7
縄張りを子竜に奪われた俺は、仕方なくギョロがいる小屋近くの森を新たなテリトリーにすることにした。
そこで俺は不思議なことに気づいた。小屋を中心に広がる森周辺には魔物どころか動物もいなかった。豊富に木の実やキノコ、小川までもあるのにそれはありえないことだった。
不気味に思うが、ここを縄張りにする考えは変わらなかった。何かあれば他へ移ればいいだけだ。
さてと、周辺調査はここまでにして、引っ越しの挨拶をご近所にしてきますかね。
俺は小屋に向かって飛んだ。
小屋に着くと、付近にギョロの姿が見当たらなかった。
小屋の中にいるかもしれないと、ウッドデッキの手すりに止まって、俺来たよと鳴き声を上げた。
一鳴きですぐに小屋のドアが開き、ギョロは慌ただしく出てきた。……急がなくても少しぐらいなら待つよ、俺。
早速俺を撫でようとするギョロの大きな手を避けて飛ぶと、広い肩に止まった。
俺、お前の小屋の近くに引っ越してきたから、と鳥の鳴き声でギョロに伝える。
ギョロは俺が何言ってるか分からないくせに、ウンウンと頷いていた。
あ、しまった。挨拶する時に渡す手土産を用意するのを忘れていた。
今から何か探しに行こうと翼を広げた時に抜け落ちそうな羽があった。
気になった俺がそれを引っこ抜くと、嘴の下にギョロの大きな手が差し出された。
そのまま動く様子はない。
くれってか?
結構長い羽だから、羽ペンにでもするのかもしれない。
これ幸いと手土産代わりに、俺は快く羽を渡した。
あと何本か欲しいのか、ギョロは俺を窺いながら手を差し出してきたから、抜けそうな羽を全部あげた。
翌日。
ギョロの胸元に羽の首飾りがあった。
明らかに俺の羽だった。
首飾りにするほど綺麗じゃないから返せ、と人語で言えないのが歯痒かった。
強制的に外そうとしたが、ギョロは自分の両腕を交差させて、胸元だけじゃなく、首の後ろまで抱え込んで首飾りを守るので諦めるしかなかった。