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第十六章 赤い山脈 1

カスターはしばらくの間、療養を続けなければいけなかったが、落ち着かないといって、通信士の席に着いていた。

相変わらず、ロブとの仲は冷却期間中の夫婦のようで、さらにそれはロブとクレアの仲にもできていた。

クルーは氷のカーテンと呼称していた。

レインとジリアンは変わらず、カスターと接していたが、思いのほか、冗談を言わなくなったカスターを痛々しく思っていた。

「無理をするなよ、キャス。」

クレアがそう言葉をかけると、カスターは口元に笑みを浮かべてうなづくだけだった。

そして、そばにいたロブにオーラがみなぎる。

(俺に声をかけるなよ。)

妙な空気が漂っても、なんとも思わないディゴが、言葉を口にする。

「何が気に入らないのか、わからないが、ロブはクレアに声をかけなくなったよな。」

ロブが無口なのを、いいことにクレアは笑みを浮かべながら言った。

「蚊帳の外にされるのが気に入らないのだろう。ガキじゃないんだから、要領よく振舞って欲しいね。」

ディゴは腕組みをして唸った。

「う~ん。要領よく振舞うロブなんて、想像できないな。」

カスターは二人の会話の様子に、ただただ笑みを浮かべるだけだった。

ロブは聞いてるだけでもいらだってしょうがないのを我慢するしかなかった。

「ま、たしかにディゴの言うとおりだな。要領よく振舞っていたら、レインもすこしは無茶をしない子になっただろうね。」

「子は親の背中をみて育つというからなぁ。」

ロブは握りこぶしを震わせて絶えていた。

その様子をカスターはみていて、ニヤニヤしているだけだった。

通信機のランプが点いた。カスターはヘッドフォンに手をかけてスイッチを入れると、交信を始めた。

その様子を、ロブたちは見ていた。

「財団研究所から指令です。山岳警備隊キャティナ・マウントーサ・ロッソ駐屯地にて駐留してくださいとのことです。」

この言葉に、クレアの頭によぎったことは、グリーンエメラルダ号を追いかけてきたが、また距離をあけられてしまうだった。

キャティナ・マウントーサ・ロッソ駐屯地という場所に覚えがあったロブは露骨に嫌な顔をした。

「ロブ、嫌な奴でも思い出したか。」

「いや、なんでもない。」

そのやり取りでクレアは思い出した。

「ああ、キャティナ・マウントーサ・ロッソ駐屯地といえば、レテシアの同級生ジェフがいてたなぁ。」

ロブは手を額にあてて下を向いた。

ジェフとは、スカイロード上官育成学校でのレテシアの同級生で、3回生の時にレテシアとエアジェットで衝突事故を起してしまい、レテシアは手術に入院という重症を負ったが、ジェフは軽症で済んでいた。

レテシアの見舞いに幾度と無く足を運んでいたので、同じくまだ医学生だったクレアも見舞いにいってたのでジェフとは知り合いという関係であった。

ここで、好奇心よろしくカスターが根掘り葉掘りと聞きたがるのだが、それが今は無い。

このまま、前のように戻らなければ、自分の責任だなとクレアは思っていたが、良心の呵責として心が痛んだりはしなかった。

カスターに気を使ってしまってはかえって気が滅入ってしまうだろうと。

そう、考えながら、クレアは、昔のことに思いを馳せた。

(せっかく来たのだから、墓参りに行かないと。)

「山岳警備隊なら、レインたちのとって、良い訓練になるんじゃないか。」

ディゴがいうと、ロブはそうだなと返事をした。

「山間の距離のとり方とか、風圧、気圧、体感しないとわからないこととか、いい勉強になるだろう。」

「訓練の予定表でも考えておくよ。」

ロブはそういうと、操縦室から、出て行った。

「ジェフの話なら、ロブから聞いたことがある。今じゃ、いろいろと情報をくれる人物だと聞いていたが。」

「ああ、そうだね。スカイロード出身なら、パイロット関係者には詳しいからな。」

カスターは、軍にいてたころの知り合いのパイロットのことを考えていた。

(たしか、カイトは山岳警備隊に所属しているって言ってたなぁ。)

クレアはカスターのそばに行き、船内マイクをとった。

「アル、食事が終わったら、キャスト交代してくれないか。」

しばらくして、了解という返事がきた。

「キャス、山岳警備隊キャティナ・マウントーサ・ロッソ駐屯地のことをレイン、ジリアン、ジョナサンに伝えてほしい。」

カスターはクレアの顔を見上げた。

「はい。」

覇気の無い声で返事をして、物音を立てずにカスターは席を立ち、操縦室から出た。


レインとジリアンはパジェロブルーを整備していた。

レイン自身は本調子になっていたので、カスターの話を聞いて、浮き足立った。

(よおし、これでパジェロブルーを思う存分乗りこなせる。)

こころのなかでガッツポーズをした。

「頭で思い描いたのとはちがって、気圧や風圧、間合いの取り方とか、体感しないとほんとわからないよね。」

ジリアンは自分の体力の無さを強調したくなかったが、経験こそ成長につながることは理解しているので、自分で口にしながらも苦労しそうだなと考えていた。

「あまり危険なことはしないと思うけど、山岳警備隊ってどんなところなの?」

何気ないレインの言葉に、カスターは考え込んでから、答えた。

「僕自身もよくわからないけど、キャティナ・マウントーサ・ロッソ駐屯地は軍隊の訓練の場所としては有名なんだ。」


黒衣の民族が居住する地域とは反対側にある山脈は鉄鉱石を多く含む地層を持ち、赤い色をしていた。

ディアナ火山を背にサドレ川の浸食により山岳地帯を形成している。断崖は平均の深さ約1000m、長約300km、幅6km~29kmに及ぶ。

キャティナ・マウントーサ・ロッソ駐屯地は、今でこそ平穏な場所だが、以前は鉄鉱石を求めて他国が攻めてきたりしたが、山岳警備隊を配備して護衛し攻撃を鎮圧した。

山岳警備隊はエアジェットや空挺部隊のほかに、山岳に適応し人海戦術に適した陸上部隊があった。

森林がなく作物が育たない環境の山脈事態が居住するのに適していないため、人が住み着いていないという土地柄を利用して、軍隊の訓練としてはうってつけだった。


駐屯地に到着する前に、現地から知らせが入った。

その内容をクレアはレインたちに伝えた。

「喜べ、レイン。スカイロード上官育成学校が駐屯地で訓練を行うそうだ。」

そう言われて、レインは満面の笑みを浮かべたものの、察したジリアンが言った。

「皇女殿下もスカイロード上官育成学校の学生で、エミリアさんとペアを組んでいるとかって話しでしたよね。」

すぐにレインの笑顔が消えた。その様子にクレアは訝しげに聞いた。

「どうした?嬉しくないのか。」

レインはロブから口止めされていた高給腕時計のことをクレアには話していなかった。

だんまりを決め込んでいるレインに対して、クレアは残念そうにしていた。

「なにかあるんだね。言いたくなければそれでいい。いずれわかることだろうし。」

ジリアンは言わずとも知れるとレインに話をしていたので、クレアの言葉に深くうなづいた。

「まぁ、確実に、エミリア上等兵と顔をあわせることになると思うから、元気になった姿をみせてあげればいいじゃないか。

安心するだろう。」

「そうですね。」

そういって、レインは自分の首元に巻いてあるスカイブルーのスカーフを撫でた。


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