61話 勇者パーティーの奮闘(5)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』
移動中、二頭の馬のような動物と出くわした。唾液に塗れた青紫の舌を垂らし、額の角を武器にこちらへ突進を試みる。先頭をいく勇者は怯まない。走力を維持したまま凄まじい剣技で斬り伏せた。実に頼もしい。
目立った障害はなく湖に到着した。広さはあまりないが深さはあるとヒーラーの簡単な説明を受けた。
俺は装備の着脱の時間を惜しみ、湖に踏み込む。引き止めるように勇者が肩を掴んだ。
「無理はしなくていい。少し休憩して皆で魚を獲ろうよ」
「平気だ。今まで隠していたが、俺は水中でも息ができる」
「それ、人間にできる芸当ではないよね? そんな場面は見たことがないし」
やんわりと食い下がる勇者に苛立ち、俺はヒーラーを睨み付けた。
「……キラクの話は本当です。わたしは見たことがあります」
「本当に? 僕達は割と長い間、共に過ごしてきたよね。それなのに僕だけがその事実を知らないってこと?」
「私も知らなかった」
地面に座っていた魔法使いが控え目に手を上げた。
意見が割れた。時間が惜しいので俺は勇者に話を切り出した。
「わかった。それならカノンも付いてくればいい」
「そうさせて貰うよ」
俺と勇者は揃って湖へ入っていった。
砂地を多く含んだ湖底はなだらかで歩き易い。透明度もそこそこで中型くらいの魚が横切った。小魚も多いが無視した。短時間で四人の腹を満たせる大物を狙う。
集中して見ていると何度も肩を叩かれた。目をやると勇者が苦しそうな表情で口から泡を漏らしている。頻りに上を指さし、急ぎ足で戻っていった。
邪魔者がいなくなったところで俺は深部を目指す。暗闇無効のおかげで視界は明瞭で潜んでいた大魚を見つけた。
底は砂地なのでしっかりした足場を確保。左手の指の間に短剣を挟み、右手に短剣を握る。水の抵抗を考慮して全力で投げた。
大魚の本体を狙わず、死角を意識した。放った短剣は大きな弧を描き、投擲(必中)で定めた腹部に切っ先が迫る。
危険を察知したのか。大魚は泳ぐ速度を上げた。必中なので絶対に逃げ切れない。ただし、あまり遠くに行かれると回収に時間が掛かる。
迷いながらも二本目の短剣を投げた。大魚は必死になって躱し、速度を上げる。しかし願いは叶わず、短剣の一本が腹部に刺さった。その状態で尚も逃げようとして頭部に致命的な一撃を受けた。
大魚は力なく尾ひれを動かし、ゆっくりと沈んでゆく。かなり距離があるので俺は焦りながら歩いた。
砂煙を緩やかに上げながら大魚を拾い上げた。刺さっていた短剣を抜き取り、改めて見ると本当に大きい。掴んで歩くと水の抵抗を感じた。
戻る最中、俺は湖底に淡い光を目にした。虹色の輝きとわかり、歩いて近づく。半ば砂に埋まっていたそれを掴むと宝玉だった。
勇者が引き返した位置ではない。湖の中心に近いところに落ちていた。
妙な胸騒ぎを覚えた。水中で耳を澄ましたが音は聞こえない。場所柄、聴力が落ちていると思い、前のめりで歩いた。
湖面が燦然と輝く。綺麗なものに混ざって波打つような声が聞こえた。
「勇者も大したことないな」
「こいつの締まり具合は良かったぜ」
「先に中で出しやがって」
「それでこれからどうする? 宝玉はなかったが」
「報告はした方がいいだろう。成果はあったからな」
その会話だけで俺の頭は沸騰した。目から押し出される涙は湖で洗い流し、湖面に顔を突き出した。
瞬間、四人は驚いて後ずさる。俺は構わず、尚も歩く。
三人は戦士で剣と斧を持っていた。残りの一人は俺と同じような軽装だった。
その四人組が最初にいたところに身ぐるみを剥がされた勇者が仰向けで倒れていた。首は半ばまで切られ、大量の血が大地を塗らす。心臓に当たる胸には数か所の刺し傷が見られた。魔法使いも同様の裸体で俯せとなった背中には滅多刺しの痕跡が残っていた。
少し離れたところにヒーラーが仰向けで果てていた。両手首は斬り落とされて傍らに転がる。法衣は無残に引き裂かれていた。露出した白い胸は爪で抉られ、剥き出しの下半身には白濁とした飛沫が見て取れた。
戦士の三人は目配せをした。各々の武器を構え、こちらに距離を詰めてきた。
「お前、見たことがあるぞ。勇者の仲間のキラクだな」
「お前は名乗らなくていい。ただの人間のクズだ」
「調子に乗るなよ。短剣の不利を教えてやる」
剣の切っ先を俺に向けた。柄の宝飾を見て怒りは頂点に達した。
「勇者の剣は、お前に相応しくない」
俺は掴んでいた大魚を離し、代わりに短剣を握る。
これ以上の会話は不要と一気に加速。四人の背後で止まると悲鳴が上がった。剣を落とした一人が手首を掴む。指の間から溢れた血が地面を濡らす。
「少し切った程度だ。大袈裟なヤツだな」
俺は嘲笑うように言った。
「お、おい、お前らもやれ!」
「急かすな! 今から仕掛けるところだ」
斧を振り被った一人が正面から突っ込む。左から戦士が斬り込み、右は盗賊の小型の槍が脇腹を狙う。
急加速で後方に下がり、地面に片手を突いた。小さな石を纏めて握ると全力で投げた。
三人はほぼ同時に片目を押さえ、震える身体で膝を突く。痛みに耐えられない一人が小槍を手離し、地面に額を擦り付けて呻く。
「死なないだけ、マシだろ」
四人を睨みながら口だけで笑う。
最初に切られた一人が強張る笑みで何度も頭を下げた。
「俺達が悪かった。許してください。魔王の言葉に逆らえなかったんだ。わかってくれるよな?」
「……そろそろ本気で切り刻んでいいか」
「命だけは……許してください。他のことなら、なんでもしますから」
一人の懇願に他の三人も同調した。土下座で許しを請い始めた。
黙した状態で勇者と魔法使いを目にした。最後にヒーラーを見て喉から声を絞り出す。
「三人の勇者は……俺よりも遥かに強い。無抵抗で殺された理由を、噛み締めろ。遺体は丁重に扱え。拒否すればお前達を殺し、家族や関係者を根絶やしにする」
「わ、わかりました! 申し訳ありませんでした!」
「……もうしません……ごめん、なさい」
涙声で鼻を啜る。俺の凄まじい怒りで誰も顔を上げられない。
去り際、俺は吐き捨てた。
「魔王と同じで勇者も怪物だ。覚えておけ」
嗚咽に混じって、はい、と濁音混じりの返事を耳にした。
俺は振り返らない。勇者パーティーとして過ごした日々を思い出さない。
悲しみは捨てた。振り切るような疾走に移る。勇者が頑なに目指した王都へ。
流れる涙は瞬く間に乾いた。ぶつけようのない怒りが全身を焦がし、俺は一度、天に向かって吼えた。




