第8話 偽物。
フランシーヌの所に出掛けようとお支度をしていたら、カミーユに嗅ぎつけられた。
「えーーーーっ、僕も行きたい。僕はこのところ真面目にしてたもの。ご褒美に一緒に行きたい!!!!」
「・・・仕事の話だから。」
「いやだあ!僕も行きたーーーーい!!!」
「・・・」
「まあ、このところは本当にいい子にしていましたから、爆発する前にお連れしたらいかがですか?ね?カミーユはいい子にできるものね?」
「・・・エンマ…?」
子どもか??
甘くないか?
カミーユがエンマに着替えをしてもらっているうちに、国内外の絹製品の流通の資料に目を通す。ブラウ国内は大きな商会があるが、まあ、どこからでも粗悪品は入り込む。
うちの、ユテイニ国内は華国からの製品は基本はうちの商会経由だが、まあ、同じようなものだ。どこからでも入ってくる。フラル国に至っては、玉石混淆。割と平気でヘイロン商会の名で粗悪品を売っている。
もちろん、いい絹とそれなりの絹は両方流通していないと困る。極上品がすべてではない。ただ…堂々と他社の商標を使うのはどうかと思うな。
ヘイロン商会の企業努力が報われない。
・・・まあね、それだけ評判がいいってことなんだけどね。
「そうだなあ…防止策としては…。」
「タグをつける。」
「通しの番号で管理する。」
「タグじゃダメじゃない?偽造しやすいし。織りで刺繍を入れる?」
「ああ、いいよね。その刺繍自体がステイタスになりそう。」
「そうだな。少し難しそうな刺繍、とか?」
私の独り言に、仕事中の社員たちが反応してくれる。
「甘いな。すぐに偽造される。扱いをする商社を決めて、そこの品質保証書もつける。」
「あーーー。そうな。」
「結局のところ、いたちごっこですわね。その粗悪品を扱っている商社自体を潰しましょう。品質はランク付けしていけばいいし。」
あなたたちって…酒飲んでるだけじゃないのねえ…。
「まあ、これはあくまで噂ですがね?ヘイロン商会の絹とか、そういう本当に上質なものは王室に集められているみたいですよ。」
「ああ、俺も聞いた。あの、王太子妃だろ?」
「そうそう。あの、王太子妃とその実家のなんとか公爵家な。」
ああ、その噂は知っている。2年前ぐらい?王室に嫁いだ公爵令嬢が好き勝手しているって。王太子がメロメロで、何も言わないってな。
・・・・メロメロ、なあ??
生真面目でしっかりした方だと思っていたが、ほれた弱みなんだろうかな?
「間に入っているのは、紛らわしい名前の…。」
「黒じゃなくて、緑だか、青だか…。」
「そうよ。チンロン商店、だったっけ?」
「そんな感じの名前のとこ。あんまりいい噂聞かないよな。ヘイロン商会を騙ったり、変な薬を健康にいいとか言って売りさばいてんだろう?前に商工会の会合でこぼしてる奴がいた。」
「ここのところ、貴族連中の間で幅を利かしているらしくて、相手は公爵家と繋がりがあるから、なおな。」
めんどくさい匂いが、プンプンする。
時間になって、馬車の用意が出来たと、スーが迎えに来た。さすがに余所行き用のいい仕立てのスーツ。まあ、うちの製品だけど。
私も似たようなもの。
マダムに、ヘイロンに会うのに、スーツとドレスとどちらがいいか聞いたら、
「あら、うふふっ。どっちでもいいのじゃない?」
と言われた。まあ、いい。
馬車にちょこんとワンピース姿のカミーユが座っていたので、流石のスーも驚いたらしい。
「こいつも…連れていく気か?」
「んんんん。成り行き上?」
「はあああ…。」
綺麗なブルーのワンピースを着せてもらって、髪も上手に結ってもらったみたいだな。幅の広いチョーカーには、やはり青い石がはめ込んである。ぴかぴかのエナメルの靴も先が丸いフォルムで可愛い。新作である。
・・・黙っていれば、どこぞのはかなげなご令嬢だ。
このところ背も伸びたし、筋肉もついたけど、ふわっとしたワンピースでごまかされている。さすがだな、エンマ。
久々のお出かけに、まあ、危ないから外には出さなかったから…カミーユは馬車の窓から外を眺めて、御機嫌の様だ。まあ、たまにはいいか。
「いいか、カミーユ?俺たちは仕事の話があるから、奥でお姉さんと遊んでもらっていろ。変なことすんなよ?騒ぐなよ?」
「うふふっ。わかったよ、スー。せっかくフランシーヌの店に行くのに、素振りとかさせられたら嫌だからね。」
聞き分けいいけど…まあ、無理だろうな。