悪魔がウチにおりまして・10
シアターには悪魔がいる。
予告編を真剣に見ている悪魔が。
「天使対悪魔」は思ったよりも人気なようで、予告の間はちらほらしか埋まっていなかった座席が明かりが落ちる間際には後部はほとんど埋まり、最前列にも数名いるくらいになっていた。
隣で予告編にくぎ付けの悪魔の両手には「天使くん」と「悪魔ちゃん」のアクキーが握られている。
お目当ての入場者特典にもしっかりと映画を見せようとするその行動は、まさにオタクの鏡。
アクキーを持ちながらポップコーンを食べる器用さをどこで覚えたのか関心している。
映画本編が始まった。せっかくなので楽しむことにしよう。
ポップコーンの、なるべくバターのかかっていない部分を口に放り込んだ。
内容は面白かった。
タイトルだけで単純なファンタジーと思っていたら現代アクション。
天使が悪魔から狙われる可能性のある女の子を護衛しろと上司から命じられて、こっそり見守っていたら悪魔登場。
その悪魔をなぜか銃で撃退する天使。弾丸をビーム的なもので迎え撃つ悪魔。
留めの一発の前に目の前で攫われる女の子。
お互い護衛していると思い込んでいた天使と悪魔。
攫われた女の子を救うために天使と悪魔が手を取り合って黒幕を倒して大団円という、ハリウッド映画さながらのわかりやすいストーリーであった。
エンドロールの後に続編を匂わせるショートも挟んで、いい感じに次も見たくなる仕掛けがされていた。
悪魔がなかなか立ち上がらないので待っていたが、明かりが点いたのでもういいだろうと声をかけると嗚咽が聞こえる。
「女の子…助かって、よかったですねぇ…」
そのくだり、15分前に終わってますけど?
アクキーを抱きしめながら鼻をすする悪魔を少し可愛いと思ってしまった。
帰り道、悪魔は疲れたのか眠ってしまった。
さすがに女の子を抱える訳に行かないので普段の姿に戻ってもらった。
幸いなことにいつもの姿であれば大きなぬいぐるみに見えなくもない。そう言い聞かせた。
すぅすぅと寝息を立てる悪魔をおんぶして帰る。
興奮しすぎて寝ちゃうなんて、子どもだなぁ。
背中には悪魔がいる。
少し手間のかかる、子どもっぽい悪魔が。
家について扉を開けると、誰かいた。
「悪魔め。今日こそ決着をつけてやる!」
そこに立っていたのは目を吊り上げた翼の生えた人型。
先ほどまでスクリーンで見ていた、天使そのものであった。




