52話 大迷宮に挑む(4)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
アクションスキル 『空中跳躍』
単独による水中探索が始まった。暗闇無効のスキルのおかげで視界は明瞭。敵影に怯えることもなく順調に見て回れた。
それはいいのだが何の発見もない。廃墟を意味なく散歩している気分になった。
たまに目にする穴の開いた天井は高さがあり、泳がないと届かない。跳ぼうとしても動作だけで終わる。水中歩行は便利だが制約も多かった。
かなりの時間を費やした。相当な距離を歩いたが疲労は少ない。独特な浮遊感に全身を包まれていたことが幸いしたのだろう。
運気が上昇しているのか。行き止まりに差す光を見つけた。都合がいいことに崩れた柱が折り重なって歪な階段を形成していた。
俺は用心しながら上がって、一度、立ち止まる。ゆらゆらと揺れる水面を下から見ながら顔だけを出した。
そこは細長い通路で密閉された空間だった。一方の奥には典型的な宝箱が置いてある。危険は潜んでいないと判断して、いそいそと向かう。
高揚した気分は一気に叩き落された。宝箱の鍵穴を見つけてしまった。
一応、開錠する道具のような物は持っていた。技術がないので使える気がしない。だからと言って何もしないで通り過ぎる程、人間が出来ていない。
俺は蓋の部分を両手で挟み、瞬時に力を加えた。簡単に開いて、え? と声が漏れた。
中には小ぶりの大腿骨のような物がひしめいていた。全てに着色がされているようで金色や銀色が目立つ。
試しに一本、手に取ってみた。重さはあまり感じない。振ってみたが鈍器としての威力は期待できず、そっと元に戻した。
目は通路の先を見る。突き当りに水溜まりができていた。足早に向かって見下ろすと地下に繋がっているようだ。
早々に俯せになると顔だけを入れて周囲を見回す。
相当に広い空間であった。支える柱が何本も見えた。戻る為に必要な階段は存在しないので判断に迷う。
ここまできて引き返すメリットはほとんどない。集落に戻って人魚にちやほやされたとして、それが何になる? 達成ガチャは絶対に回せないぞ。寿命がくるまで生きても同じ。前の異世界で痛感したよな。
心の声で奮い立たせて水の中へ飛び込んだ。
そこは想像を超えた広さを有していた。どの方向を見ても柱があり、同じ光景に見える。一方に決めて歩いても壁に行き当たらない。ループのトラップが仕掛けられていると本気で思った。
飢え死にを意識し始めた頃、柱に隠れた石段を発見した。老朽化は進んでいたが踏み付けるとしっかりとした感触が伝わる。
笑顔で階段を上がると青い空が見えた。暖かい外気に触れて全身に喜びが満ち溢れる。
その時、視界に巨大な物体が入り込み、すかさず前へ跳んだ。灰色の壁に隠れた状態でゆっくりと片目を出し、一方を注視する。
青い肌をした巨人が赤黒いこん棒を握ってうろついていた。背後から微かな音がして見つけた袋小路に逃げ込んだ。先程と同じように様子を窺う。
黒い甲冑を着た人物が赤錆びたような剣を引きずって歩いていた。話が通じる相手に思えない。会話を可能とする首がなかった。
魔物の巣窟に迷い込んだらしい。方々から人間とは思えない異音が聞こえる。聴力向上を活かし、隠れながら移動した。
幾つ目かの角を曲がった直後、全身が凍り付いた。
壁を背にしてぺたんと座る人物がいた。ボロを身に纏い、脂ぎった長髪が顔を隠していた。僅かに見える唇は赤みが差して女性らしさを醸し出す。
女性は一言も話さない。手前には道具が整然と並べられていた。その中には短剣もあった。
用心しながらも近付き、小声で話し掛けた。
「……これらは売り物ですか」
「そうよ。買う?」
唇が笑みの形を作った。
「これが欲しいのですが」
俺は短剣を指さした。
「お金はある?」
「これでしょうか」
腰に取り付けてあった小物入れから硬貨を取り出した。一目で女性は頭を左右に振った。
「それ、人間のお金。ここでは使えない」
「具体的にはどんな形の物ですか?」
「金や銀の、骨みたいな物よ」
俺はその場で頭を抱えた。しゃがみ込んで歯軋りを起こす。
密閉空間で見つけた宝箱に入っていた。かなりの量があった。あれらが全部、金とは思いもしなかった。
場所は覚えていても戻れない。それでも短剣は欲しい。魔物が徘徊する場所なので強奪が頭を過った。
この短剣があれば、この窮地から抜け出せる。奪うか? 短剣特効の速さなら、あるいは――。
決意した直後、素早く短剣を掴んだ。
瞬間、女性は甲高い悲鳴を上げた。地響きを伴う音が急速に近付いてくる。
俺は迷わず、走り出した。挟み撃ちを嫌い、入り組んだ通路に逃げ込んだ。
追いすがる音を完全に引き離し、広い場所に飛び出した。
ありとあらゆる種類の巨人がたむろしていた。俺に気付くと傍らに置いた武器を手に取り、怒りの形相で向かってきた。
俺はその先にある洞窟を目指し、単身で突っ込んでいった。




