第14話 家庭教師。
「うちは大公家で兄が継承権があったので、一緒に帝王学は学んできましたが、この国のことはこの国の者からのほうがよろしいかと。」
「・・・いや、構わない。一応資料は持ってきた。うーーん。そうだな…後で詳しい者を連れてくる。」
大臣は分厚い本を2冊持ってきた。
1冊はフラル国の歴史書。王族版なので、かなり詳しい。
もう一冊は国内各領地の資料。経営資料込み。
第二王子の私室は東棟の端にある。
しばらく留守にしていたが、家庭教師を連れて戻ってきた。お気に入りの侍女も連れて。今までいた使用人は入れ替えられた。護衛騎士は1名。人の良さそうな年配の騎士。女中も、孫のいそうな女の人ばかり。
よくお分かりで。
カミーユ様はつきものが落ちたように、真面目に学んでいる。
そもそも…真面目な性格だったのかもしれない。
・・・まあ、たまに脱線はするが。
「え?カミーユって、婚約者いるの?」
午前中の授業がひと段落したので、エンマにお茶を出してもらった。
「は?当たり前だろう?一応いる。でもそいつとは結婚しない。僕はもっと、気楽ーーーな家に婿に行きたいから。」
へえ?難しい家なのか?相手方の家は。
「どんな子?かわいい?」
「・・・・・」
「綺麗系?マダムみたいな?」
「・・・・・」
へらへら何でも話しそうだけど、珍しく口が堅いな。後でエンマに聞いてもらおう。
「そうそう、あとでこの国の歴史に詳しい方が来てくれるらしいから…。」
「・・・そう?一応読んだことあるけど、2冊とも。」
バカじゃなかったんだなあ。
何でまたあんなにはっちゃけちゃったんだか。
「そう言うお前は、なんで結婚しないって決めてるんだ?」
ソファーに足を組んで座ったカミーユが、お茶を運んできてくれたエンマににっこりと微笑む。なついてるな。
カミーユはさすがに茶器の扱いがきれいだ。何も知らなかったら、ぱっと見、本物の王子様みたいだ。まあ、本物なんだけどね。
「ああ、私?そうだなあ…ドラゴンがいないから、かな?」
「は?バカなの?」
「リュカ様、大臣からご紹介の教師の方がお見えです。」
「聞いている。入ってもらって。」
エンマがドアを開けながら一人の女性を招き入れた。
綺麗なお辞儀をして、頭を上げる。
きちんとしたドレス。プラチナブロンドがゆったりと巻かれている。歳は…カミーユとそう変わらないか?教師、というのでもっと年配者を考えていたので、少し心配になる。カミーユの変な癖が出ないかな?カミーユ好みの、胸の大きい子。綺麗系。
「カミーユ殿下、お久しぶりでございます。初めまして、リュカ様。よろしくお願いいたします。エメ公爵家のアンジェリーヌでございます。」
ドアに背を向けて座っていたカミーユが、咳き込んでお茶を吐く。何やってんのよ?
あわてて駆け寄ったエンマが背中をさすりながら、ハンカチで口を拭いてあげている。
「ああ、よろしくお願いします。私もこの国の歴史には疎いので、同席しても構わないか?」
「ええ。もちろんです。」
ギギギギギッ、と音が聞こえそうな仕草で、カミーユが振り返る。
アンジェリーヌさんは持ってきたかばんから、教材を取り出して机に広げている。
「始めましょうか?カミーユ殿下。」
意外なことにスパルタ式だった。私やスーのように手がでたり、足がでたりはしなかったが。
「この王の時代の戦いによって手に入れたのは?」
「・・・東部サーラ地区。」
「言語は矯正した?」
「ブラウ語を残しつつ、フラル語を母国語で教育した。反乱は起きなかった。」
「そうでしたね。今のサーラ地区は?」
「穀倉地帯。主要作物は小麦。領主はサーラの名を取っての侯爵家。今は代替わりして息子が…」
歴史と現状を重ねての教育。素晴らしい!!
机の下でアンジェリーヌさんの足をすりすりしてないか心配したが…大丈夫そう。
強い。強いわこの子。家庭教師はこの子でいいんじゃない?
2時間ぶっ続けで勉強した。カミーユは燃え尽きてないかしら?
アンジェリーヌさんは教材をカバンにしまうと、
「では、また明日、同じ時間にお邪魔いたします。」
と帰ろうとした。
「ああ、お昼をご一緒しませんか?折角ですから。」
そう私が声を掛けると、彼女はちらりとカミーユを見た。
「・・・殿下が、よろしければ。」
「私が許可します。ぜひご一緒してください。ね?」
重ねて私がお願いしたので、しぶしぶ?彼女は椅子に座りなおした。
エンマに3人分のランチを頼んで、カミーユの応接用の部屋に移動する。
勉強机に突っ伏していたカミーユを引きはがして、席に座らせる。
この二人?なに?訳ありなわけ?カミーユが窓の外を見ている。というか、アンジェリーヌさんを見ないようにしている?
どっちにしても、折角来てくださった方にお茶も出さずに帰すのもなんだし。
「な、なに?昔むりやり押し倒したとか?そういう?」
小声でカミーユに聞いてみる。
「は?押し倒してないし。押し倒されてもいない。押し倒す予定もない。」
「ふーーん。」




