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第十七章 青すぎる空 6

フェリシアは地上にたどり着いても、まだ、震えていて、小さい子供のようにクレアの足にしがみついていた。

(トラウマにならなければいいが。)

クレアはそう思った。

ロブに抱かれてエミリアが無事にもどってきた。

ロブの手から離れると、エミリアはレインが戻ってくるのを待っていた。

レインがカインの機体に乗って、もどってきて、機体から降りると、エミリアは即座に駆け寄り、レインに平手打ちを食らわした。

平手打ちをしたエミリアは紅潮した顔で震える手を押さえ、隠した。

レインは感謝こそされるはずが、平手打ちを喰らって、頭の中が真っ白になった。

「何度言ったら、わかるのかしら。自分の命を大事にしなさいって言ったでしょう。」

その言葉に、自分のおろかさを痛感したレインだったが、エミリアに対して何もいえなかった。

「一度言ったはずよ。わたしは殿下をお守りする使命があると。殿下のためなら、命も惜しくはないわ。」

そのことばに、レインは反論した。

「それは命を粗末にすることにつながるでしょう。」

「違うわ。軍人は、国民を守る義務があるわ。国民は殿下の死を望まないわ。わたしの使命は殿下の命を守ることで真っ当するのよ。」

エミリアが言い放つと、ジェフがエミリアの肩に手を置き、制止した。

「レインは、軍人じゃない。一般人だ。」

エミリアは自分の思い込みに気がつき、「申し訳ありません。」とジェフに謝った。

「わたしの使命や、軍人としての義務を説く理由がありませんでした。ごめんなさい。」

レインにエミリアは頭を下げたが、顔を上げることはできなかった。涙がこぼれているのを見せるわけにいかなかったからだ。

レインに想いを伝えられない悔しさを感じつつ、自分の気持ちは隠し通さなければいけないと覚悟した。

レインはぶたれた頬を手で押さえて、パジェロブルーに向かって走った。

座席に入りたかったが、そこにはロブが立っていて、ロブはレインを強く抱きしめた。

レインはロブに抵抗したが、それでも強く抱きしめてくるので、声を押し殺してロブの胸に頭を押し付けて泣いた。

レインが前からいなくなったのを確認したかのように、エミリアは顔をあげて、目を両手で隠した。

そして、空を見上げた。

そこには、フェリシアを迎えにきた空挺が飛行していて、着陸しようと試みていた。


フェリシアはエミリアがレインを平手打ちしていた様子を目の前でみていた。それをきっかけに、震えが止まった。

そして、クレアの足から、手を離し、立ち上がった。エミリアが近づいてくると、必死と抱きしめた。

「フェリシア、もう大丈夫よ。」

「ええ、そうね、エミリア。」

空挺から、フェリシアの従者が現れ、フェリシアに手を伸ばしたが、拒否した。

お互い肩をだきながら、フェリシアとエミリアは空挺に乗り込んだ。

パジェロブルーの前で、レインは泣き続けた。エミリアたちが乗った空挺がその場を去るまで。

太陽は、沈みかけていて、周囲は赤く染まっていた。

やるせない気持ちが漂うジリアンとクレア、そばにいてあげるのが最善だと思っているロブ、レインとエミリアの心情を読み取ってしまったジェフ、このような事件がなぜおきてしまったのだろうと不安に思っているカイン。

それぞれの想いが、交錯して、あたりは暗くなろうとしていた。


事件の真相が明らかにされないままに、フェリシアは要塞から発たなければいけなくなった。

発つまえに、フェリシアはエミリアの気持ちを確かめようと思い、二人っきりになって話をした。

「エミリアはレインのことが好きではなかったの?」

その問いに、なかなか答えることが出来なかったが、フェリシアに胸のうちを明かしても、レインには伝わらないだろうと確信していたので、話すことにした。

「レインのことは好きよ。」

「では、なぜ、ぶったりしたの?」

エミリアはフェリシアの目を見ながら答えた。

「黒衣の民族に襲われた時、致命傷を負ったレインを腕の中で抱きかかえて、心臓が押しつぶされそうになったわ。

素敵な笑顔をわたしに見せてくれる少年が、わたしの腕の中で息絶えようとしている状態で、自分自身がおかしくなりそうだったわ。

でも、レインは命をとりとめ、いまや元気にSAFのクルーとしてがんばっている。」

エミリアは自分の胸に手を当てて、レインを想った。

「もう、2度とあのような思いをしたくない。そして、レインに命を落としてほしくないと思ったわ。

アレックスの子孫だからって、過信してしまえば、いくらでも命を失ってしまう。

好きだからこそ、理解して欲しいって、思ったわ。わたしは不器用で、思いは伝えられなかった。」

エミリアが唇を噛むと、フェリシアはその唇を指でなぞった。

「わたしの所為ね。」

エミリアは首を振って、フェリシアを抱きしめた。

「あなたにも、わかってほしいの。わたしの大切な殿下は軽率に命を落としたりしない。

あなたがこころに痛みを感じているのなら、わたしもこころに痛みを感じるわ。

一心同体になりたいと思っているわけじゃないの。

痛みを感じることで、あなたを守り、大切にすることができる。」

「レインのことはどうするの?」

「どうもしないわ。レインはレインで、自分の心の痛みを感じて欲しい。

痛みを感じることで、レインも、わたしも、フェリシアも、大人になっていくのよ。」

フェリシアはこころが暖かくなっていくのを感じて複雑に思ったが、浮かんだ言葉を口にすることによって、自分で自分に納得させた。

「レインが無闇に命を失うようなことがないようになってほしいのね。」

エミリアは深くうなづいた。

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