第十七章 青すぎる空 5
太陽が傾きかけていた。
手遅れになったらと考えるとて不安になってくるのをぬぐいきれないエミリアは、自分を責めていた。
(なぜ、あのとき、もっと強く教官の言うことに反対しなかったのだろうか。)
要塞から飛び立ってから、来た道を戻る。
砂虫が多く棲み、谷底が深い場所だと注意を受けた付近を満遍なく覗き込んだ。
かすかな光が見えて、カイン=シュタット少尉に通達し、その谷の上に着陸した。
即座に谷底を覗き込み、フェリシアであることを確認した。
カインたちは断崖絶壁を垂直飛行して、フェリシアの位置を確認した。
エミリアは機体からロープを取り出していた。
カインたちと通信しながら、エミリアは救出方法を述べた。
「殿下が乗った機体は、岩に乗っています。バランスが崩れると落下するものと思われます。」
「それで救出に向かうというのか。」
カインが心配して、エミリアを制止しようとしたが、ロブがさえぎった。
「エミリアのような体重が軽いものの方が良いだろう。訓練をきちんと受けて、自信があるのなら、行くといい。」
エミリアは深くうなづいて、返事をした。
ロープを機体の車輪にくくりつけて固定、それを谷に垂らした。
エミリアが降下した時、カインの機体は谷の上に着陸した。
着陸と同時にカインに通信が入った。
「ロブ、ジェフ=マックファット少尉とパジェロブルーがこちらに向かっているとのことだ。」
「了解。シュタット少尉、背面飛行はできないかな。」
「はぁ~。背面飛行かよ。鷲や鷹じゃないんだから、できるわけないだろ。」
「できないのか。使えないなぁ。」
「おい、使えないって・・・。」
ロブとカインの会話に横槍が入った。
「おい、通信スイッチ入れたまま、話をするなよ。まる聞こえだぜ。」
「ジェフか。」
「ロブ、俺は背面飛行できるが、アクロバットの出番なのかよ。」
「ああ、そうなるかもな。」
カインとロブは谷底を覗き込んで、エミリアの様子を見ていた。
カインはエミリアと、ロブはジェフと通信をしていた。
山岳警備隊のエアジェットとパジェロブルーがロブたちのいるところへ到着した。
レインが即座に機体から出てくると、エミリアの所在を聞いていた。
ロブは谷底を指差して答えた。
「ロープでしたに降りていった。」
レインは谷底を覗き込んだ。
自分もロープで降りてみると言い出した。カインは反対したが、ロブとクレアが賛同した。
クレアに言われて、予備のロープを手に持った。
ロブはジェフが操縦席から立ち上がらないうちに、離陸しろと手で合図を送った。
そして、カインにはエミリアたちの様子を報告するように言った。
クレアはパジェロブルーの通信を使って、アップルメイト大尉にフェリシアが見つかった事を報告した。
そして、大尉からは空挺が迎えに出発した事を告げられた。
ジェフの機体が離陸し、離れたところまで駆け出し、断崖絶壁を確認して、ジェフに合図を送った。
そして、走りこんでカウントすると崖から飛び込んだ。
ジェフの機体は、ロブを背に、空への上昇すると、また、谷底へと降下していった。
ジリアンとクレアとで、谷の上から覗き込んでいた。
エミリアとレインとの通信をしていて、様子を確認していた。
そして、エミリアとレインが谷底に落ちていく様子も上から覗き込みながら通信を聞いていた。
咄嗟に、クレアは、ロープを伝って降り始めた。
二人の様子をジリアンはロブに伝えると、ロブはカインに離陸するように言った。
「僕がいくよ」
「いや、パジェロブルーじゃ、谷に降下できない。せますぎる。山岳警備隊のエアジェットなら、翼を折りたためるから、狭くてもいける。」
ジリアンは、ロブに言われて、パジェロブルーで待機をしていた。
カインが離陸すると、ロブの指示に従い、旋回していた。
ロブが、エミリアとレインが谷底に向かって落下した事を報告を受けて、背面飛行をジェフに指示した。
そして、カインには後をついてくるようにいった。
クレアは、震えるフェリシアを呼び寄せ、両手で強く抱きしめた。
フェリシアには見させないように、底のほうに覗き込むと、ちょうどエミリアを飲み込もうとする砂虫が見えて、無意識で装備していた銃を取り出し撃った。
鉄を引掻くような鳴き声とともに、遠くではあるが、口を開いたままの砂虫がのた打ち回る姿がみえた。
そして、その口の奥で犠牲となった三回生の姿も確認した。
クレアに強く抱きしめられながらも、フェリシアの震えは止まらなかった。