第十七章 青すぎる空 4
レインは落下しながらも、皮手袋をした手で突き出た岩を掴もうと壁に滑らせていた。
エミリアが岩に足をひっかけて滑り、レインがその岩を掴んだ。
暗闇の中、レインのヘルメットについたライトがエミリアを照らしていた。
ライトの先には、谷底の地面が見えていた。
土とも草とも区別のつかないものが底にはあり、そこに足を踏み入れると、呑まれるのではないかと思うほど柔らかい土壌にみえた。
「レイン、上を照らして。」
エミリアを照らしていたライトを上に向けた。
約2メートル先の左の方向に大きく出っ張った岩が見えた。
ハーケンの銃を装備しなおし、エミリアは岩めがけて打ち込んだ。
そのハーケンのワイヤーを腕に固定させた。
「レイン、腕を離して。」
強く握り締めたエミリアの腕を、躊躇しながら離した。
ワイヤーを引いて、エミリアはその岩の上に乗った。
ベスト装備から発炎筒を着火し、レインの後方へ向かって投げた。
もうひとつ、発炎筒を取り出そうとすると、鉄を引っかくような鳴き声がして、レインがそちらの方向へライトを向けると、黒くうごめくものがいた。
エミリアは咄嗟に発炎筒よりフラッシュライトを手にした。
閃光を放つフラッシュライトに砂虫が口を大きく開けて、エミリアを飲み込もうとした。
砂虫が開けた口の奥から、フェリシアとペアを組んだ三回生が血だらけで手を伸ばしていた。
エミリアは声が出ないままに、あまりの恐怖に身動きが付かなかった。
エミリアを飲み込もうとする寸前、後方で銃声がして、砂虫はのけぞり、あけた口を上に上げたまま、下に向かって落ちていった。
レインも砂虫の口の奥に人がいているのを見てしまった。
あまりの恐怖に掴んでいた岩を離してしまうのを必死にこらえた。
鉄を切り裂くような鳴き声が谷底に響いた。
レインが上を向くと、フェリシアを抱きかかえたクレアが銃を手にしてこちらを見下ろしていた。
「大丈夫かぁ、今、エアジェットでロブが救出に向かっている。」
レインはヘルメットに取り付けられている通信機に耳を傾けた。
二人の状態を伝えると、岩の上に立っているエミリアの方を先に救出すると言ってきた。
エミリアはもうひとつある発炎筒を先ほど投げたものとは反対の方向へ投げた。
落ちていくと、また、鉄を引っかくような鳴き声が響いた。
レインはエミリアに指示を出した。
「エアジェットがこちらに向かっている。出来るだけ壁から離れて片腕を伸ばすように出してほしいって。」
機械音が谷に響いている。
こちらにエアジェットが向かっているのが理解できたが、どうやって助けるというのだろうとエミリアは思った。
レインは指示どおり、エミリアをライトで照らした。
「エミリアを確認できた。前のほうを照らしてくれ。」
ロブの指示があって、エミリアから前のほうにライトを向けると、エアジェットが見えてきた。
エミリアは唖然とした。
山岳警備隊のエアジェットは翼の先を折りたためることができるが、その折りたたんだ状態で、背面飛行をしている。
そして、ロブは足をエアジェットで固定して、逆さづりになっていた。
エミリアは腕を伸ばすように指示された事に理解した。
エアジェットが通過する瞬間、ロブはエミリアの片腕を掴んだ。
掴んだ事を確認すると、エアジェットは背面飛行のまま、ロケットエンジンで上昇していった。
ロブが乗っていたエアジェットは、ジェフが操縦していた機体で、その後、カインが操縦しているエアジェットがレイン救出に向かっていた。
通信の支持で、レインはロブを乗せたエアジェットがやってきた方向にライトを照らし、距離を確認して、足元にライトをうつした。
エアジェットが真下に来るのを感覚的に計って、掴んでいた岩を離し、落下した。
レインはカインが操縦する機体に乗り移ることができ、取っ手を掴んで合図を送った。
カインの機体は翼を折り曲げた上体で水平飛行をしていて、合図とともに、機体の先を下に向けると弧を描いて、ロケット噴射をして上昇していった。




