54話 理想のデート(1)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』
俯せの状態で意識を取り戻した。立ち上がる気力が湧かない。取り敢えず、顔を横に向けた。
そこにホットパンツの女神がしゃがんだ姿でいた。何も言わずに微笑んでいる。異世界の顛末は知られているので沈黙はそれなりの配慮なのだろう。
わかってはいても俺が耐えられない。
「……あと少しでした」
「そうだね」
「汗が目に、入らなければ……悔しい気持ちで、いっぱいです」
悲惨な最期を思い出しただけで声が喉に詰まる。女神は相槌を打たず、ただ目を伏せていた。
「立ち上がれる?」
そっと出された手をぼんやり眺める。
「もう少し、このままで」
「うちも付き合うよ」
女神はしゃがんだ姿で見守る。ぴったり閉じた脚は鉄壁で奥は見えない。できる範囲で顔を小刻みに動かしても無理だった。
「元気じゃん」
一発で見抜かれた。俺は冷静な顔で焦った。
「スカートならもっと元気になれました」
「ブチッと、もいであげようか?」
「ごめんなさい。調子に乗りました」
素直に謝ると女神は笑顔で、許してあげる、と快く返した。
他愛の無い会話ではあるが、少し楽になった。両手を突いて上体を起こし、立ち上がって胸を張る。
勝ち気なポーズで気力を取り戻す。旅立つ覚悟ができた。
真っすぐカプセルトイへ向かい、ポケットのコインをセットしてハンドルを回す。
出てきたカプセルに目を見張る。いつもの紫色はピンク色になって出てきた。手にして回すように全体を眺める。
その様子に女神が、ええっ、と驚きの声を上げた。
「急にどうしたのですか?」
「それって女神ガチャのカプセルなんだけど」
「回したら出てきました。あのぉ、開けてもいいですか?」
「いいけど。なんでだろう」
困惑した表情で女神はカプセルを訝しく見つめる。
その目を意識しながらカプセルを割った。通常と同じように入っていた紙を広げる。書かれた言葉を見て今度は俺が首を傾げた。
これは俺用のスキルではない。それにしても『女神と理想のデート(一回)』とはなんだろう?
よくわからないまま女神に紙を渡した。目にした途端、瞬きの回数が多くなる。目頭を指で揉んだあと、目を見開く。変わらない内容に溜め息を吐いた。
「前に他の女神から聞いたことがある。これはレアイベントだね。うちは強制参加みたいな感じなんだけど」
「もしかして私にとっては素晴らしい体験になるのでしょうか」
「そうだと思うよ。理想のデートって書いてあるし。でも、一回だからね。使ったら終わりだから」
「そうですね。とても楽しみです」
心と同様に声も弾む。理想のデートが確定しているので不安になる要素はどこにもなかった。
その相手となる女神は困ったような笑みで未だに紙を見て、マジで? と本音を漏らす。
「女神様、今回はいつもの役割をお互いに忘れて純粋にデートを楽しみましょう」
「こんな機会は初めてだから、なんか緊張してるかも」
「私がちゃんとリードします。華やかな記憶として残るような素晴らしいデートにして見せます」
「まあ、それなら……」
恥ずかしそうな笑みで軽く頭を下げた。
気を取り直していつものように女神が紙を握る。指の隙間から光が溢れ、瞬く間に広がって周囲を白く呑み込んだ。
「起きて」
耳元で柔らかい女性の声がする。その余韻に浸っていると微かな息が掛かる。
「望君、朝だよ。起きて」
俺は目覚めた。ふんわりしたオレンジ色のチュニック姿の女神が上から覗き込むような姿で微笑んでいる。上体を傾けているので胸の膨らみが増して実に柔らかそうだ。
「……胸、触ってもいい?」
「えー、朝から元気なんだからぁ。時間がないから、少しだけ」
胸を差し出すように近づける。俺は掛け布団から手を出して触れた。ムクムクと大きくなった悪戯心で瞬時に揉んだ。
「触るだけって言ったのにぃ」
声だけで嫌がる素振りを見せない。俺は限界を知りたくなった。
「キスしてもいい?」
「えー、ぶっころ、いいよー」
不穏な言葉が合間に挟まる。細めた目が僅かに開き、怒りを滾らせた。
「なーんちゃって。モーニングジョークだよ」
「なーんだ。そうなんだね。こっちは全然オッケーだったのに」
気さくに返す。柔らかい対応ではあるが、安心感はまるで得られない。今にも殴り掛かってきそうな拳がちらつく。
俺の理想のデートなので反抗は難しいと。あとが怖いから程々にしないといけないな。
相手は女神。魔王に匹敵するかもしれない脅威である。軽はずみな行為は身を滅ぼす。
そうは思っても女神を自由に扱えるチャンスは早々こない。それもわかっているのでどうしても思考が桃色の方向へ傾いてしまう。
男の性と思い込み、爽やかな笑顔で起きた。
手早く着替えを済ませると揃って家を出た。女神は当然のように腕を組んできた。
「今日の映画、楽しみだね」
人懐っこい笑みで予定をそれとなく語る。
「どんな内容だったかな」
「えー、望君が進めたホラーだよ? またジョーク?」
「もちろん。でも、大丈夫? 怖かったらいつでも俺が抱き枕になるよ」
「その時は、調子に、頼むね。いっぱい、抱き付いちゃうかもぉ」
上目遣いが愛らしい。間に挟まれた本音にビクッとしたが。
波乱に満ちた楽しいデートになりそうだ。




