 逃げる。


「俺は市長だぞ!」


 勇者。


「世界のためだ!」


「その言葉便利に使いすぎだろ!」


――――


 作戦。


 決定。


 勇者と魔王。


 敵同士。


 一時的に。


 同じ場所へ。


 範囲攻撃。


「おかしいだろ!」


 ガルド。


 中央。


 勇者。


《聖光爆裂》


 魔王。


《深淵爆破》


「二人で俺を狙うなあああ!」


 白。


 黒。


 同時。


 爆発。


 煙。


 晴れる。


 ガルド。


《HP 1》


 全員。


 止まる。


「……一?」


 ミーナ。


 表示を見る。


《初心者チュートリアル進行中》


《致死ダメージを受けた場合》


《HP1で耐えます》


 ガルド。


 笑う。


「死なん!」


 勇者。


「なぜだ!」


 魔王。


「初心者保護か!」


 ガルド。


 胸。


 張る。


「初心者チュートリアル最高!」


 ミーナ。


「さっきまでずっと終われって言ってたでしょう!」


――――


 勇者。


「では戦闘不能にできない」


 剣聖。


「毒」


 聖女。


「状態異常でも保護されるかと」


 大魔導士。


「落下」


 ガルド。


「お前ら俺を何だと思ってる!」


 魔王。


 ふと。


 玉座の横。


 見る。


 そこには。


 以前、自分が逃げた。


《魔王専用緊急退避路》


「……」


 魔王。


 考える。


「戦闘エリアから出せばよい」


 ガルド。


「お前」


「死なせる必要はない」


「珍しくまともだな」


 魔王。


 退避路。


 開く。


「ここを通れ」


 ガルド。


「その先は?」


「我も知らん」


「城主だろ!」


「緊急時しか使わん!」


 勇者。


「行け!」


「俺の扱い!」


――――


 ガルド。


 退避路。


 一歩。


《戦闘エリアから離脱しますか?》


「はい!」


 二歩。


《離脱処理中》


 三歩。


 突然。


 青い光。


《相棒との距離が離れすぎています》


 ガルド。


「え?」


《相棒の位置へ自動追従します》


「待て」


 光。


 ガルド。


 消える。


 一秒。


 魔王の真横。


 出現。


「戻された!」


 魔王。


「便利だな」


「お前にだけな!」


――――


 勇者。


 頭。


 抱える。


「追従を切れ」


 魔王。


「切れん」


「戦闘から外せ」


「外れん」


「殺せ」


「死なん」


「……」


 ラスボス戦。


 完全停止。


 原因。


 市長一人。


 レオンが遠くから手を挙げた。


「あの」


 全員。


「何だ」


「ガルドさん、自分で町へ帰れないんですか?」


 ガルド。


「帰還?」


 鞄。


 探す。


 初心者キャンプ。


 支給品。


 残っていた。


《初心者用帰還石》


「ある!」


 ミーナ。


「それ!」


 ガルド。


 握る。


《使用しますか?》


「はい!」


《戦闘中は使用できません》


「ですよね!」


――――


「では」


 ガルド。


 少し。


 考えた。


「戦闘を終わらせればいい」


 勇者。


「魔王を倒す」


 魔王。


「却下だ」


「お前は黙れ」


 ガルドは別の表示を見ていた。


《戦闘から逃走》


 勇者。


「……逃走?」


 魔王。


「ラスボス戦だぞ」


《逃走成功率》


《0%》


 ガルド。


「ゼロ」


 ミーナ。


「当然ですね」


 ガルド。


 押す。


《逃走に失敗しました》


「もう一度」


《逃走に失敗しました》


「もう一度」


《逃走に失敗しました》


 勇者。


「何をしている」


「確率を見てる」


「ゼロだぞ」


「表示がゼロなだけかもしれん」


「何を言っている?」


 十回。


《失敗》


 二十回。


《失敗》


 三十回。


《失敗》


 魔王。


「諦めろ」


 四十回。


《失敗》


 五十回。


《失敗》


 五十一回目。


《逃走に失敗しました》


 ガルド。


「……同じだな」


 ミーナ。


「当たり前です」


 ガルド。


「では別の方法」


 勇者。


「まだやるのか」


 ガルド。


 戦闘画面。


 よく見る。


《逃走》


 その横。


 小さく。


《戦闘離脱》


「これは?」


 ミーナ。


「何ですかそれ」


 ガルド。


 押す。


《戦闘離脱条件》


《戦闘参加から60秒間》


《攻撃・回復・被弾を行わない》


 全員。


 止まる。


「……被弾しなければ」


 ガルド。


「一分で外れる」


 勇者。


「それだ!」


――――


 ガルド。


 部屋。


 一番端。


「誰も俺を巻き込むな!」


 勇者。


「分かった!」


 魔王。


「我もだ」


 ガルド。


「回復もするな!」


 聖女。


「はい!」


 魔王。


「再生範囲にも入るな」


「最初からそうしろ!」


 ガルド。


 壁。


 ぴったり。


 立つ。


《離脱まで》


《60》


 戦闘。


 再開。


《47》


《33》


 勇者。


 魔王。


 戦う。


《21》


 大魔導士。


 魔法。


 広がる。


「ガルドさん!」


「こっちに撃つな!」


 ぎりぎり。


 届かない。


《12》


《5》


 魔王。


 黒炎。


 放つ。


 ガルド。


「お前!」


「狙ってない!」


 黒炎。


 直前。


 止まる。


《1》


 全員。


 見る。


《0》


《戦闘から離脱しました》


 ガルド。


「やった!」


 表示。


 更新。


《勇者陣営》


《4名》


《魔王陣営》


《1名》


 勇者。


「一!」


 魔王。


「待て」


《人数差補正を再計算します》


 魔王。


 顔。


 青くなる。


《少人数側補正》


《攻撃力+200%》


《防御力+200%》


《HP回復速度+100%》


 沈黙。


 魔王。


 ゆっくり。


 笑う。


「……我一人になったので」


 ミーナ。


「補正がさらに強くなった!」


 勇者。


「戻れガルド!」


 ガルド。


《戦闘離脱済み》


「嫌だ!」


 魔王。


 黒い魔力。


 三倍。


「素晴らしい」


「喜ぶな!」


――――


 ガルドはもう戦闘参加者ではない。


 つまり。


《初心者用帰還石》


《使用可能》


「帰る!」


 ガルド。


 石。


 使う。


《帰還先を確認します》


《共有復活地点》


《魔王城・最深部》


 ガルド。


「……」


 ミーナ。


「……」


《帰還しますか?》


 ガルド。


「ここだよ!」


《現在地と同一地点です》


《移動を省略しました》


 帰還石。


 消える。


「石だけ消えた!」


 魔王。


 笑いながら戦う。


「良い旅だったな、相棒」


「誰が相棒だあああ!」


 世界を守る都市の市長は。


 ようやくラスボス戦から離脱した。


 しかし。


 帰る場所だけは。


 ラスボス戦のままだった。

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