第十七章 青すぎる空 7
要塞にもどったジェフとカインは、軍によって拘束されてしまった。
情報を口外させないためと、事情徴収のためだった。
クレアは自分たちが要塞にもどって、状況が一変したことを感じた。
アップルメイト大尉からは、指定の場所以外は立ち入り禁止を言い渡されて、事件について事情徴収されたものの、情報は何一つ教えてもらえなかった。
事件の真相にせまる情報を知りえているはずのフェリシアは夕食前に護衛とともに発っていた。
(これはテロ行為そのものでも、なさそうだな。)
フェリシアの命を狙っていたのなら、エミリアたちが駆けつけるまえに死んでいるはずだと、クレアは考えていた。
事情徴収が済んだクレアが開放されて、診療室にいこうとした時、ロブに呼び止められた。
「クレアさん、事件の真相ってなにか判明しましたか。」
「いいや。それより、レインは?」
フェリシアを乗せた空挺が去ったあと、ジリアンはロブに言われてカインの機体に乗った。要塞についてからも、レインはロブから離れなかった。
「ショック状態に陥って、コーディに鎮静剤を打ってもらい、睡眠薬をもらったんだ。
理由はエミリアのことではないらしい。」
「いったい、どういうことなんだ。」
「『砂虫の口が・・・。』って、何度も言うんだが。その先が言えないらしい」
クレアはエミリアを襲おうとした砂虫を撃ったあと、口が上に向いていたので、おぞましいものをみたことを思い出した。
「殿下とペアを組んでいた三回生が犠牲になったことか。」
「犠牲とは?」
「口の奥に人がいたのをあたしも見たんだけどね。レイニーなら、間近でみたにちがいない。」
クレアは、エミリアのことでそっちの恐怖へスイッチがはいってしまったのだろうかと考えた。
「無残な殺され方を目の前で見てしまったということか。」
「そうだな。加えて精神的なショックを受けたことで、ショック状態になったのかもしれないな。
ジルより、ロブのほうがそばについてあげたほうがいいだろう。」
「ええ、そうします。ジルは・・・。」
「ジルは、具合がよくなったキャスと一緒に寝てもらうといい。」
「それは良かった。では、ジリアンに言って、キャスのところへ。」
「それと。」
「はい?」
「SAFは明日の午後、ここを発つ様に言われた。」
「そうですか。」
「気乗りしないか。」
「いえ。スカイロードは?」
「訓練期間を終えていないので、続けるそうだ。軍の学校だからな。人が死んだくらいじゃ、もどらないだろう。」
「そうですね。わかりました。出立の準備はしておきます。」
「事件の真相は要塞じゃ、教えてもらえそうないから、テオ少佐に聞くよ。」
「では、なにかわかりましたら、教えてください。」
クレアの目から合図を受けると、ロブはその場から立ち去った。
ジリアンがカスターのところへ行こうとすると、外での雨音に気が付いた。
カスターが寝泊りしている部屋にノックをして入室すると、カスターは窓を眺めていた。
「雨が降っているね。」
「うん、滅多に降らないって聞いていたけど、さすがに降るんだ。」
「さすがにって、レイニーが泣いているの?」
「泣いているって言うか・・・、泣いているんだよね。なに、言ってるんだろう、僕。」
ジリアンは言い様もないレインの状態をどうやって伝えようかと考えながら口にしてしまったことに気が付いた。
「どうかしたの?」
「うん、あのね。」
ジリアンは、今日あった出来事をカスターに話をした。
「そうかぁ。エミリアがね、レイニーを。なんか、仕方ないって言うか、しょうがないって言うか。」
「心配していたんだよね、合同訓練するって聞いたとき。レイニーがおかしくなっちゃうんじゃないかって。」
「エミリアは大丈夫なのかな。」
「大丈夫そうだったけど。皇女殿下もクレアさんにしがみついていて震えていたけど、その後、しっかりと自分で立ち上がってエミリアさんと空挺に乗り込んだんだもおの。」
カスターは、フェリシアがレインに好意を持っていることを知らないでいる。
言うべきか、言わざるべきか、考えあぐねていたが、ジリアンは話を切り替えた。
「キャス、調子はどう?」
「うん、もう、大丈夫かな。」
ジリアンはカスターの言葉にすこし首をかしげた。いつもハイテンションで馬鹿なことばかり口にしていたカスターではなく、おとなしいカスターだったからだ。
「クス。大丈夫じゃないって顔だね、ジリアン。」
ジリアンは深くうなづいた。
「これでも、幻覚を見なくなったよ。」
「幻覚?」
「ああ、クレアさん、コーディ、アルに触れると、それぞれに違う人物が重なるんだ。」
「それが幻覚なの?」
「ああ。クレアさんは、左腕がなく、コーディ、アルは、それぞれ小さい女の子に男の子なんだ。」
「へぇ。」
「どうしても、瞬きしたり顔をたたいたりして、幻覚から目をさましたかったんだけど、できなかった。」
「それが見えなくなったということなの?」
「そうだよ。これでまともに接することができるし、気に病むこともない。なんだか、自分がここにいてるようでいてない感じがしたんだ。
でも、いまなら、はっきりと、自分はここにいるって実感がある。」
「そう、キャスが良くなったのなら、僕うれしいよ。元気のないキャスなんて、つまらない。」
カスターはジリアンの頭をなでた。
「心配かけちゃったね。もう、大丈夫だよ。」
「うん。」
「レイニーのことは心配だけど、今日はもうお休み。明日は要塞を発つらしいから。」
「うん、兄さんから聞いたよ。事件もあったし、要塞にはいられないね。」
「嫌なこともあったかもしれないけど、訓練はどうだった?」
「うん、良い勉強になったよ。」
「そうか、それは良かった。」
二人は、寝る支度をして、ベッドに入った。
外はまだ、しとしとと雨が降っていた。
カスターは、レインにつきそうロブの姿を思い浮かべていた。
(いつも、泣かしていたのはロブなんだけどな。)




