55話 理想のデート(2)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』
二人で歩いている時から、すでに違和感があった。人で混雑した道なのに歩き易い。こちらに気付くと人々は自発的に端へ寄ってくれる。服装のせいではないだろう。着慣れてはいないが、カジュアルなスーツは珍しい格好ではない。
俺は不自然にならないように軽い感じで口にした。
「この街の人達は親切だよね。俺達の為に道を譲ってくれる」
「望君だからだよ」
「俺が特別?」
「望君のご両親がスペシャルなんだよね。この街で知らない人はいないんじゃないかな」
いきなり規模の大きな話になった。さすがに自分の両親について訊くとマズイような気がする。大金持ちと仮定して考えても疑問が生じる。家は普通の一戸建てで豪邸の部類には絶対に入らない。小さな庭には立派な枝ぶりの松もなかった。
その時、謙遜という名案が思い付いた。
「大袈裟だよ。家だってそんなに大きくないし」
「望君の希望通りの家だよね? お城のような家は嫌だから庶民的なのが欲しいって。たぶん、誕生日プレゼントだったかな。それで買って貰ったって聞いたけど」
「あ、ああ、そうだった。ごめん、度忘れしてた」
現実でそのようなことがあり得るのか。そこで思い直す。理想のデートなので必ずしも現実に添った話ではないと。その考えで辻褄は合うように思う。そうなると今後も非現実的なことに出くわすのだろうか。
この世界で起こることに過敏に反応しない。驚かないで平静を保つ。これが秘訣で正しい心構えのような気がした。
駅が見えてきた。ロータリーの中心に銅像のような物がある。後ろ側を歩いているのではっきりしないが、三人の人物が横並びになっていた。真ん中にいる人物は低いので子供に思える。
銅像を回り込むと三人の顔がはっきりした。顎髭を生やした偉丈夫が父親で、母親は毅然としながらも優しい笑みを浮かべていた。中心の子供は、まさかとは思うが俺の幼少期に似ている。
「家族の銅像か」
「そうだねー。望君の小さい時って、あんなに可愛かったんだよね。今はカッコイイになってるけど」
「それほどでもないよ」
驚いたが真顔を通した。とんでもない一家である。
瓦屋根のレトロな駅舎に入ると左手側に券売機があった。映画館のある駅がわからないのでICカードを使う。所持の確認の為、スーツのポケットに手を入れた。そこには財布が無かった。
スーツの裏側のポケットに長財布が入っていた。摘まんだだけでわかる。相当な厚みがあった。引き抜いた直後、声を上げそうになった。
二つ折りの財布がピンと立っていた。収められた万札は一目で数えられない。曲げられない程の量が詰まっていた。
背中に冷たい汗を感じながら名刺入れのところに目をやる。黒や金のカードに挟まれたICカードを見つけた。取り出すと不信感が湧き出す。
水色の表面に白抜きのローマ字が見て取れる。『Iwakura』は俺の苗字だ。長財布と化した物を内ポケットに突っ込み、取り敢えず改札機に読み取らせた。
重厚な音楽が流れる。音源は改札機ではなくて駅全体から聴こえた。
「早く行こうよ」
女神の声で立ち止まっていることに気付き、そうだね、と口にして改札機を通った。そこに駅員が駆け付ける。さすがに緊張は免れない。
その中、駅員は深々と頭を下げた。
「岩倉様、本日はご利用ありがとうございます。間もなく電車が参りますのでホームの最後部でお待ちください」
「あ、はい。どうも」
適当な言葉が出て来ない。カードの不正利用で駅長室に連れて行かれると思った。その想像とは真逆の展開になった。
胸の動悸を感じながらホームの最後尾で電車を待つ。腕を組んだ女神はわくわくするような笑顔になった。
「うちって望君と一緒に乗る電車が好きなんだよね」
「そうなんだ。意外だけど鉄オタなんだね」
「そうじゃないよー。車の利用が多くて忘れたの?」
「そんなことないって。慣れ、かな」
上手く誤魔化せたのだろうか。女神は俺の腕に豊かな胸を押し付けて、もう~、と甘えた声で怒って見せた。
ホームに電車の到着を告げるアナウンスが響く。
目の前で緩やかに減速する車両に目新しさはなかった。特別車両のような豪華な作りでもない。女神が喜ぶような要素はどこにもなかった。
電車が完全に停車した。幅広の扉がスライドするとアテンダントみたいな女性が頭を下げた姿で現れた。
「岩倉様、本日のご利用ありがとうございます。短い時間ではありますが、ごゆるりとおくつろぎください」
女性は速やかに端へ寄る。
「ありがとう」
緊張しながらもちゃんと声を出せた。俺は女神と一緒に乗り込んだ。
最初に左方向を見た。通路を挟む位置で二つのドアがあった。その先は行き止まりになっていて他の車両への行き来はできない構造だった。
右方向にあるドアは自動で開いた。
女神は、最高だね、と言って傍らに置かれた冷蔵庫を開ける。中から一本のボトルを取り出す。側面の壁には逆さまのグラスが吊り下げられていた。大人数でも対応できそうな数から適当に選び、正面の大型ソファーに座った。
俺は無表情で女神の隣に腰を下ろした。自然と目は上下に動く。後部全体がガラスで出来ていた。
電車が走行するだけで迫力を感じる。見たこともない光景に少なからず興奮を覚えた。
「やっぱり、電車っていいよね」
女神はボトルのキャップを開けた。黒檀のようなテーブルに置いたグラスにレモン色の液体を注ぐ。表面が泡立った状態で俺へ、そっと押し出した。
手にしたグラスを傾けると喉に程よい刺激を受けた。仄かな甘みを感じる。質のいいスパークリングワインのようだった。
なんだ、この世界は?
思わずにはいられなかった。




