51話 大迷宮に挑む(3)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
アクションスキル 『空中跳躍』
引きずり込まれた上に底へ向かって投げられた。水泡に邪魔されて相手の姿がはっきりしない。
複数ではなかった。単独でほっそりした素足が見えてきた。残念なことに尾びれのようなものが目に付いた。厚みのない胴体の中程に細い腕が生えていて、胸は人間の女性と変わらない。小ぶりだが形としては好みの範疇に入る。
肝心の顔はそのまんまの魚であった。びっくりしたような魚眼なので感情は読み取れそうにない。
倒壊した建物の一部に俺は降り立った。奥に通路のようなものが見えるので地下になるのだろうか。
眺めていると人魚(?)が顔を近付けてきた。丸い目で俺の横顔をじっと見る。終始、尾びれは振られていて子犬のような愛嬌を醸し出す。
「オ、オマエ、マーマン?」
水中歩行のスキルの効果で同族と思ったらしい。見た目が人間なので半信半疑になっているのだろう。
そこで俺は調子に乗った。ニヤリと笑って踏ん反り返る。
「チガウ。オレハ、キングマーマン、ダ」
ゴブリンの時に培った片言が活きた。
人魚は真顔で後ずさり、その場で横向きに倒れた。焼き魚の生バージョンを見せ付けられた。
反応に困った俺は命令口調で言った。
「オキテ、アンナイシロ」
「キング、ワカッタ」
人魚は跳ね起きると奥にある通路へ向かう。俺は大人しく付いていった。
そこも上と同じように入り組んだ作りになっていた。俺一人ではとても抜けられそうになかった。
優秀な案内人を得てすんなりと難所を通過した。先にある瓦礫は階段として使い、浮上を果たす。
青い空を見てほっとした気分に浸る。
「コノ、サキ」
人魚は左右に揺れながら歩いた。覚束ない足取りと無防備な姿に一度はハンマーの柄を握った。
いや、まだ利用価値はあるか。
思い直して背後に付けた。
半壊した石の門を抜けると集落のようなところに出た。石を積み上げて作った家は五つを数える。その中に水溜まりも見られた。側を通る時に覗くとかなり深い。別の地下に繋がっているようだった。
この水溜まりは探索の時に使えそうだ。集落を起点にして動くことも頭に入れておくとしよう。
「キング、ココ。ゾクチョウ、イル」
他とは大きさが違う。先に人魚が恭しく頭を下げて歪な穴に入っていった。少しの間を空けて俺が続く。
中に入ると真っ先に目に留まる。
人魚達が横一列になって正座をしていた。その太腿の上に脂の乗ったサンマのような物体が横向きになっていた。
俺を案内した人魚がサンマに話し掛ける。
「ゾクチョウ、マーマンキング、ツレテキタ」
「マーマンキング!」
族長は声を上げた。鮮度をアピールするようにビチビチと跳ねて起き上がる。
部屋の隅に積み上げられた木や紙を引っ張り出し、コレ、チガウ、と何回か繰り返して一枚の古ぼけた木を俺に見せた。
「キング、コレ。ツタワル、ハナシ」
文字ではなくて拙い絵で表現されていた。手足が生えた、てるてる坊主が立っていた。その前には族長のようなサンマがずらりと並ぶ。たぶん、立っている人物を俺に見立てているのだろう。
「オレダ」
そこに居合わせた全ての者が濁声を出した。驚きの表現、または賞賛の声なのか。判然としないが歓迎はされているようだ。外に飛び出した族長に合わせて濁声の合唱となった。
俺は部屋の隅に積まれた物に目をやった。
あの量なら、それっぽい物もあるだろう。
声には出さず、その展開を見守る。
間もなく俺はマーマンキングとして受け入れられた。その流れの一環で冒険は中断して宴が催された。
酒の類いはなかったが食べ物は提供された。平たい石の上に処理された魚肉がずらりと並ぶ。俺は思わず、集落の者達を目で数えた。
恐る恐る口にして驚いた。お刺身感覚で食べられる。醤油や塩の調味料がなくてもコリコリとした食感と仄かな甘みのおかげで食が進んだ。
腹いっぱいになる頃合いで宴が終わる。俺は族長に宛がわれた棲み処へ出っ張った腹でのんびりと向かう。
その最中、目立たないところにいた人魚に目がいく。両膝を突いた姿で頭を下げる。傍らには別の人魚がいて頭部を撫でるような動作を繰り返す。
俺は目を逸らし、家の中へ逃げ込んだ。
やっぱり、食ってるじゃねぇか。
干し草を敷き詰めた寝床でごろりと横になる。思った通り、寝付きが悪い。瞼を閉じると無言で泣き崩れる人魚が頭に焼き付いて離れない。妄想も入っているが、それが真実に思えた。
長居はしない方がいい。切実に思った。
でも、美味しかった。そんな考えも浮かび、眠気で意識がふやけていった。
翌日、目覚めた俺はひっそりと水溜まりの中へ入っていった。




