53話 大迷宮に挑む(5)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
アクションスキル 『空中跳躍』
殺到する巨人の苛烈な攻撃が始まった。振り下ろされた棍棒の一撃は直撃しなくても俺を風圧でよろめかせた。素早く体勢を立て直し、短剣特効の速度で切り抜ける。別の巨体が邪魔をして即座に回避運動を行った。
その最中、放たれた巨大な槍の一撃には肝が冷えた。思わず、頬に手を当てた。走りながら掌を見たが血は付いていなかった。
巨人による猛攻は続く。個々の動きは遅くても波状攻撃は厄介で、かなりの苦労を強いられた。上回る速度で抗い、最後となる二体の巨人の僅かな隙間を辛うじて走り抜けた。
快哉を叫ぶ前に甲冑の重戦士と出くわす。人間サイズで四体もいた。巨人が目隠しになって全く見えていなかった。
身の危険を感じた時には手遅れで俊敏な動きで囲まれた。
俺は体当たりをするように突っ込む。人間らしい感情は持ち合わせていないのか。銀色の剣は易々と身体を貫き、首を横薙ぎにした。
動じない俺は無傷で走り抜けた。全ての攻撃は物体透過で無効化できた。
言葉にならない叫びを上げ、洞窟に駆け込んだ。十メートルも進んでいない位置で立ち止まって後ろを振り返る。追撃の様子は見られない。
不思議に思いながらも胸を撫で下ろし、明かりのない洞窟の奥へ歩き出した。
暗闇無効のおかげで問題なく進めた。ここまで仕掛けらしいものはなかった。
目の前にあるこれが最初になるのだろう。右側は荒々しい岩盤で左側は崖になっていた。覗いてみると相当に深い。物体透過で対応できるかわからない。命があったとしても抜け出せないと、最悪、餓死に追い込まれる。
俺は細心の注意を払い、歩を進めた。途中で何度も足を止めて後ろを確認した。仕掛けが稼働するタイミングは真ん中と考えた。その位置では退避が間に合わず、かと言って前進も叶わない。死が濃厚となる位置であった。
あと少し。感覚では三歩くらいか。
心の中で数えながら一歩を踏み締める。
二歩目で細かい振動が伝わり、左側の岩盤が迫ってきた。
覚悟はできていた。動揺による出遅れは一切ない。いきなりの全力疾走で辛くも試練を乗り越えた。
息切れが収まるのを待ってから奥へ向かって歩き出す。
その後はトラップの連続だった。動く飛び石や振り子の鎌などが行く手を阻む。自力の攻略にはこだわらず、空中跳躍や物体透過のスキルを使って突破した。
ここが最後の関門なのか?
洞窟らしさを失い、人工的な作りに変わった。扉を前にした俺は両手で押した。中央が割れて内側に開いた。入ると勝手に閉じる。
直線状の通路の先にも扉があった。豪華な作りで表面には細やかな金細工が施されていた。最後の扉に相応しい。
もちろん、普通に歩いて到達できるような作りにはなっていなかった。天井に目をやると槍の穂先のような物がびっしりと埋め込まれていた。手で試す気分にはなれないので不要となった鍵開けの道具を使うことにした。
仕掛けが反応する仕組みがわからないので無造作に投げてみた。
次々と槍が飛び出し、瞬時に戻る。その速さが尋常ではない。残像が見えたような気がした。投げた道具はアルファベットのZのような形で折れ曲がっている。恐ろしい精度を見せ付けた。
俺は奥の扉を眺める。目で距離を測ると二百メートル前後といったところか。長くはないが短くもない。天井に仕掛けられた槍は半ばで終わっていた。
物体透過の連続使用には疑問が残る。弊害はないのだろうか。
敵の剣技を無効化して物体を通り抜けた。魔法は試していないので不明だが、物理的には無敵を誇る。チートレベルの性能なので反動を思うと恐ろしい。
今一度、仕掛けに注目した。
短剣一本で避けられる速さではない。運向上のスキルの恩恵に過大な期待を寄せて串刺しにされたくはない。そうなると正攻法の攻略があるということなのか。
その僅かな綻びに俺は気付いた。視力向上の効果もあるのだろう。床にある点のような穴は槍の穂先が作ったものだ。
不要な短剣は腰に引っ掛け、下を見て歩き出す。微細な穴も見落とさず、慎重に避けて進む。
自分の呼吸だけが聞こえる。ゆっくりと踊るようにステップを変えてゆき、中程で見上げた。槍のゾーンを超えていた。
前を見ると扉がやけに大きく見えた。真顔が維持できない。不自然に上がる口角で拳を固め、何度も小さく振った。
達成ガチャが頭に過る。何度、転生しても手が届かなかった。半ば諦めていた。
それが今、目の前にある。あの扉の向こうで全裸の女神が手招きをして待っている。ふくよかな胸の谷間に顔を挟まれ、ガチャしてぇ、と甘ったるい声で囁くのだ。
妄想に限りなく近い想像で果てそうになった。軽く頭を振って歩き始める。
直後に身体のバランスを崩す。床が上へ動き出した。腰の短剣を手にして全力で走る。天井に挟まれる前に抜け出そうとした。
だが、間に合わない。その直感を信じて物体透過を使った。
「危なかった~」
顔だけが出た状態で扉を見下ろす。額に滲んだ汗が滴となって流れ、目の中に入った。右手の人差し指で拭うと手首から落ちた。
続いて視界が回転。飛び跳ねるような光景が終わると天井と床に挟まれた自分が見えた。
物体透過は、こんなにも、効果が短い、のか……。
石の中にいる。そんな言葉が頭の中に浮かんで意識が薄れていった。




