表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/33

壁に浮かぶ文字

エルフ×探偵×魔法ミステリです。


日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。


気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

「あっつぅぅ~、何か急に気温高くなってない?例年もこのくらい暑かったっけ、ていうぐらい暑いわね」


キャミソールに短パンという探偵事務所にそぐわない恰好で、気だるそうに長く金色に輝く髪を払いながら、先生は机に突っ伏している。

服すらも鬱陶しいのか、肩紐がはだけており、今にも全裸になりそうな雰囲気を醸し出していた。


ここ王都では夏が真っ盛りで、風が吹かない今日のような天気だと、窓を開けていてもうだるように暑い。


私はというと、この暑い中でも律儀にスーツのようなものを着ている。

外見を整えることは、安心して依頼をしてもらえる第一歩だと考えているからだ。

さすがにこの気温で背広を着るのは無理があったが。


「エフィ。今度の休みは調査を兼ねて海に行かない?」

「何を調査するんですか?」

「最新の魔道具を使ったアクティビティがあるみたいで、風魔法を応用した魔道具でいろんな体験ができるらしいの」


王都から海へは馬車で二時間ほどの距離にある。

この時期は海水浴客で街道が馬車に埋め尽くされることもあり、運賃も跳ね上がる。もっとも、魔獣が出れば大変なことになるため、私たちは護衛という形で無賃で乗せてもらえることが多い。

先生と違って私は魔法が使えないが、補助業務のほか、ナイフを使った近接戦闘もある程度こなせる。魔法学院に通う時間があればとは思うが、秘書業務で手いっぱいで、なかなかそうも言っていられない。


そんな他愛もない話をしていると、「カラン」と、事務所のドアが開かれた。


「レイリア探偵事務所に依頼でしょうか?」


ドアの傍には、長髪で無精ひげを生やした、いかにも不衛生そうな恰幅の良い男性が立っていた。


「依頼をしたいのだが、遺跡内の探索も可能だろうか?」

「はい、対応しております。ただ遺跡の探索は危険を伴いますし、それ相応の準備が必要になりますので、それなりに費用がかかりますが、よろしいですか?」


遺跡探索の依頼は、私がここで働き始めてから初めてだった。

遺跡といっても、大昔に作られたものから比較的新しいものまでさまざまある。戦乱の時代には、研究や実験のために作られたものや、戦禍で失われないよう財産を隠す目的で築かれたものが多かったという。

入り口は巧妙に隠されていることがほとんどで、全くの未知の遺跡を発見するのは容易ではない。また、人の手が及んでいないものには番人や罠が仕掛けられていることが多く、探索には常に危険がつきまとう。


「ああ。報酬は遺跡にある財宝の一割でどうだ?」

「財宝の一割……といっても、具体的にどれくらいの価値があるものなんですか?」

「わからない。だが、相当な財宝が眠っているとにらんでいる」


遺跡探索の話に最初は真剣な顔をしていた先生も、話が怪しい方向に傾いてきたと察したのか、興味を失い始めていた。未知の遺跡であれば国からも報酬が出て悪い話ではないが、既知のものであれば受けるだけ損だ。


「……報酬の話はまた後ほど。まず確認なんですが、未知の遺跡ということですよね。場所や入り口はわかっているんですか?」

「知らん。そこの調査から頼みたいと思っている」

「場所がわからないと、探しようもないのですが……」


カイルと名乗るこの男から出てくる言葉は、そこに宝が埋まっているはずだという確信ばかりで、根拠はいわゆる都市伝説の類に近い。どう断るべきかと考え始める。 こういった自説に固執している人物の依頼を断るのは難しく、こじれることも多いと経験上知っていた。

「廃墟に現れる文字の噂を知っているか?」

「聞いたことはないですね」

「ふん。探偵というのも案外大したことないのだな」


横柄な物言いだった。


「私が所有している土地にある廃墟の壁に、文字が現れるという噂だ。昔は孤児院だったところで、老齢の夫婦が管理していたが、亡くなったあとそのまま放置されていた。当時は何もなかったそうだが、時が経ち、壁が崩れ落ちたあとに露になった内側の壁に、時々文字が浮かびあがるようになったという。私も何度か足を運んだが、何も見つけられなかった」

「では、まずその文字を見つけることからですね。それにしても、財宝があるというのはどこからの情報ですか?」

「勘だ」

「……先生、どうします?」


横柄な態度も相まって、私は断る気満々で先生に振った。

こういった眉唾物の依頼なら、先生ならまず断るだろうと踏んでいたが、予想とは違う反応を示した。


「ん~……文字を見たことがある人に心当たりは?」

「話は聞いたが、読めなかったそうだ。だが、文章のように形は整えられており、暗号によって宝のありかを示しているんじゃないかと言っていた」


現代では使われていない文字――そう聞いた瞬間に、先生の目がわずかに輝いたように見えた。謎めいたものへの興味が、じわりと灯り始めたのだろう。


「とりあえず、廃墟に案内してもらえるかしら。そこで調査して、何か発見できれば依頼は受けます」


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


次回更新は5月19日(火) 20:00更新を予定しています。


続きが気になった方は、ブックマークや評価をいただけると励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ