第八章 パジェロブルー 1
登場人物
レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)
ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟・愛称ジル)
ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)
カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信士・愛称キャス)
ディゴ (スタンドフィールド・ドックのクルーで板金工)
ジェイ(スタンドフィールド・ドックのクルーで塗装工)
テス(スタンドフィールド・ドックのクルーで溶接工)
セシリア=デミスト(グリーンオイル財団理事長の妻。愛称セシル)
クレア=ポーター(ダンの養女。医者)
アルバート=バトラー(グリーンオイル財団パルスバレイ研究所の空挺開発局設計主任)
「ロブ、無線とってくれないかな。レッドピジョンから通信が入っているんだ。」
カスターからアナウンスが入った。
ロブとディゴ、完治したレインの3人が組み手をしていた。
3人とも上半身裸で汗を流していた。
ロブは食堂にむかっていって、無線機を取った。
「どうしたんだ、キャス。」
「レッドビジョンが荷物を配達しに来たと言って、着岸許可を求めてきているんだ。
荷物はクレアさんあてのもの。ところが・・・・・。」
「なんだよ、キャス。」
「送り主はグリーンオイル財団パルスバレイ研究所の空挺開発局設計主任アルバート=バトラー氏だよ。」
ロブはしばらく考えた。人命救助の空挺の設計図の責任者はアルバート・バトラーだということを思い起こした。
「クレアさんからはなにも聞いてないが、拒否しても仕方ないだろう。
危険物じゃない。レッドビジョンで送りつけてるし、送り主がはっきりしているのだから、許可してくれ。」
「了解。」
ロブは無線機を置くと、何が送られて来たのだろうと考えた。
(まさか、機体そのものの部品を送って来たんじゃないだろうなぁ。)
ロブは振り返り、ディゴたちのところへもどった。
「ディゴ、悪い。レインのことを頼みたい。俺はデッキに行ってくる。」
「レッドピジョンなら、荷物だろ。やばいものなのか。」
「いや、クレアさん宛だから。」
「ふっ。だったら、なおさら、やばいものだろ。気をつけろよ。」
ロブは笑いながら、右手でディゴの肩をたたいた。
「あはは。まぁ、できたら、巻き添えにしないようにするよ。」
レインが真っ赤な顔で汗をかき、息を切らしている姿をロブはみていた。
目線を感じたレインはロブを見ていった。
「大丈夫だよ。僕は兄さんの心配されないようにがんばるから。」
ロブはうなづいて、レインの頭を軽くたたいて、その場を去った。
ロブが去ったのを見計らって、ディゴはレインにタオルを投げた。
「レイニー。休憩だ。シャワー浴びて来い。」
「え、でも、兄さんが。」
「俺がいいと言ったら、それでいいんだ。
ロブはなにか焦っている。俺はなにも聞いちゃいない。
焦ったところで、お前の成長が早くなるわけじゃない。」
「僕もなにも聞いてないんだ。でも、できるだけのことはしておかないと。
ジリアンを不安にさせたくないから。」
「そうだな。だが、いつだってなんだって、俺たちにはロブはなにも言ってくれない。
言わない以上、問い詰めても話してくれるわけじゃないからな。
俺はレイニーたちの成長を急がせるつもりはないさ。
だから、今は休憩しておくんだ。」
「わかったよ、ディゴ。」
レインはタオルを首にかけると、ディゴに背中を向け、手を振って出て行った。
ロブは作業着の上着を着ながら、デッキに向かっていた。
第三デッキにむかって、階段を下りると、赤い空挺が後ろ向きに入ってきていた。
着岸すると、後方の扉がはしごをかけるように上から落ちてきた。
中から、コンテナのようなジェラルミンケースを積んだリフトが出てきた。
リフトはケースをデッキの置くと、そのままバックをして空挺に入っていった。
リフトとは別に作業服を着た人物が伝票と封筒を持ってあらわれた。
ロブがその人物に挨拶をした。
「ロブ=スタンドフィールドです。クレアさんはいらっしゃらないので代理で受け取りします。」
「レッドビジョンのクレバーといいます。お世話になります。
クレア=ポーターさん宛の荷物なのですが、この封筒が添付されていて渡すように言われたのです。」
「了解しました。サインをすればいいのでしょうか。」
「ここをお願いします。」
クレバーは伝票を差し出して、サインする場所を指差した。
「ご苦労様です。確かに受け取りました。」
「ありがとうございました。」
クレバーは頭をさげると、振り返り、空挺に乗り込んだ。
乗り込むとレバーを引き、デッキに降りていた扉があがっていった。
扉が閉まっていくなかでも、クレバーはお辞儀を再度した。
その様子にロブは手を振った。
荷物は、ジェラルミンケースが二つだった。
しっかりと、施錠されていた。
電動昇降棒でカスターとジリアンが降りてきた。
伝票の内容をロブは確認していた。
確かに、送り主はバトラーで、あて先がクレアになっていた。
荷物の内容を確認しようと伝票をめくったが、記号らしきものしかなかった。
「ロブ、なにが送られてきたんだ。」
「わからない。」
ロブは、添付された分厚い封筒を開けた。中からは図面と書類が出来ていた。
ロブは、指先でつまむように、図面のはしだけをめくってみた。
図面の名称だけをみて、口にした。
「パジェロブルー。」
荷物の中身が、空挺の部品でないことが理解できた。
しかし、図面があることは、なにかの部品であることに間違いないと思った。
二人に見せることはしないほうがいいだろうと考えた。
「図面が入っている。確認してくるから、中身を開けるなよ。」
「了解。」
「開ける準備をしてもいいでしょ。」
ジリアンは奥にあった、手動のリフト機械を出してきた。
「ああ、そうだな。」
気もそぞろで、ロブは電動昇降棒に手をかけ、スイッチを入れると登っていった。
ロブは展望台につくと、何枚もある書類のうちの全体図の図面を広げた。
それはエアジェットだった。
他の書類を取り出し、つぎつぎと、広げていった。
書類の内容から、荷物の内容はエアジェットの部品で、組み立ての説明書があることから、部品を組み立ててつくるエアジェットだと理解した。
(やっかいだな。どういうことだ。しかもこれは・・・・軽量型戦闘用じゃないか。)
ロブの頭によぎったのは、クレアをスワン村に連れて行こうとした時、ブルーボードが大破したことだった。
(俺が戦闘するためにまたがったとしても、操縦桿を握るのにキャスじゃまともに飛行できないし、ジリアンじゃ体が小さいうえまだ間に合わない。)
ロブはレインのことを考えたが、この空挺のデザインを考えると、操縦席が防弾ガラスで囲われた状態のもので、攻撃の際、まともに操縦できるかどうかと。
ロブは興奮しながらも冷静に考えようとしていた。
フレッドを失って、3年たつ。そのあと、クレアとスワン村に向かおうとして、ブルーボードを失った。
クレアが考えていることを自分なりに理解しようとした。
(敵は、黒衣の民族だけでなく、グリーンオイル財団だと。軍隊は敵ではないにしろ、味方でもない。
俺たちが立ち向かっていくのはどこなんだ。グリーンオイル財団の目くらましの奉仕活動に手を貸して、手の内を覗こうという手口に賛成はしたものの。
レインたちを盾にするの作戦のうちだとすると、俺はどうしたら・・・・・。)
ロブの中で、まだ先のことだと思っていたレインたちの旅立ちが目前に迫っていることを実感してきた。
空を飛ぶことに夢中になって、命の危険性など気にせず楽しんでいたあの頃、自分に大切なものが何であるかを思い知らされる日が来るとは思いもしなかった。
レインたちには、危険性を前もって自覚して空を飛んでほしかった。
(家族の絆を深める前に、本当のことを話すべきなのだろうか。)
クレアからの課題を考えて、唇を強く噛んでいた。
レインはシャワーを浴びて、髪を濡らしたまま、第三デッキに出てきた。
そこでは、ジリアンとカスターでコンテナサイズのジェラルミンケースを横にして、施錠を解く準備をしていた。
「すっごい、でかい荷物だね。」
「うん、なんだかよくわからないんだって。」
「パジェロブルーって、ロブは言っていたな。」
「なんだろう、それって。」
そこへディゴがあらわれた。
「エアジェットだな。」
「エアジェット?」
3人は声をそろえて口にした。
「意味は翼だから。ブルーボードの代わりだな。」
「ディゴ。じゃ、これ、兄さんのものなの。」
「これはクレアさん宛のものなんだ。」
カスターは伝票の控えを手にして言った。
「クレアがこれを扱えるわけがない。いくらクレアが男相手に喧嘩ができると言ってもな。」
ディゴは施錠を解こうとした。
「兄さんが開けない様に言ってたんだよ。」
「エアジェットの部品かどうか確かめることぐらいなら、いいだろう。
クレアの荷物なら、怒ったりしないさ。」
ディゴはそういうと、でかい工具を取り出してきて、施錠を解くというより壊した。
ロブは展望台で頭を抱えていた。
書類の中には、日程表があって、スカイエンジェルフィッシュ号の出発式とあった。
それはグリーンオイル財団の奉仕事業の一環として、お披露目の式典の意味づけがあった。
そのことは、レインとジリアンを空挺の搭乗させることになると、必然、ジリアンはセシリアと顔をあわせなければいけないことになる。
(ジリアンとセシリアを会わせるわけにはいかない。)
そして、出生の秘密を明かすことが必然だと理解した。
いまさら、怖がっても仕方がないとロブは思っていた。
レインとジリアンが、自分からこころが離れていくことを。
何かが吹っ切れたように、ロブは決心をし、図面を広げたまま、昇降棒に手をかけ、下に降りていった。
ロブが第3デッキに降りると、ジェラルミンケースは開けられていた。
「おい、開けるなと言っただろう。」
近寄ると、ディゴが工具を持っていたのをみて、ディゴが開けたことを知った。
「ロブ、悪いが、勝手にあけさせてもらった。」
「ディゴ。レインを頼むと・・・。」
レインもそばにいてて、ロブは髪がぬれているのも見て、シャワーを浴びたのがわかった。
「兄さん、これすごいね。デザインが斬新なエアジェットだよ。」
「ああ、そうだ。」
目を輝かせて見ているレインをみて、見せたくなかったとロブは思っていた。
「兄さん、これどうするの?クレアさんの荷物でしょ。」
ジリアンは心配そうにロブに話しかけた。
「そうだな。とりあえずは説明書があるから、組み立てる。
ディゴ、テスと組んで、組み立てを頼めるかな。」
「ああ、わかった。操縦席は、ロブ、お前がつないでくれよ。」
「わかってる。細かいことはするよ。
キャス、通信機取り付けは頼むよ。」
「了解です。」
カスターはすでに通信機らしきものを手にしていて、確認をしていた。
そこへ、塗装工のジェイがあらわれた。
「おい、これはたいしたものだな。」
翼の部分に近寄り、手で撫でた。
「ダイヤモンドをちりばめてコーティングしているじゃないか。しかもクロムメッキ。重装備だな。」
拳骨でたたき、音を確かめてみた。
コツンと軽い音がした。
「しかし、軽量型か。薄いな」
レインはジェイに近づいて、話しかけた。
「ジェイ、ダイヤモンドのコーティングって、どういうこと?」
「ああ、まぁ、あれだな。」
ジェイはロブのほうをみて、返答にとまどった。
戦闘のためだということを知っているからだった。
「ダイヤモンドは一番固いんだ。傷がつきにくいってことだよ。」
「ふぅ~ん、そうなんだ。」
ジェイは罰が悪そうに、その場から去っていった。
ロブは部品を確認しながら、レインに話しかけた。
「レイン。」
「はい。」
「お前、テスとディゴが組んでいるところちゃんと見ておけ。」
「え、どうして?」
「機体の仕組みを理解しておくんだ。」
「あ、はい。」
「今日は部品確認の作業で終わりにしよう。
組立作業は明日からだ。」
「どんな機体になるんだろう。なんだかわくわくする。」
レインは自分が乗ることとは思っていなかったが、翼のラインをみて斬新だと理解すると完成品を想像して興奮していた。
レインの嬉しそうな姿をみて、内心ほっとしたのは、ジリアンだった。
(これで、ドックを去るなんて考えはなくなったかな。)
BGM:「SPIRIT」スガシカオ