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レイテの幻像 (少女達が見た戦争)  作者: 扶桑かつみ


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第六章 「天佑ヲ確信シ全軍突撃セヨ」

「……つきちゃん、さつきちゃん、もう起きなよ、一〇時にはここ追い出されちゃうよ〜」

(前にもこんな事あったなぁ)

 橘さつきは、そう思いながら意識が徐々に目覚めていくのを感じていた。

 ゆっくりまぶたを開くと、目の前には四つん這いになって身体をゆすっている朝霧かすみがいて、その向こう側にはせっせと布団を片づけたり、部屋の後かたづけをしている東雲みゆきの姿があった。

 かすみが、さつきの真上まで顔を持ってきてニコリと笑った。

「あ、やっと起きた。もー、何度起こしても起きないから、みゆきちゃんと朝もいただいたよ」

「いいよ、私はかすみをいただいちゃうからっ!」

 お姉さん風に語りかけるかすみに、さつきが寝ころんだまま腕を上げると、かすみの身体をそのまま抱きかかえ、ぐるっと半回転。

 きゃ〜、やめて〜。さつきの悪ふざけにつきあって、形だけジタバタしてはしゃいでいるかすみを見つめつつ思った。

(アレ、同じ『夢』は見てなかったのかな?)

 彼女の耳と目には、『艦隊司令部より信号、全艦隊ハ最大戦速ニテ敵ヲ速ヤカニ撃滅セヨ』と絶叫する伝令の声。その後交わされた男達のどら声。眼前で一方的にやられていくアメリカの小さな空母部隊の姿は焼き付いていた。

 さつきはそのまま自分の世界に入ったため、いつまで経ってもかすみを解放せず、しばらくするとかすみが本当に恥ずかしがり始めた。

「止めてよ〜、仲居さんがもう来ちゃうから〜」

 横では、みゆきが処置無しとばかりに、二人を意図的に無視して後かたづけを続けている。

 しばらくそうした光景が続いたが、身動きできると知ったかすみが、さつきの顔をのぞき込むと頬をゆるくつねった。

「朝から深刻そうな顔なんてしちゃダメだよ」

「……そんな事してないよ。かすみから、あんまりいい匂いがするからウットリしただけ」

 さつきはそう言うと、目覚めた時とは位置が逆転したかすみの柔らかい頬に軽くキスをし、ムクリと起きあがった。

 案の定、足下からかすみの悲鳴が聞こえる。

「ア、ワ、わ、な、何するのよ〜!」

「朝から、何いちゃついてんねんな、カンニンやで」

 さつきは大きく伸びをしてから振り返り、二人に笑顔を向けた。

「ンン〜っ。今日もいい天気になりそうだね」


 ◆


 宿を後にして再び呉軍港に向かう道を歩きながら、さつきは二人にさっき見た『夢』の事をかいつまんで話した。

 手には、近くのコンビニで買い求めた菓子パンと大きなパックのコーヒー牛乳が握られている。

「というわけ。二つの艦隊を追いかけ回して、空母を7隻も沈めてたよ。ま、楽勝の戦闘だから、ずっと前にかすみも見てるかもしれないけどね」

「足の遅い船を追いかけ回すのかぁ……。よく覚えてないけど、相手がほとんど撃ってこないのってあったと思うよ」

「話はだいたい分かった。けどなさっちん、一つ言うてエエか」

「ン? フン」

 話し終わってパンを頬張りながらうなづくさつきに、みゆきが両手のものを交互に指した。

「朝飯なんやろけど、そら粗食ちゅーよりはジャンクフードやで、普段ちゃんとしたもん食べてるんか?」

「ウン。これは安かったから。いつもは、買い食いなんて滅多にしないよ」

「へーそーなん。パソコンに詳しいオタクって、まともな食生活してへん言うけど、そうちゃうんや」

 そこにかすみが会話に入ってくる。

「ウフフ、かすみんちは、お父さんとお姉さんがいて、食事はいつもお姉さんが作ってるよ。でね、お姉さん何でもできるのに全然気取らない人で、家事も料理もお裁縫も上手で、すっっごく綺麗な人なんだ〜」

「その割には、嫁の行き手がないけどね」

 さつきが冷然と付け加える。

「ちがうよ〜、かすみとお父さんが心配で、お嫁に行けないんだよ」

 かすみが、プンプンと怒ったフリをして答えるが(いや、本気で少し怒っているらしい)、さつきはシレっとしたものだ。

「じゃあ、かすみが私のお嫁さんになってよ。私料理できないから」


 そんな他愛のない会話を続けていると、いつの間にか完全な休日シフトとなった呉軍港に到着していた。

 軍港の中は昨日とは違い、近所の家族連れや明らかにミリタリーマニアとおぼしき男性グループが散見できた。彼女たちと同様に、目標は『大和』だ。

 『大和』は通常母港である呉軍港に停泊する事が多く、軍港内の岸壁で休養や整備、訓練している日曜日は、格好の観光スポットとなっていた。

 これは、徴兵制度が完全廃止された冷戦終結後、軍が国民からの支持を取り付ける方策の一つとして大規模に行っている。そして同時多発テロ以後も、チェックこそ厳しくなったが継続されていた。大型攻撃空母を三隻もかかえる海軍は、宣伝に熱心だったのだ。

 ただ、見学者の集団にあって、少女三人だけで連れ歩くというのは彼女たちだけだった。いかに軍が努力しようとも、軍や兵器といったものに興味を示す女性は少数派だ。比較的多いファミリーにしても、軍人の親族らしき人々を除けば、近所だからドライブや散歩がてらにちょっと来ただけという雰囲気が強い。

 だから必然的に目立つが、周囲にいるのがファミリーか独特な雰囲気をかもし出している男性グループばかり。東京の繁華街のように、見ず知らずの者に不躾に声をかけられるという事はなかった。

 ただし、艦内見学だけは有志の水兵による案内が付き、今日来ると伝えていた事もあって初日、二日目と同じ水兵がまたも案内してくれた。

 さすがにこれには三人も恐縮してしまい、謝罪に近い言葉をかけたのだが、当の水兵はこれこそセイラーと言わんばかりの爽やかな笑顔を向ける。

「私は、司令部付きの従兵経歴が長く、こうした事は得意なのです。それに上から内意で言われていますから、これも任務に精励する水兵の姿とお思いください」

 最後に軽くウィンクまでした。

(この人職業選択絶対に間違っている)

 それを見た三人は一様に思った。

 だが、艦隊司令部付の従兵は、一流ホテルのボーイ長並に気が利かなくてはならないと言われるのなら、彼も海軍の伝統を背負って立つ一人だと知らねばならないだろう。


 見学開始から三日目のこの日、既に司令室、艦橋を中心にして艦中央部の見学を終えていた三人は、今日は艦のウェポンシステムを中心に見学する事になった。

 艦の中央部から後ろには、速射砲(127mm砲×4)と垂直発射式の多目的ミサイルランチャー(MK48・32セル×2)、前後に据えられた長方形の箱の塊(対地トマホーク用装甲ランチャー:4×8基)、円筒形キャニスター(SSM2・4×4)、近接防空システムの一部がひしめく。また後部は、三番砲塔、飛行甲板、そして艦尾に翻る大軍艦旗となる。ウェポンシステム的には、かなり贅沢は汎用艦だ。だが、どちらかと言えば対地攻撃を重視した戦闘艦の姿だった。

 また艦内には、分厚い装甲甲板の下は機関、と言っても何かの工場のように白いボックスの中に収められた機械とガスタービンの群が据えられ、その上に各種の居住施設と後部両脇にランチ(タグボート)が格納されていた。

 そして、三番砲塔から後ろはすべて航空機格納庫となっており、大型のヘリコプター六機が常時搭載されていた。さらに緊急時には、大型の輸送ヘリや垂直離着陸式の戦闘機も運用でき、普段は予備とされている後部居住区には、三百名の兵士を収容できると水兵は教えてくれた。

 つまり今の『大和』は、かつての対艦戦闘艦艇ではなく、危険海域で活動するための万能に近い対地支援艦艇だっだ。

 残念ながら、旧第一副砲塔後に設置された巨大な戦闘指揮所や主砲塔の中には入れてもらえなかった。だが、軍事に素人の三人にとっては、それまでと違って人の営みが感じられない無機的な場所ばかりだったので、すべてが驚きの連続だった。その場その場で、歓声を上げて大いに満足していた。

 もっとも、必要以上に騒いでいたとも言え、三人が三人とも何を切っ掛けで過去に飛ばされるのかと、内心戦々恐々事への裏返しでもあった。

 何しろ、このまま事態が推移したら、間違いなく大殺戮のまっただ中に放り込まれるのだ。

 そして変化は、航空機格納庫に入ったときにやって来た。


 ◆ ◆ ◆


(何や何や、今度は何が起こって〜ん!)

 突然、みゆきは大地震の中に放り込まれたような感覚に襲われた。

 もちろん『宿主』自身も大きな振動の中にいるだけで、彼女自身は何事も起こらないのだが、状況はまさに大地震のそれだった。しかも眼前の甲板、昨日飛行機が飛び立っていった場所は、激しく煙を噴き上げる臨時の煙突となっていた。

 周囲でいくつもの怒号が飛び交う。

「損害報告急げ!」

「応急班、消火開始!」

「救護班急げ!」

「消火装置発動」

「右舷低空より敵雷撃機六、急速接近中!」

「オ〜モカ〜ジ」

「天城に閃光、被弾三つを確認!」

 軍事に疎いみゆきにも、これだけ眼前の光景を見せつけられれば、今が敵の空襲のまっただ中で、とても苦戦していると察しがついた。

(さっちんが昨日の夜中見せてくれた歴史の中におるって事か。それにしても酷い光景や)

 彼女、いや彼女の『宿主』が見ている場所は、臨時の煙突となった爆破口で、その周囲には色々なものが散乱していた。

 様々な鉄片、木片はもとより、ボロ布やボロ布をまとった赤黒い塊、原型すら止めていないただの肉片、ところどころ明灰色のゼリーのようなものすら見分けがついた。

 いや『宿主』が正確にそれと判断して、その思考をみゆきにも伝えているのだ。

 それをみゆきは、ただ呆然と眺めるしかなかった。交通事故の直後の情景を見たことはあったが、眼前の光景はそれを一千倍にしてもお釣りが来るような惨状だ。

 だが、意識は意外に冷静だった。

 傍観者、観察者としての意識が、人間としての感情を押さえ込んでいるのだ。

(ハリウッド映画やったらX指定確実やな)

 頭の片隅でそう感じたが、思考は情報収集に傾いていた。

 まずは時間だ。

 時計は午前七時二四分を指していたが、それ以上進むことは無かった。どうやら今の衝撃で止まったらしい。

 場所は、昨日と同じ「飛龍」の第一艦橋。

 『宿主』は、恐らく第二機動部隊司令山口多聞中将。

 戦場は確か……そう、エンガノ岬沖。

(で、大空襲の真っ最中……か)

 だが、『宿主』が見上げた空では、群青色の敵の集団が徐々に一箇所に集まりつつあり、その周りでは少数のゼロセンと群青色の一群が目まぐるしく動いていた。

 こんな状態では何をしても仕方ないので、みゆきは何かアクティブな動きが出るまで、できるだけ平静な気持ちを保つ努力をして、時の記録者に徹する事にした。

(物語風にしたらこんな感じやな。あ、時の記録者ってなんかエエ感じ。今度使おう)


 前部飛行甲板の惨状を一別した山口司令が、ようやく言葉を口にした。

「取りあえずは凌いだか。どうかね飛龍は? いや、甲板は?」

 艦長に問いかける。彼は着艦は何とか出来ますが発進は難しいでしょうと厳しい顔だ。

 それに山口は、やや諦観した言葉を返す。

「まあ、「葛城」や四航戦は無事らしいから、今上がっている直掩はあっちに降ろそう」

 それに本艦にはもう飛行機はないから、発進の心配は当面いらないだろう、と。

 そしてそれよりもと言葉を続ける。

「それよりも、黒煙は何としても消してくれ。できればマットか何かで穴も塞げればそれが一番だ。我々は、健在ぶりをハルゼーに見てもらわないといけないからな」

 明らかに自らが囮であるとの意思表示の言葉だった。

 絶句する周囲を見渡した山口は、さらに言葉を続ける。

「何を驚く。既に当初の前提が崩れ、しかも先に我々は殴れるだけ相手を殴った。戦果も挙げた。だが、もはやつがえるべき矢はない。つまり後我々ができるは、ハルゼーをいかに引きつけ、やつらに組み付いて西村艦隊に向かわせない事だ。そうすれば、西村さんなら、第一遊撃部隊ならやってくれる」

 最後は確信に近い期待の言葉だったが、その一言は激しい空襲により戦意が萎え欠けていた司令部の気分を再び昂揚させた。

 そしてそこに、もう一つの報告がもたらされ、気分を明るくした。

「第一機動部隊よりの通信を傍受。我損害軽微、レイテ島突入ヲ継続セントス、これは聯合艦隊司令部と第一遊撃部隊に宛たものです」

「ホウ、まだやる気だな、小澤さん」

 山口が、全員の意見を代弁した。


『その後十時前に小規模な空襲があり、損害多数により駆逐艦二隻を付けて待避させつつあった「天城」が集中攻撃を受け、魚雷三、爆弾二により総員退艦するという報告が飛び込んだ。また、第一機動艦隊からは、「龍鳳」が先ほどの空襲で大きく損傷、自沈処分するという報告も届けられた。

 そして早朝、二つの空母部隊を合わせて六〇機を越えていた自軍直援戦闘機は、稼働機というレベルでは既に半数を割り込んでいた。米軍とほぼ時を同じくして放った、両機動部隊合わせて約八〇機の攻撃隊は、ほとんどが艦隊に帰ってくる事はなかった。何とか無事にたどり着いた者達も、命からがらという表現以外見つけるのは難しかった。当然敵に与えた損害は、パイロットの主観に沿った派手やかなもの以外手に入らなかった。

 恐らく意味のある損害はほとんど与えられなかっただろうと言うのが、艦隊司令部の判断だった。

 どこにも、明るいニュースやソースはなかった。

 つまりは、すでに限界を超えた戦いと言えるだろう。

 だが午後一時前、十二時五十分に、電探が百機以上の敵大編隊を捉えた。日本側がどのような状態だろうと、彼らに手を抜く謂われはなかった。

 相手は、猛将ハルゼーだ。

 敵の集団は、大きく二つに分かれた。

 そのうち小さい方が第二機動部隊に向かい、大きな集団が小澤提督直率の第一機動部隊へと殺到していく。

 だが、小さな集団と言っても五〇機以上を数え、闘争心と復讐心を胸にたぎらせ堂々の編隊を組んだ彼らは、今の第二機動部隊には凶悪すぎる存在だった。

 そして、艦隊上空手前で待ちかまえていた直掩隊と、遠目からはアブの群のように見えた米戦闘機隊との制空権獲得競争が、艦隊からほんの一〇キロほど先の空で始まった。

 圧倒的に日本側が不利だった。

「さあ、来るぞ諸君。勇敢な彼らに相応しい歓迎をしてやろうじゃないか」

 山口提督が周囲に声を掛けた。

 その声はまだまだ闘志を失ってはなく、それどころか強い意志の力を宿していた。

 この言葉に加来第二航空戦隊司令が返した。

「ハイ、艦隊司令。この飛龍が不沈艦である事を、連中に今一度教えてやりましょう、なあ艦長」

 加来は開戦時の「飛龍」艦長であり、「飛龍」自身は両手で足りないほどの戦場を体験しているにも関わらず、ほとんど損害を受けたことはなかった。しかも、相手に与えた損害は数知れずという、アメリカを中心とする連合国にとっては恐怖と憎しみの象徴だ。真珠湾奇襲以来いまだ健在な「赤城」、「瑞鶴」と共に、聯合艦隊勝利の象徴だった。

 だからこそのこの時の言葉なのであり、乗員の士気を鼓舞する上ではそれ以上のものを探すのは難しいだろう。

 現「飛龍」艦長も雄々しく笑いながらそれに応え、その事を艦内放送で全艦に伝えた。

 そこかしこで歓声がしてくるのが分かった。

 一発殴られたが「飛龍」はまだまだ大丈夫、そう思わせる光景だった。


 だが、米軍の恐怖と憎悪の象徴であり、目立つ外見という事は、押し寄せる敵の数もまた数多という事になるのは道理だろう。

 この時、山口多聞中将麾下の第二機動部隊は、空母「飛龍」、「葛城」、軽空母「千歳」、「千代田」を中心に、戦艦「扶桑」、「山城」、防空巡「伊吹」、重巡「那智」、「羽黒」、軽巡「阿武隈」、駆逐艦五隻が二つの鋼鉄の輪を作っていた。

 そして旗艦「飛龍」の側には、右に「扶桑」、左に「葛城」、そして斜め前方には日本海軍で唯一防空巡洋艦として完成した「伊吹」が位置していた。

 「伊吹」も「扶桑」も多数の高角砲と機銃ばかりを装備してハリネズミのようになっており、先ほどの戦闘でも大きな活躍を示していた。「伊吹」は先だってのマリアナ沖海戦でも、艦隊防空の要として重責を果たしている。もっとも、どちらも装備する高角砲は旧式の八九式で米軍のような優れた電子システムもなく、機銃ともどもその手数の多さで相手を追い払うのが主任務だった。追加装備された多連装ロケット砲についても、その効果は似たり寄ったりだ。

 そしてそれが日本海軍の現状の要約、といえるだろう。』


(ああ、『宿主』の知識使えるの分かったんは収穫やな、専門用語もウチ一人よりも簡単に出てくるわぁ)

 そんな事を頭の片隅で思いつつ情景を物語風にまとめようとするが、目の前はさっき見損ねたクライマックスシーンの再現と言わんばかりに阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 正直、何かを考えていないと音と臭い、衝撃、そして眼前に広がる地獄絵図によって気が狂いそうだった。

 低空に侵入し、魚雷を見舞わんとするずんぐりした機体。空気を切り裂く凄まじい音を響かせ急降下してくるヘルダイバーたち。艦隊深くまで切り込んで、クマンバチのように所構わず機銃掃射していくグラマン戦闘機。無数に炸裂する高角砲弾。途切れることのない機銃音。爆弾の炸裂する雷のような大音響。何かが水面に落ちる轟き。

 それらすべてに負けじと飛び交う人々の怒号。

 だが、それも徐々に落ちツタものとなっていた。見ると、群青色の集団が徐々に空の一角に集まるのが見えた。

(とりあえずは、追い払ったんか。そえrにしても、派手にやられたなあ。これでよう沈まんもんやで)

 みゆきもそれを見つつ、自らの意識を鼓舞していたとき、『宿主』の近くで戦闘以外の会話が聞こえてきた。

「艦隊司令、本艦は危険な状態と判断します。旗艦を移すことを進言いたします」

「飛龍は、ダメかね」

「はい、まだ総員上甲板の命令を出すべきだとは思いません。ですが、弾薬庫や燃料に誘爆する危険があります。その前に司令部と司令部付きの通信・暗号班は安全な艦に移動し、機能を維持するべきかと」

 艦長が、的確な判断と悲観論を並べていく。

 そして艦長が言うように、火流は今の空襲で、魚雷を一本、一〇〇〇ポンド爆弾を二発受け、格納庫にまで火災が及んでいた。

 幸い、それまでに施された不燃不沈対策のおかげで、一年半ほど前にミッドウェー沖で沈んだ「蒼龍」のような誘爆には発展していない。だが、この三十分が勝負だった。ここで鎮火、そうでなくても火災の勢いを止められなければ危険だった。被雷により、速力も一八ノットがやっとだ。

 空を見つつ、山口が口を開いた。

「連中も帰りつつあるしな。よし、艦隊全体の速度を落とすぞ。艦長、消火に専念してくれ」

「ハッ、しかし……」

「旗艦の変更か? 変更はなしだ。鎮火する可能性があるのなら、それに賭けよう。今旗艦を変えることは士気にも関わる」

 艦長は黙って頭を下げ指揮に戻り、入れ替わりに加来二航戦司令がやってきた。

「艦隊司令、葛城は健在です。残った連中はすべてあっちに降ろしたいと思います」

「そうか、それは朗報だな」

「はい。ただ、戦隊で一個中隊も残っているか……」

「そこまで減ったか」

「直掩は搭乗員に多少余裕がありますが、いかんせん機体が呼びも底をつきましたので」

(なんやねん、しけた会話ばっかりして。まだ船は残ってるんやろ。いったらんかい!)

 会話を聞いていたみゆきは、少し気持ちに余裕が出てきたのと、自ら気持ちを強く持つためにも会話に文句をつけてみた。

 少し情緒不安定なのが自分でも分かったが、だからこそ自身の士気を鼓舞する必要を感じていた。でないと、これ以上続いたらとても見続けることはできないだろうし、かすみのように雰囲気に飲み込まれそうだった。

 そしてみゆきの言葉が届いたかのおゆに、空襲が去った事で多少は気持ちにゆとりがでたのか、二人の空気が少し変わっていた。

「そうだな。だが、あれだけの相手によくあったものだ。帰ってくる連中には、ねぎらいの言葉もかけてやりたいな」

「まったくです。いっその事、葛城に旗艦を変更なさいますか?」

「ハハハ、そりゃいい。それでハルゼーにもうひと合戦所望するか。……そうだな、それがいい」

「は?」

「ウン。生き残りの母艦を小澤さんに預け、こっちには水上艦を集成してハルゼーに筒込むんだよ。健在な母艦を圧mれば、限定的な防空戦もまだ出来るだろうし、旧式とはいえ戦艦が四隻も突っ込んできたら無視できまい」

「確かに、西村部隊の事を思えば、今日一日は我々も引き返すわけにも、ハルゼーの艦隊をあちらに行かせるわけにもいきませんからね。有効だと判断します。さっそく参謀達に健闘させては」

「ウン。ただし、まずは損傷艦だ」

 自然みゆきも、それを追う事になる。視線の先には、小柄な空母が激しく炎上していた。

(アレは確か「千代田」、いや「千歳」やったっけ。ま、どっちにせよ今あそこは灼熱地獄やな)

 みゆきは、安全と確信できる場所、特等席以上の場所から、その戦場を大パノラマで観覧する超越者だった。しかも眼前では、世界一価値が高いと人道主義者達が言うものが、二束三文で浪費されていく。

(そら、閻魔様もこんなんには関わりたないわなぁ)

 以前言った自分の言葉を思い出しつつさらに考えた事は、これより凄まじい光景が、この世界のあと数時間後に別の場所で発生するということだった。

 みゆきは、気分が急に萎えていくのを感じた。

 そして思った。いや、願った。

 あそこの『夢』だけは、絶対に見ませんように、と。こればかりは、友情も何も関係なかった。これ以上のものを見せられたら、彼女自身の心が耐えられないからだ。

 そして、今や溶鉱炉のごとく燃え盛る断末魔の空母を見ながら思った。

(しばらく血は見たないなぁ)

 ・

 ・

 ・

 意識がハッキリしてくると、みゆきは二人と案内の水兵に連れられて格納庫の中を歩いていた。

 やはり一瞬の出来事だったらしい。

 そこまで察すると、まあ急いで話す必要もないし、体験は小説の中に反映させれば問題なかろうと思うと、何事もなかったかのように歩き続けた。

 薄く照明されたそこには、何機ものヘリコプターがローターを器用に畳んで鎮座していた。そのうち一機のパイロット席に座らせてもらい、かすみなどはぶかぶかのヘルメットを付けて子供のように喜んでいる。

 取りあえず、曾祖父と関連性があると思われるものなら、何でもいいのかもしれない。

 だが、みゆきはあまり気乗りしない風に見え、口の回転速度も鈍く、後の二人に何かあったのかと悟らせるには十分なものだった。

 そこでどこか休憩でもとかすみが水兵に頼んだ。

「ああ、そう言えばそろそろお昼ですね。これは気付きませんで失礼いたしました」

 相変わらずの爽やかな対応の水兵に導かれるまま、近くの兵員食堂へと再び足を運んだ。


 休日公開中の大和食堂は一般にも開放され、ビュッフェ(バイキング)スタイルの食事が楽しめた。

 昼食の間、いやぁ昨夕の宴席には私用があり参加できず誠に申し訳ありませんでした、と始まった水兵の縦横無尽にして留まることを知らないトークが炸裂し、いつも口達者なみゆきが低調なので、三人は水兵のペースに流されていた。

 これには水兵も気を止めたが、みゆきが少し船の上にいすぎて酔ったみたいですと誤魔化すと、なるほどと深く納得。「医務室にクスリを取ってきます」と足早にテーブルを後にした。

 そして水兵の戻ってくる間、みゆきはかいつまんで事情を話す。みゆきの言葉に、さつきとかすみは次はいよいよ来るべきものが訪れるのかと緊張した面もちを浮かべた。

 そう、母艦同士の戦いのあと、レイテ湾では最後の舞台の幕が開けるのだ。

 それはまさに地獄の扉を開くに等しい事件と歴史的にも見られており、既に詳細を知っているさつきはともかく、かすみですらおおよそのことは知っている程のものだった。

 そして二人は既に知っていた。知っている事と実際目にすることには、埋める事のできない大きな隔たりが存在する事を。

 そんな二人の面もちを見ていると、みゆき本来のお節介根性が急速に頭をもたげ、取りあえず何か会話をつなげようと視線を泳がした。

「あ、あっち見てみい、オタクどもがこっちを盗み見てるでぇ。あ、今ケータイでウチらの写真取りよった! 何すんねん」

 みゆきがそこまで喋ると、キッと俄に表情を険しくしたさつきが立ち上がり、そちらの方にツカツカと歩み寄っていく。

「あ〜あ、さつきちゃん、こう言うの大キライなんだよね。あの人たち可哀想〜」

「そうなん。て、それよりもフォローに行かんでええの?」

「行かないよ〜、後で私が怒られるもん。何か大きな問題が起きない限り、好きにさせる方がいいの」

 何度もこういう事があるのか、かすみは冷静なものだった。

 長い黒髪を勢いよく揺らしながら歩み寄っていくさつきの後ろ姿を二人で眺めつつも、みゆきはようやく気分が落ち着くのを感じた。

(事件があってもこんなもん。やっぱり、今が一番やな……)


 食事を終えた三人は、今度は甲板に出た。

 甲板には他にもたくさんの見学者の姿があり、それぞれ水兵に付き添われながら巨大な『大和』に見入っていた。その様は、まるで軍艦のアミューズメントパークのようだった。そしてその中に三人もとけ込んでしまい、水兵の長広舌を聞きつつ様々なものを見て回った。

 そうして第一砲塔まで歩いてきた。飛行甲板区画からだとざっと一五〇メートルほどだが、『大和』はそれ以上に大きいように三人には感じられる。

 そして巨大な古墳のような第一砲塔まで来ると、水兵が長広舌を再開した。

「今、眼前に見えるこの巨大な鉄の塊、もう十分にお分かりと思いますが、大和の主兵装、四五口径四六センチ砲を三つ納めた主砲塔の一つ、第一砲塔です」

 そこで一旦言葉を切ると、再び続けた。

「さて、一見他の二つと同じに見えますが、他とは違う点が一つだけあります。分かりますか?」

(ホテルボーイ撤回、立派な観光ガイドになれる)

 そう思う三人だったが、すぐ後ろの第二砲塔と見比べつつ首を横にふった。場所と高さの違いはあるが、どう見ても同じものだ。

 それを確認した水兵が、ヒソヒソ話をするように口の側に手を当てて続ける。

「実はこれはマニア、いいぇ今ではオタクと言うべきでしょうか、とにかくそう言った人にもあまり知られていない事なんですが……」

「もったいぶらずに教えてぇなぁ」

 みゆきがいつもの合いの手を入れる。それを受けた水兵も、目で感謝しながら自然に続けた。

「じゃ、あまり他の方には言わないでくださいよ。何とこの主砲塔は、建造当時のものがそのまま使われているのです。他の砲塔は、損傷や劣化などによりほとんどが交換されているのですが、この第一砲塔の装甲板の多くは、敵の攻撃にも長年の風雪にも耐え、今もこうして皆さんの眼前に存在するのです。恐らく、今この大和を構成している鋼鉄の塊の中、簡単に手を触れることのできる場所で、建造当時のものは恐らくここと艦橋の主構造物の一部ぐらいでしょう」

 最後に構造物を大げさに指した。

 これにいたく感動したのは、曾お爺ちゃん病のかすみだった。

「すごーい、じゃあ、じゃあ、これには曾お爺ちゃんも触ったかもしれなんだよね、さつきちゃん」

(なぜに水兵さんに答えてあげない)

 そう思うみゆきだったが、いつもの涼しげな顔のさつきが、少し笑顔になって話しかけようとする。だが、彼女の話す内容は、その後のかすみの行動に影響を与えることはなかった。なぜなら、さつきが話そうと、いや咎めようとした事が、既に実行に移されていたからだ。

 そう、かすみはそのまま第一砲塔を構成する装甲板にもたれかかってしまったのだ。


 ◆ ◆ ◆


(あ、あれ?)

 かすみは突然『夢』に入り込んだが、どうにもならなかった。こうなっては自身の意志で簡単に現実に戻れないのは、今までの経験から明らかだ。

 そして状況の変化を特に気にしなかったかすみの眼前、つまりは曾祖父の視線を介して見えるのは、いつもの指揮所からの景色だった。

 目の前には深い碧をした海と空、空に散らばるような雲、そしてその向こうに見えるジャングルに覆われた緑色の島が見えた。島はおおよそ一八〇度のパノラマ上に広がっており、少しずつ近づいてくるように感じられた。南洋のごくありふれた風景だ。

 それを確認すると少しホッとした。

 まだ戦闘になっていない、と。

 だから安心して観察を開始していった。

(目の前には『大和』と同じ船がいるから、あれが「武蔵」か……もうボロボロに見えるのに平気なんて、凄いなぁ)

 普段のかすみらしく、感情的な感想を挟みつつ見渡した周囲には、大きく四つの隊列が存在することが分かった。

 一つは、旗艦「武蔵」を先頭にした隊列。

 その少し後ろには小柄な戦艦三隻を先頭にした隊列。そしてそのそれぞれの脇を固める、多数の小型艦で形作られた列。

 正確な数は分からなかったが、明らかに最初に見た頃よりも数が減っているのが分かった。また、整然とした隊列を形作っている船たちも、多くが所々不自然な形をしたり、どこかが欠けていたり、様々な場所が黒こげだった。ボロボロと表現できそうな船も一つや二つではない。

 そして、それでも前に進むことを止めようとはしていなかった。

 だからかすみは思った。

(そうまでして、ここに来る必要ってあるの。そうまでしてしなくてはならないの事なの)

 だから少し、今まであまり意識しなかった、戦闘中の曾お爺ちゃんの会話や意識そのものにも興味を抱いた。

 かすみにとってありがたい事に、しばらくすると曾祖父と数人の兵士が防空指揮所の内側に下がった。疲労回復のため特別配食(内容は、普通の戦闘食と変わらない)が配られ、時間的にちょうど一〇時のお茶といった軽食を取ろうとしていたのだ。

 だから、何か話しなりとも聞けるかなとも期待した。何しろ普段の宴会などでは、景気のいい話しか、卑猥な話ししかしてくれないからだ。


 曾祖父と三人ほどの見張り員は、主計にあまり負担のかからない乾パンと砂糖をたっぷり入れた紅茶という食事をしていた。これに数人に一個牛缶や鯨缶というアンバランスな蛋白源が付くのだが、ここにはそれがほぼ人数分あった。

 朝霧権三の人徳と主計課の計らいの結果だ。

 その権三が、一人のオジサンに話し始めた。

 最年長と思われる左腕を吊った負傷兵だった。

「渡辺中尉、負傷の方はもうよろしいのですか?」

「ああ、腕はしばらく動かせんらしいが、目の方はオマエらよりも元気なもんさ。夜中はずっと無理矢理寝かされていたからな。それにこの大和もすでに深い傷を受けているというのに、オレだけがのうのうと寝ているワケにはいくまい」

 さすが中尉。そう言った声が周囲からも漏れる。

 全員、丸二日も不眠不休で戦い続けているとは思えないぐらいの元気さだった。

 脂ぎった顔にある目は爛々と輝き、躁状態の人間独特の雰囲気を発散している。

 勝ち戦だから、というよりは連続した戦闘の興奮が今も継続しているように思えた。

 そしてその元気のまま、かなり大声での会話が続く。

「それより朝霧、本当に天王山はもう過ぎたのか? 敵はまだごまんといるんじゃないのか」

「はあ、正直、自分にもよく分かりません。この二日間、潜水艦、航空機、主力艦隊、空母機動部隊と考えつく限り全部の敵を相手にしてきましたが、相手は物量のアメ公です。まだこの先、艦隊の一つや二つ用意していても自分は驚きません」

「ですが、先ほどの艦内放送で、小澤艦隊がハルゼー機動部隊と交戦中と言っとりましたし、通信の連中も確かだと言っとります」

 二曹の階級章を付けた男が会話に加わる。

「七戦隊の水偵が、レイテ湾に大船団を見つけたと言う話しも聞きました」

「いや、それは我が戦隊から出した水偵だ」

「俺は、フィリピンの航空隊が、かなり離れた場所に敵艦隊を見つけたと聞きました」

「それが鬼瓦と多聞丸に噛みついている、ハルゼーの艦隊だろう。猛牛ハルゼーも鬼瓦に突進したら、今頃は自慢の角もボロボロだろうさ」

 最後に揃って笑い声が広がったが、二人の超ベテラン下士官が他の者のうわさ話に修正を加えていくという会話の流れに影響はなかった。

 下士官こそが情報の宝庫とは、まさにこのことだろう。だが、そのベテラン下士官達をしても情報が錯綜しているのが、この時の西村艦隊の状況をこれ以上ないぐらい伝えていた。

 情報は曖昧、眼前にどんな敵がいるのかは不明、しかし突進が止められる事はない。

 艦隊司令部が、余程強く決意していなければ出来ない事だ。

 情報不足のまま突撃を継続したら、目的地はもぬけの殻、その後にはハルゼーにこづき回されて全滅という事も十分に考えられる。

 だから、すべてを見通すことができるとされる下士官達ですら、内心の不安はかなりのものだった。部下の手前虚勢を張っているが、それは内心をのぞき見ることのできるかすみはそれを強く感じていた。

(やっぱり不安だよね)

 だが、曾祖父の表面上の威勢の良い会話や技術的な話の奥底で垣間見える思惑は、不安とは少し別の所にあるのを感じ取った。

(敵はいる、頼むから居てくれ。その為にオレ達はこんな所にまで来たんだ。マッカーサーさんよ、あんたには何の恨みもないが、この『大和』の牙にかかってくれ。そしたら戦も終わるんだ。そうすれば、オレの家族も国も助かるんだ)


 つまりはそう言う事だった。今ここにいる日本軍将兵の過半の者も、曾祖父と同じように考えていることが一瞬で理解できた。

 自分のためではない、銃後の家族や祖国のために彼らは今この地獄に身を横たえているのだ、と。

 それを感じたかすみは、恐怖にも似た感情以上に、気持ちが奮い立つのを感じた。

 私が何かをできるなら、最後まで見届けなければいけないと。 

 そして思った。

(早く出てこいマッカーサー)

 かすみは、その場の勢いや感情、また心の奥底に眠っていたであろう単純な怨嗟ではない感情がわき起こるのを感じていた。

 それは明らかに戦いを決意した者だけが至る、決然とした思いだった。


 だが、そこで強く揺れるような感覚を覚え、急速に意識が薄れていった。


 ◆ ◆ ◆


「もー、どうして起こしたのよ!」

 休日公開の日は終日ビュッフェとなっている『大和』の食堂で、みゆきがさつきに怒鳴りつけていた。

 当のさつきは、なぜここまで怒られねばならないのか疑問で一杯だったが、何の反論もせずにすべての言葉を甘んじて受けていた。

 第一砲塔に身体を擂り寄せたかすみは、かすみ以外の感覚ではすぐに揺り起こされ、一瞬の沈黙の後かすみがさつきに噛みついた。そして、そのままでは収拾がつかなくなりそうなので、案内の水兵が頭の上にクエスチョンマークをいくつも浮かべるまま、取りあえず気持ちを落ち着かせるとして休憩を取ることになった。

 今も余計な刺激をしないためと、水兵も離れている。

 そして、みゆきの眼前では、よかれと思ってかすみを急ぎ現実に引き戻したさつきと、それを怒るかすみが向かい合っている。

 みゆきもヘタに言葉を差し入れることはできず、またそうする事が愚かだと分かっていたので、静かに見続けるしかなかった。

 数分が経過して、かすみの舌鋒が途切れるのを待って、さつきが静かに切り出した。

「少し、落ち着いた? じゃ、ちゃんとワケを話してね」

「ウン」

 それまでとは打って変わって静かにうなづくと、先ほどの一瞬の間の出来事について、自身の考えを含めてポツポツと思いのままを話した。

 すべてを話し終えると、少し上目遣いに済まなさそうになったかすみの視線を真っ正面から受けたさつきが、小さく呟いた。

「そっか、ゴメンね」

「さつきちゃんの気持ちも考えずに、こっちこそゴメン」

 かすみが激しく首を横に振る。今度は少し涙声だった。

(よっしゃ、もおエエやろ)

 二人の気持ちが落ち着いたところで、みゆきは出番が来たとばかりにそこに勢いよく割り込む。

「よっしゃ、青春ドラマもそこまでや。さ、友情も再確認して気持ちも新たにしたところで、ゴールに向かって進もやないか!」

「もー、ちゃかさないでよ〜」

 笑いを含んだかすみの声と、微笑を浮かべながら小さく頷くさつきを見つつ、みゆきは思った。

(二人の顔つき、少し変わってきたんちゃうかな)


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