第七章 青い果実 Ⅰ
登場人物
レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)
ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟・愛称ジル)
ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)
カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信士・愛称キャス)
ラゴネ=コンチネータ(レインたちの叔父・グリーンオイル生産責任者)
ディゴ (スタンドフィールド・ドックのクルーで板金工)
ジゼル(スタンドフィールド・ドックのクルーで食堂担当。ディゴの妻)
セシリア=デミスト(グリーンオイル財団理事長の妻。愛称セシル)
ヴァン(ロブの同級生)
コーネリアス=アンコーナ(農園オーナーの娘)
ピエトロ(コーネリアス付の執事)
テントウムシの荷台にグリーンオイルでできた堆肥を積み、ロブが操縦してその隣にレインを乗せて、発進した。
ロブがレインを乗せたのは、右腕を怪我していてなかなか技術的な勉強できない状態に、気晴らしさせようとしたからだ。
行き先は、ラゴネに葡萄を分けてくれるワイナリーの農園。
オホス川とは反対側のヴェンディシオン川の方へ向かっていくと広陵が続き、ブドウ畑が延々と続く土地がある。
ヴェンディシオン川のそばにはリゾート地があって、別荘が点在しているのだが、北に向かうと、ワイナリー所有の農園が広がっている。
その一部に、堆肥と交換で葡萄を分けてくれる農園があって、テントウムシはそこのブドウ畑から外れた丘に着陸した。
前もって、連絡をしていたので、農園で働く者が荷車を用意して待っていた。
「よう、男前。生きていたか。」
「いつも、ご挨拶だな。ヴァン。運がいいのか、生きながらえてるよ。」
農園で働くヴァンはロブと同級生だった。ロブがエアバイクでヴァンを迎えにきて、学校に登校していた仲だった。
「そっちは、弟か。女の子みてえだな。」
レインはふくれっ面をしながら、ヴァンに挨拶をした。
荷車に乗せている葡萄が入った籠を下ろし、テントウムシの荷台に積んでいた堆肥を荷車に載せた。
「今日は、一人なのか。奥さんはどうしたんだい。」
「突然、オーナーのお嬢さんが尋ねてきて、相手しているんだ。俺の両親に頼むわけに行かないからな。」
丘の下にブドウ畑が広がっていたが、そこから叫び声が聞こえた。
「きゃ~、誰かとめてくださ~い。」
「止めなくていいわよぉ。楽しいいぃ~」
「お嬢様~。」
3人は丘の下のほうを見た。
「話をしていたら、ほら、お嬢さんが向こうからやってきた。」
スピードを上げているエアバイクにのり、ハンドルを握る女の子がオーナーの娘のようだ。
その後を、作業服の女性と蝶ネクタイに黒のスーツを着た男性が走ってついてきていた。
丘の中腹あたりでこぶのように盛り上がった場所があり、そこにエアバイクが乗り上げると、宙に浮いた。
その様子を周りの人間は唖然とみていた。
しかし、ロブは高すぎると思って叫んだ。
「ハンドルを放すんだ。」
女の子がハンドルを放したのを確認すると、ロブはエアバイクの着地点を予測した。
エアバイクが荷車の近くに落ちそうだったので、ロブはヴァンを突き飛ばすようにタックルした。
エアバイクはコントロールを失い、宙に待った後、下に落ちるときは、後方から落ちた。
落ちた場所は荷車のそばに置いた葡萄が入った籠だった。
ガッシャ~ン。
籠は大破し、葡萄が四方に散乱した。
女の子は、レインに向かって落ちていた。
「きゃ~っ」
「うわぁ~」
女の子は両手を広げてレインの左側に上半身をぶつけた。
レインは支えきれず、地面にそのまま倒れた。
「お嬢様ぁ~、大丈夫ですかぁ。」
息を切らして、ついてきた男性がロブたちのいるところに到着した。
「あなた、大丈夫?」
作業服を着た女性は、ヴァンの妻だった。
「ああ、なんとか大丈夫だ。ロブ、ありがとう。」
「いや、礼には及ばないが、怪我がなかったか、ヴァン。」
大人たちが、レインたちに視線を向けていた。
「びっくりしたわ。どうなったのかしら。」
「いたたたぁ。」
ロブは、レインの方へむかって歩いていった。
「お嬢さん、失礼するよ。」
ロブは女の子のウエストを両手で掴むと持ち上げた。
「えっ。」
人形のように女の子を抱えてると、足が地面につくようにして、女の子がしっかりと両足で立ったのをみてロブは無事であることを確認した。
「痛いところはないかな。」
女の子は後ろを振り向いて、ロブをまじまじと見た。
「痛いところはないわ。びっくりしただけ。」
女の子はロブに笑顔で返事をした。
その様子にロブは呆気に取られた。
「お嬢様。心配しましたよ。無茶をしてはいけませんよ。レディたるもの・・・。」
蝶ネクタイのスーツを着た男性は女の子が無事かどうか心配していた。
「待って、農園にきたら、わたしにおとなしくしないといけませんって言うのはやめてって言ってるでしょ。」
毅然とした態度で女の子は男性に言ってみせた。
「レイン、大丈夫か。」
レインは自失茫然としていた。
「はぅ。」
なにが起こったか理解できてないくて、生返事しかできなかった。
「おい!右腕に痛みが走らなかったか!」
ロブの強い言葉に目が覚めて、レインは自分の右腕を動かしてみた。
「大丈夫みたい。痛みは走ってないよ。」
ロブは左手を差し出し、レインが左手を差し出すと、手をとり、立ち上がらせた。
「ヴァン、こちらはあなたのお知り合いかしら。」
女の子はロブに指をそろえた手で指して、ヴァンに向かって話しかけた。
「あ、はい、お嬢様。」
「わたしに紹介してくださるかしら。」
「はい、お嬢様。こちらは、スタンドフィールド・ドックのロブ・スタンドフィールドさんです。」
あせりながらヴァンはロブに向かって、女の子を紹介した。
「こちらは、オーナーのお嬢様でコーネリアス・アンコーナさまです。」
コーネリアスは右手をロブに差し出したが、ロブは右手を出して握手をした。
「はじめましてよろしく。」
コーネリアスはちょっと戸惑ったが、挨拶を返した。
「こちらこそよろしく。そして、ご迷惑をかけてしまいました。」
コーネリアスは、あたりを見渡し、大破した籠に散乱した葡萄を眺めていた。
ロブは、お高くとまった女の子という認識はあったものの、礼儀はきちんとしていると思った。
「あちらにいらっしゃる方が、お嬢様のつきの執事で、ピエトロさんです。」
蝶ネクタイ黒スーツのピエトロがお辞儀をして挨拶をした。
「弁償はどのようにしたら、よろしいのかしら。」
「お嬢様、弁償など。わたしがもう少し気を配っていたら、あのような危険な目には・・・。」
ヴァンの妻があわてふためいて、取り繕うとした。
「わたしは楽しかったけど・・・・。場所を考えなかったわたしが悪いのでしょうね。」
「お嬢様、こちらのスタンドフィールドさんから肥料をいただく代わりにお渡しする葡萄がだめになってしまいました。
しかし、それはまた、同じ分だけ後日お渡しするということにしますから、弁償はされなくても大丈夫ですよ。」
ヴァンはコーネリアスに説明して納得してもらおうとした。
「それで、よろしいのかしら、スタンドフィールドさん。」
「ああ、かまわないよ。」
ロブは、感心していたが、その考えを覆す行動にコーネリアスは出た。
「あの機体はなにかしら?さっき飛んでいなかったかしら。」
コーネリアスはテントウムシを指して言った。
「あれは、スタンドフィールドさんが乗って来たものです。」
ヴァンが答えたが、ロブは嫌な予感がした。
「乗せていただきたいわ。」
「だめだ。」
ロブは即答した。
「お金なら、いくらでも払います。」
「金の問題じゃない。君のようなお嬢さんを乗せるような高価な乗り物じゃない。
乗り心地が悪いし、高所感を強く感じてしまう。」
「怖くはないわ。いつも乗っている空挺って窓が小さくておもしろくないんですの。」
「お嬢様、いけません。お嬢様にこれ以上危険な目にあわせるわけにいきません。」
ピエトロはコーネリアスを制止しようとしたが、手で払いのけた。
「黙っていて頂戴。わたし一度、この農園を上空から見てみたかったの。」
「それならば、お父様にお願いして、小型機など借りまして、後日、飛行していただくことができます。」
「いいのです。今見てみたいのです。お父様にお願いをしていたら、何年後になるかわからないんですもの。」
「そのようなこと・・・・・。」
コーネリアスはロブの前に出て、深く頭を下げた。
「お願いですから、わたしを乗せて空を飛んでください。」
「お嬢様、そのような・・・。」
ロブやレインはその様子に驚いていた。
コーネリアスは頭をあげて、まっすぐなまなざしでロブを見つめて言った。
「亡くなった母が大事にしていた農園をじっくり隅々まで空から眺めてみたいのです。」
ジリアンは、練習用エアプレインで操縦の練習をしていた。
計器類を順番通りに確認して、スイッチを順番どおりに入れていく。
指導をしているのは、カスターだった。
レバーを引くタイミングや、右翼を下げると回転する動きを体で覚えていく練習をこなしていた。
「よぉ~し、今日の練習はここまで。休憩して、あとはジゼルのお手伝いをしよう。」
「了解です。カスター軍曹殿。」
ジリアンは食堂で休憩すると、テーブルにうつぶせて寝てしまった。
カスターはその様子をみて、自分の上着をジリアンの肩にかけた。
(気を張って、疲れたんだな。)
カスターはジリアンの分もジゼルの手伝いをしようと厨房に入った。
「ジゼル、ジリアンは疲れているみたいだから、僕が手伝うよ。」
「あら、そうなの。ここのところ、レインに代わって力仕事していたからね。それは疲れてしまうわね。」
しばらくの沈黙の後、カスターが口を開いた。
「ジゼルは、ロブと同じ年だよね。学校とかも、一緒だったんでしょ。」
「ええ、そうよ。」
「女の子にはもてたんだろうね、ロブは。」
「そうねぇ、もててたんだろうけど、近寄り難い感じだったからね。」
「え、ロブって、女の子と仲良くしたりって・・・なかったの?」
「ないわよぉ。わたしとだって、家族みたいな感じだったし。」
「ああ、そっか。ジゼルとは幼馴染みたいなもんだもんね。」
「クレアさんのおかげで、女の子に近づけなくなったんじゃないかな。」
「え、クレアさんのおかげって?」
「クレアさんって、結構腕に力がある人でね。ロブのこと生意気って、喧嘩をふっかけておいて、ロブが殴ろうとすると、頭を手で押さえつけて殴らせないようにしていたわ。」
「へぇ~。小さいころの話だよね。」
「もちろんよ。あの時はダン・ポーター先生の養女になって、集団生活させたほうがいいって半年ほど、このドックにいてたのよね。
クレアさんが14歳のときだったから、わたしたち9歳だったわ。」
「そのころから、ロブはクレアさんに頭が上がらないんだ。あはは。」
「ねぇ、キャス。レテシアさんのこと聞いたんでしょ。」
「ああ、うん。ロブは今でもレテシアさんのことを思っているのかな。」
「どうかしらね。クレアさんにすっかり尻に引かれてるって言われているけど。」
「レテシアさんはどんな女性だったの?」
「そうね、一言で言えば、太陽のような人だったわ。輝いていて、周りを明るくてらしてくれる様な、陽気な女性だったわ。」
「ロブがあこがれる女性っていうことかな。」
「憧れていたのは確かだったけど、レテシアさんは弟のように可愛がっていたから。二人がくっつくなんて、思いもしなかったわ。」
「なにかきっかけはあったでしょ。」
「事故ね。」
「事故?」
「レテシアさんがエアジェットで事故にあって、入院していたとき、もう乗れないかもしれないって絶望していたそうよ。
そのころ、ロブが頻繁にアクロバット飛行の試合に出て、彼女を勇気付けたって話があって、そのころから急接近したのかな。」
「はっはぁ~ん。ロブはがんばったんだ、レテシアさんを喜ばせるために。」
「でも、まさか、子供が生まれるなんてこと・・・・」
ジゼルが厨房から食堂に目をやると、ジリアンが起きているのが見えた。
その様子にカスターは気づき、ジリアンの方に目線を向けた。
「ねぇ、ジゼル。ロブがせまったと思う?」
「わたしはそう思わないけど。」
小声で、カスターが問うとジゼルも小声で答えた。
「フレッドの話を聞いたことがあって、レテシアさんはよくロブにべたべたしてたのよね。ロブはそれを嫌がっていたんだけど、余計に嬉しがってしてたからって。」
「やっぱり、レテシアさんがせまったのかな。」
「でも、クレアさんの話だけど、レテシアさんって天然だから、男に持てる割に、男ごころがわかってないっていう女だって。」
「はぁ~ん、わかる感じする。」
二人して小声で口をそろえた。
「ロブが迫ったのかな。」
葡萄農園の丘の上、レインは空を見上げて立っていた。
そばにはピエトロとヴァンがレインと同じく空を見あげて立っていた。
ヴァンの妻はエアバイクに乗ってその場を去っていた。
「僕、知りませんでした。兄さんが女性にこんなに弱い人だなんて。」
「俺も知らなかったな。ロブとは中等科からしか知らないけど、女にもてるくせに、近寄らせなかったからな。」
「兄さんって、女性にもててたんですか。」
「ああ、あいつは知らないかもしれないけど、女の子の間じゃ、あいつの話題をしない子なんていなかったらしい。」
「そんな話はあまり聞かないから。」
「ジゼルはディゴに夢中だったからな。」
「へぇ、そんなころから、あの二人は仲が良かったんですか。」
「ああ。俺には妹がいたからな。その手の話はよく聞かされていたよ。」
ゆっくりと旋回していくテントウムシをみていて、レインはおねだりしていたコーネリアスの姿を思い返した。
「あのぉ、お嬢さんの年齢って・・・。」
「11歳だよ。お前さんはいくつだい。」
「ええ、11歳で、あんな話し方されるんですか。ぼ、僕は、13歳ですけど。」
ヴァンはレインの顔をまじまじと見ていた。
「お嬢さんはお母さんを亡くされて、気丈にふるまってるんだよ。自分がしっかりしないといけないと思っててね。
この農園は天候にやられて全滅寸前だったときに、オーナーに買われて、ここまで豊富な実をつける木々たちを増やすことができた。
みんな、オーナーの奥さんのおかげだ。奥さんも気丈な方だったが、お嬢さんもその血を受け継いでいる。」
テントウムシに乗っているコーネリアスは、地上での気丈な素振りとは別人のように大人しく、外を眺めていた。
ロブは乗り物酔いでもしているのかと心配していた。
「気分でも悪くなったのか。」
「いいえ、大丈夫です。お気遣いなく。」
その声は泣いている様に聞こえた。
コーネリアスは、心配を掛けてしまっていると思って、ロブに話しかけた。
「学校ではいつもいじめられていて、この農園に来るとつらいことも忘れることができます。
わたしを生んでくれた母に、ありがとうっていつも言ってるのですよ。」
その言葉に、ロブは内心、ドキッとした。
小娘が生意気なことを言っているが、何歳だろうと思いながら、風で機体が揺れないように飛行していた。
「スタンドフィールドさん、一緒にいてた人って、弟さんですか。」
「ああ、そうだ。レインっていうんだ。」
「何歳なのかしら。」
「13歳だ。」
「まぁ、わたしより年上なのね。同じ年齢かと思いましたわ。」
「もう、そろそろ、地上に降りてもいいかな。」
「ええ、満足しましたわ。お手数をおかけしました。」
ロブは、機体を急降下させないように、着地点を考えて、着陸態勢を整えた。
テントウムシが地上に着陸すると、ピエトロが心配そうに近寄って、コーネリアスを見ていた。
「お嬢様、大丈夫ですか。」
「心配いらないわ、大丈夫よ。」
先ほど、泣きそうなくらいに暗かった表情とは想像もできないような、気丈な態度のコーネリアスだった。
ロブはその様子を不憫に思った。
ロブは、コーネリアスのほうへ回って、ヘルメットをとってあげて、コーネリアスを抱きかかえて、降ろした。
コーネリアスはレインが近づいてくる様子を見ていた。
そして、ロブの右腕を取り、グッと下にさげて、自分の顔にロブの顔を近づけた。
「お願いをきいてくれて、ありがとう。安全運転の乗り心地の良い飛行でしたわ。」
そう言って、コーネリアスはロブの頬にキスをした。
その様子にレインは驚き、顔を赤らめた。
コーネリアスはキスをしながら、目線をレインの方に向けた。
レインはコーネリアスと目線が合うと、なにか異様な気持ちがよぎった。
ロブはませている女の子だなと思っていた。
「礼には及ばない。お付の人を困らせたりしないように心がけしたほうが良いと思うね。」
「ご忠告を承りますわ。日が暮れてしまいますから、お暇しますわ。失礼。」
コーネリアスはくるりと振り返るとサッサッと歩いて、丘を降りていった。
あわてて執事のピエトロもついていった。ヴァンはお辞儀をしていた。
レインは口を半開きにして、呆然としていた。
そのレインの姿をみたロブは目を細めた。
(なに、馬鹿な面しているんだ、こいつは。)
ヴァンがそれを察して口を挟んだ。
「ロブ、お前の弟はなにやら顔を赤らめているぞ。兄貴がキスをされる姿をみて興奮しているのか。」
レインはさらに真っ赤な顔をして否定した。
「ち、違います。興奮なんかしていません。ただ、ただ、びっくりしていただけですから。」
「ヴァン、からかうのは勘弁してくれよ。相手は11歳の女の子じゃないか。」
「しかし、しっかりしたお嬢さんだろ。」
「ああ、そうだな。気丈な素振りが痛々しい感じだがな。」
「やっぱり、そう見えるか。張り詰めて壊れなきゃいいんだが。」
「心配してもしょうがないな。」
ヴァンは、大破した籠を指さした。
「ラゴネのじいさまには、悪いがまた、次回に足りない分を用意するよ。」
「いいよ。話は通しておくから。また、今度のときに。」
レインと二人でテントウムシの荷台に無事だった籠に入れた葡萄を積んだ。
ロブは、籠からふたつほどの葡萄を取り出して、荷台に締めた。
葡萄を席に置いて、乗り込んだ。
「ありがとう、ロブ。お嬢さんのわがままをきいてくれてほっとしたよ。手間掛けさせたな。」
「いや、気にするなよ。農園には世話になっているんだ。では、またな。」
ロブは飛行の準備をはじめ、運転席のドアを閉めた。
ヴァンはドアを手でたたいて合図をすると、テントウムシから離れていった。
ロブは計器類を確認してから、ヴァンに手を振った。
レインはロブの後ろから、ヴァンに見えるように頭を下げた。
テントウムシはホバリングして、前に進み、丘をジャンプ台にして飛ぶと、ジェットエンジンを噴射して、高く飛行した。
ロブがレインに葡萄をひと房差し出した。
「ありがとう。いただきます。」
そっけない返事にロブはレインの横顔を見た。
「どうかしたか。」
「いやべつに。ただ・・・・。」
「なんだ?」
「あの女の子の目線が、なんか怖いって思って、何でかな。」
「怖い?」
「うん、兄さんの頬にキスをしただけなのに、ドキドキしてたら、目が合っちゃって、怖いって・・・。」
ロブはその状況を思い返していた。
コーネリアスがレインに気があるということかと。
「あの感じ・・・・・・、嫌な感じがするんだ。なんだろう、あれ。」
ロブはただ、レインがおかしなことを言うんだなってことしか思っていなかった。
「えっと、思いだした。セシルがジリアンを抱きしめていて、僕を見ていた目にものすごく似ていた。あの時も怖いって思ったんだ。」
レインの言葉に、ハッとしたロブだったが、それが高貴な振りする女の手口だと、わかったように口にするのは思いとどまった。
(まだ、13歳じゃないか。いや、もう13歳か。)
「オンナっていうのは怖い存在だと思ったほうが、まだ、かわいいなというか、そのほうがいいなと思う、俺はな。」
レインのなかで、ロブとレテシアのことを考えてみた。
(レテシアさんて、怖いオンナの人だったのかな。)
それとは違う方向性でレインは口にした。
「クレアさんのことかな?」
察しの良さに、ちょっと頭にきたロブは、レインのヘルメットをコツンとたたいた。
「お前は、割りに生意気だな。」
レインは舌を出してみせた。
太陽は沈みかけていて、空は赤くなっていた。
レインは青い葡萄の実をひとつとって口に入れた。
甘酸っぱさが口の中に広がった。
BGM:「ウルトラマリンブルー」ポリバケツメガホン




