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第十七章 青すぎる空 3

三回生は、操縦席のドアを開けた。

「騒ぎが起こって、救出にこちらへ向かってるらしいよ。ライトつけているけど、通信機は壊れているし、ここの居場所が判明するのがいつになるかわからないけどさ。」

フェリシアは自分の耳を疑った。

(通信機が壊れている?)

確かに、通信機で助けを呼んでも応答がない。しかし、この三回生はヘッドセットの通信で操られているのではないのか。

三回生はヘッドセットを頭からはずし、首に掛けると、立ち上がった。

「お役目終了になったよ。助けが来るまで、あなたはひとりでここにいると良い。いろんなことを反省するんだね。」

そういうと、三回生は、身を乗り出して、谷底に落ちていった。

「キャ~ッ。」

フェリシアは思わず叫び声を上げた。

ヘッドセットの線の先は、つながっておらず、三回生とともに、落ちていった。

途中、なにか当たる音がしたとともに、男の叫び声が聞こえ、金属を引き裂く鳴き声が谷底に轟いた。

フェリシアは驚愕して、体の震えを止められなかった。そのうち、目から涙が幾度となくこぼれた。

恐怖に怯え、声も出なくなった。

そして、こころのなかで祈った。

(レイン、助けに来て)


湖岸に着陸したパジェロブルーは、一度カメラマンのチャベックに言われて、レインとジリアンふたりで機体の前で写真を撮った。

ジェフが自分の機体の操縦席に手を掛けた時、通信が入っているのがわかり、内容を聞き返した。

「クレアさん、大変だ。」

「どうした?」

ジェフはトラブルが起きた事を伝えようとしたが、チャベックが視界に入り、躊躇した。

「要塞でトラブルが起きたらしい。急いで戻らないといけない。」

ジェフはチャベックにわからないようにクレアに目配せをした。

クレアは内容がチャベックに知られたらまずいのだと察して、ここから立ち去るように言った。

「心配しなくても、耳にしたことは他に言ったりしないよ。明日要塞に行くのに、それじゃ出入り禁止になってしまう。そうだろ。」

チャベックはそう言って、荷物をまとめて、その場から離れた。

「明日、会おう。要塞でな。」

手を大きく振って、離陸する様子を眺めていた。

ジェフは、クレアたちに、通信で内容を告げた。

「皇女殿下が訓練終了後に、要塞に帰還せずに行方不明になっている。ロブとカイン、エミリアで捜索に出たということだ。」

「こちらに連絡が入ったということは、一緒に捜索に当たってくれということだな。」

クレアは、誰かに謀られて事件が起きたという感じがして仕方がなかった。

訓練には従者がついてきている。訓練にまで付いていかないにしても、山岳警備隊との合同訓練だから危険性が少ないものと思われていたが、アルバートとの騒ぎがあって陸上部隊が訓練に参加できないことになった。

考えられることは、遠隔操作による人格のっとり。

薫を葬って、あと動くとしたら、白髪の少女なのか。

月夜でもない限り、無理じゃないのかとクレアは考えていたが、側面だけ考えて別の方法があったのだとしたらと考えを巡らしていた。

白髪の少女が黒衣の民族の手に渡っているのか、それとも、あちら側なのか。あちら側なら、フェリシアを狙ったりしないだろうと考えていたのだが。


フェリシアの機体は岩に乗っかっている状態だった。三回生が落ちていったことで、すこし傾いた。

震える体をどうにかして、冷静になろうと、努力をしていた。

まずは、エンジンが掛かるかどうか試しが、かからなかった。

何か電源が付かないかと、いくつものスイッチをONにしたが、作動しなかった。

先ほどまで、なにも音がしなかったのに、対して、風が吹き込む音がしてきた。

フェリシアはつばを飲み込み、その音が近いづいてくるのに期待した。

音がする方向が前方であることがわかり、光がちらついているのがわかった。

思わず立ち上がろうとすると、機体が軋んだので、あわてて座り込んだ。

ライトは次第に大きくなり、エンジン音が響いてくる。

安堵感が出てきた。

機体は垂直飛行でこちらに向かっていた。

最初ライトでまぶしかったが、その機体がフェリシアを通り過ごすと、山岳警備隊のエアジェットだとわかった。

フェリシアは振り返り、その機体を目で負った。

機体は垂直飛行のまま、上昇していく。

フェリシアは座り込んだまま、精一杯に手を振った。

すると、上から小石が落ちてきた。

上を見上げると、ロープをつたって、誰かが降りてくる。ロープの先はフェリシアの機体まで届かなかった。

絶壁に生えている蔦を手繰り寄せて、ロープに結び、ロープを伸ばしてまた、降りてくる。

「フェリシア、そこから動かないで。」

その声はエミリアだった。

フェリシアは嬉しさのあまり泣き出した。

「ああ~、エミリア、助けに来てくれたのね。」

両手で顔を覆い、小刻みに震えだした。

蔦を結んでも、まだ、機体には届かない。

エミリアは恨めしそうに上を見つめた。

頂上からは、さきほどの山岳警備隊のエアジェットが着陸し、カインとロブが覗き込んでいた。

ヘッドセットで通信をし、ロープが伸びないかどうか、連絡をした。

エミリアはカインと通信をしていたが、そばでロブが誰かと通信しているのが聞こえた。

上を仰ぐと、谷の隙間からきらりと光るものが見えた。

「パジェロブルーだわ。」

エミリアが言葉を口にすると、フェリシアの顔が紅潮し、上を見上げた。

フェリシアの視界には、パジェロブルーが入らなかった。

エミリアのロープが波を打って揺れていると、上から人が降りてきた。

レインがロープを持って降りてきたのだった。

「エミリアさん、ロープです。」

レインはロープの端を手に持ち、ロープを下に垂らした。

レインの声に、フェリシアは歓喜の声をあげるのは抑えるのがやっとという感じで喜び勇んだ。

(レインが助けに来てくれたわ。)

エミリアがロープを掴むと、それを確認してから、レインはロープの端を手放した。

エミリアは蔦を結んだロープを、レインから渡されたロープにと結びなおした。

そして、フェリシアの機体まで降りていくことができた。

レインはその場で待機を命じられ、機体までは降りなかった。

エミリアは機体に足を掛けたが、軋む音がするので、足は掛けなかった。

ロープを肩に巻いて軸のように張って、壁に対して垂直に足を伸ばし、ロープの先をフェリシアに投げた。

フェリシアはロープを受け取った。

「体に巻いて。」

エミリアの言われたとおりに体に巻いた。

フェリシアがロープに体を巻いて結び目をつくり固定すると、すぐさま立ち上がろうとした。

「だめ、立ち上がらないで。」

エミリアの言うのが遅くて、機体が傾き、少しずつ落ちていった。

フェリシアは操縦席のシートベルトに足がひっかかり、機体とともに引きずられていった。

「いやあぁ、落ちてしまう!」

ロープがフェリシアと機体の重みを受けてエミリアの肩を絞っていく。

エミリアは痛みに耐えかね、巻いていたロープを解いてく。

エミリアはロープをちゃんと掴んでいたが、フェリシアの足元が気になり、すこしずつフェリシアに近づき、シートベルトをベストに装備していたナイフで切り離した。

機体を蹴り落とすとともに、バランスを崩してしまい、エミリアはロープから手が離れて、落ちていった。

その様子をみていたレインは、なにも躊躇することなく自分の掴んでいたロープを放し、まっさかさまにエミリアめがけて落ちていった。

エミリアはすぐに崖に飛び出した岩を掴み、レインはフェリシアの機体が引っかかっていた岩の先を掴んでいた。

ヘルメットのライトを点灯し、当りを見回して蔦を探した。

フェリシアは体をロープに固定していたので、宙ぶらりんになったまま、振り子のように揺れていた。

そして、揺れを利用して、先ほどの岩を掴み、レインのところまで歩み寄ろうとしたが、届かなかった。

レインは、生えている蔦をつかみとり、腕に巻きつけて、岩を掴んだ手を離した。

蔦の先はエミリアに届かず、レインは必死にエミリアに手を伸ばした。

エミリアは岩を掴んだといっても、手でつかめる程度で、自分の重みで掴んでいられなくなった。

指がかじかんで掴んでいられなくなり、手を離すと、レインが腕を掴んだ。

「エミリアさん!」

エミリアは助かったと思ったと同時に、レインを見上げてその先でフェリシアが体に巻きつけたロープを解こうしている姿が見えた。

「フェリシア!何をしているの!」

「助けに行くわ。このロープを解けばなんとか。」

「やめて、やめなさい!」

「どうして!」

エミリアはしばらく考えた後、レインをにらみつけていった。

「レイン、手を離しなさい。」

レインは驚いたが、「嫌です。」と言った。

「何を言っているの、エミリア。手を離すだなんて、谷底に落ちてしまうわ。」

「いいの。フェリシア、あなたが助かれば、それでいいのよ。」

「嫌だ、離さない。」

エミリアはベスト装備から銃を取り出した。

レインの手を撃とうとしたが、足を壁に着け、屈伸をして、レインを揺らした。

「何をするんですか、エミリアさん。」

レインが掴んでいる蔦めがけて、ハーケンを打ち込んだ。

レインが掴んでいた蔦はハーケンで切れてしまい、レインとエミリアは谷底に落ちていった。

「きゃぁ~、やめてぇ~。」

フェリシアの絶叫が谷底に響いた。

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