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第六章  胸中模索 4

登場人物


レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)

ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟・愛称ジル)

ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)

カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信士・愛称キャス)

ディゴ (スタンドフィールド・ドックのクルーで板金工)

ジゼル(スタンドフィールド・ドックのクルーで食堂担当。ディゴの妻)

クレア=ポーター(ダンの養女。医者)

コーディ=ヴェッキア(クレアの相棒。看護兼介護士)


マーク=テレンス(タイディン診療所の医者)

ミランダ=テレンス(マークの妻。診療所の看護士と医療事務員)


セシリア=デミスト(グリーンオイル財団理事長の妻。前にスタンドフィールド・ドックにいてたマーサの知人。愛称セシル)

レティシア=ハートランド(元ホーネットクルー・グリーンエメラルダ号のクルー)


診療所の外で、エアバイクのエンジン音が聞こえてきた。

リビングでくつろいでいた3人だが、クレアは迎えにきたと思って、立ち上がった。

立ち上がると、ミランダがクレアの左手を取って、握り、放そうとしなかった。

「お願い。今度も生きて戻ってくるって約束してちょうだい。」

「約束を守ったら、ミランダの食事を食べなくて済むかな。」

「いじわるね、クレア。わたしの料理がまずいみたいじゃないの。」

「まずいわけじゃないよ。食卓の会話が苦手なんだよ。」

「まいったな。まったく。クレア。」

マークが立ち上がって、ミランダとクレアを両手で寄せると抱きかかえた。

「クレア。俺たちはお前を本当の娘のように思っていた。その気持ちは、伝わらなかったのかな。」

「それは・・・・。」

「心配かけたくないから、話をしたくないって気持ちはわかるけど、本当の家族でもそうするのかしら。」

「おそらく、そうするよ、ミランダ。」

クレアは泣きたくなる気持ちをグッと抑えて、唇を強くかんだ。

「お前が下宿してくれた5年間、娘をもつことの喜びを味合わせてくれた。親のように、怒った、叱った、泣いた、悲しんだ、喜びもした。

クレア、お前が俺たちにしてくれたことに感謝する。俺たちがお前のしたことで犠牲になることがあったとしても、喜んで受け入れよう。

だから、気に病むな。何があってもだ。お前の信念をまげることなくやってのけろ。」

マークの最後のほうの言葉は涙声になっていた。

ミランダも目に涙を貯めていた。

そして、クレアは、マークとミランダの頬にキスをした。

二人の頬につたわる涙が落ちないように。

「感動的な場面に、恐縮なのですが・・・。」

その言葉に3人が声のするほうを向くと、青白い顔をしたカスターが立っていた。

「すみません。クレアさんを迎えに来たんですけど、テレンス先生に二日酔いの薬をもらえないかと思いまして。」

カスターは深々と頭を下げた。

3人はあっけにとられていた。


ロブは上半身裸で鏡の前にたち、シャドーボクシングをしていた。

それはまるで、ロブが嫌なもう一人の自分を叩きのめそうとしているように見えた。

「フレッドが亡くなった時も、そうやって、シャドーボクシングをしていたな。」

鏡の写る自分の後ろに、ディゴが立っているのをロブはみた。

「フレッドがいつも、ミット打ちを相手してくれたけど。」

「頼めば、俺がしてやるぞ。」

「いや、今はいい。そのうち、レインやジリアンを鍛えるそのときに頼むよ。」

「そうか、わかった。」

ディゴは、そういうと、その場から去った。

ジゼルはその様子を厨房から見ていた。

ジゼルが見ている姿を食器を片付けながらコーディは見ていた。

コーディは、ジゼルの目線の先ロブを見た。

(覚悟を決めると言っていたけど、果たしてどこまで話をしてあげれるのでしょうね。)

ジリアンは厨房で後片付けをしていたが、レインは右腕が使えないので、片手でテーブルを拭いていた。

コーディはふたりをみながら、自分がどのようにして、二人に接していいのか考えていた。

本当の母親にはなれないのだけれど、ふたりには母親が必要なのはあきらかだった。

コーディが描く親のイメージが、ロブが父親で自分が母親というのではなく、どうしても、クレアが父親で自分が母親というものを描いてしまっていた。

(ロブさんが父親というのは、どうもイメージがわかない。ここでは父親がロブさんで母親がカスターさんだったのね。

それでは、レインさんやジリアンさんが、母親を知らないまま成長してしまい、将来家族を持つときに困るということになるのね。)

コーディはクレアが考えていることがわかったような気がした。


カスターがクレアを後ろに、エアバイクを走らせていた。

オホス川を渡りきったあと、クレアはカスターに合図を送ってエアバイクを止めさせた。

「どうかしたんですか、クレアさん。」

「カスター、ヘルメットと、めがねもはずすんだ。」

カスターはクレアが何をしようとしているのわからなかったが、言われるがままにした。

めがねをはずしたカスターの両目の下まぶたをクレアは指で下げた。

「眼球は充血していないのに、まぶたが充血しているじゃないか。カスターお前泣いていたのか。」

心中を見抜かれた想いがしたカスターは緊張が走って硬直した。

指を離して、クレアはカスターの表情みて、口にした言葉どおりだと思った。

カスターは目線を上にむけ、ロブから聞いた話をした。

「コーディの言うとおり、レインたちのことはロブの問題だ。あたしたちがとやかく言う必要はない。

苦しんでいる二人を見てみぬ振りができないのは、お前だけじゃない、ドックにいてる知っている連中だってそうだ。」

「それはわかっているのですが、レインが母親を忘れているっていうロブの言葉に納得がいかなくて。」

「レインはある種、母親に似て天然だからな。自分ではわかっていないんだよ。何が原因でそうなっているのかも。」

「ロブには、忘れているように見えるんですか。」

「ああ、事実そうでなくても、振舞っている姿がそう思わせるのだろう。ジリアンはレインがセシリアがほんとうの母親じゃないかって口走っているのを知っている。」

「それは、レインがってことですか。」

「それだけセシリアの本性を知ったときのショックが大きかったわけだけど、ジリアンが苦しんでいる姿をみて、冷静にうけとめたんじゃないかな。」

「そういや、レインはやけに能天気な感じが・・・。」

「ここだけの話にしてくれないかな。」

カスターは驚いた。本来なら、クレアの秘密ごとを話してもらえるのは嬉しいはずだが、話のながれからして嫌な感じがした。

「レテシアの叔父であるグリーン・エメラルダ号の艦長から、頼まれたんだが。」

「何をですか。」

「二人がよりを戻すことだよ。」

「へ?」

クレアとロブ、どちらかが好意をよせていてて、それを片方がわかっていて、というような仲だと思っていたカスターは驚いた。

「じゃ、ふたりをくっつけさせることを頼まれたのですか。」

「ああ、そうなんだ。万が一とはいわず、その可能性は高いと思う。」

「つまり、レテシアさんの方もロブのことを・・・。」

「艦長が頼んでいるんだから、そういうことだろうな。」

クレアは腕を組んで考え込んでいた。

「二人が分かれた理由って、ロブの一方的な想いですか。」

「レテシアがホーネットにレインを乗せたことに腹を立てて殴ったのが原因だけどね。」

(やっぱり、乗せたんだ。)

カスターは心の中で言葉にした。

「な、殴ったんですか。」

「平手打ちだったらしいが。」

「女性に手を上げるなんて。しかも・・・。」

「別れを覚悟してやった行動だろうが、やりすぎて二人とも避けてしまって、レインに忘れさせることまでやってしまった。」

「それは僕も酷いと思うのです。そこまでしなくても。」

「いつも、怖がっていることがあって、レインがレテシアに似て同じしぐさをすると思い出すらしい。」

「それで罰を受けているつもりなんですかね。」

「ここだけの話っていったのは、艦長から頼まれているのはよりを戻すことが前提じゃないんだ。

レテシアを飛行機乗りから引退させることなんだ。」

「つまり、よりを戻させて、飛ばせないためですか。」

「まぁ、そういうこと。今でも現役でスクリュー飛行しているくらいだからね。」

「それが出来るのは、ロブだけですか。」

「レインだと、飛ぶことを教育しそうだからな。」

クレアは空を見上げた。

太陽は傾いていたが、やけにまぶしかった。

上空高くとんだら、もっと太陽がちかくに感じるだろうと考えた。

「ロブに直接その話しないということですね。」

「そう。コーディは察してくれるだろう。お前の振る舞いで邪魔されたくはない。」

「そんなつもりはないですよ。茶化さなければいいのでしょう。

僕はどちらかというと、レインにお母さんがいたほうがいいっていう感じですよ。」

「そういうことだな。」

クレアはヘルメットをかぶってバイクにまたがった。

それをみて、カスターはあわててヘルメットをかぶりバイクにまたがり、エンジンを入れた。


夕食後、コーディは明日に発つ準備をした後、クレアと二人で話すことがあったのを思い出した。

コーディが食堂にいくと、ジリアンが一人で洗いものをしてレインが後片付けをしていた。

「レインさん、クレアさんがどこにいてるか知らないでしょうか。」

少し敬語を使われていることに違和感を感じながら、レインは答えた。

「多分、展望台だと思う。」

「ありがとう。」

食堂をでるコーディの姿をみて、レインはぼやいた。

「コーディさんって、なんだか、打ち解けてくれない感じがするんだ。そう、思わない?ジル」

「うん、そうだね。でも、そのうち、慣れてくれるんじゃないかな。」

そういった後、次に出る言葉で口を滑らせてしまうことに気がついた。

(危ない危ない)

「え、そんなにドックに来ることないでしょう。それとも、長居することになるのかな。」

「ロブ兄さんと仕事することになるっていうのはそういうことじゃないのかな。」

「そだね。明日には発つって言ってたしね。」

ジリアンは胸をなでおろした。


コーディがドアをノックして展望台に入ったら、ロブとカスターが足を机に置いて寝そべるようにその場から外を眺めていた。

「あのぉ、クレアさんはどこにいらっしゃるか知りませんか。」

「上にいてるよ。」

ロブがコーディのほうに向いて、上を指差して言った。

「そこのドアを出て階段があるから上っていってくれ。」

ロブは左端にある外に出るドアを指差した。

「わかりました。ありがとうございます。」

コーディがドアを開けると、風が吹き込んだ。

外には階段へのステップがあるが狭く下を除くと暗闇の底がみえた。

手すりを握りしめ、一歩一歩上っていった。

岩山の天辺、岩肌に沿うように階段がつながれていた。

上りきったところに、寝そべって夜空を眺めるクレアがいた。

コーディがそこに座るスペースすらない。

クレアは階段を誰か上がる音がしたので、見下ろしていた。

「クレアさん、実はみんなのいるところで出来なかった話があるのです。」

「なんだい、コーディ」

「実は、クレアさんがドックにいない間、設計主任のバトラーさんから連絡がありまして、メンバーに加えてほしい人物がいるとのことです。」

「へぇ、なぜ、また。」

「18歳の男性らしいのですが、罪を犯して保護観察の身らしくて。」

「そりゃ、また、難のあるキャラクターだな。」

「バトラーさんの話ではご自分が保護観察者で面倒まではみなくていいらしいのですが、混血児なので誰も面倒を見たがらないということだから、お願いしたいとのことです。」

「また、痛い話だな。」

クレアはまるで他人事のように話を聞いていた。

「理事長のさしがねじゃないだろうなぁ。主任はそんな感じの人じゃなかったものね。」

「そうですね。とても困った様子で話をされるので、クレアさんには伝えておきますとだけ言いました。」

「オーケーだ。布石になるだろう。」

「布石ですか。」

「ああ、混血児が身近にいると変に差別感を持たなくていいだろう。」

「そうですが、保護観察っていうのは未成年だからでしょう。殺人でも犯したとかではないと思うのですけど。」

「まぁ、心配はいらないよ。どうせ、隠していて、ばれてしまったから、罪を犯してしまったということだと思うよ。

主任が黒衣の民族カラス関係者だとは思えないからね。」

コーディは梯子に体重をかけるようにして両腕を組み、梯子の上に乗せて、クレアに耳打ちするように話しかけた。

「ロブさんって、クレアさんに気がありますよね。」

「あんたまで、なにを言ってるんだか。」

「ということは、クレアさんの性癖に気づかれていないんですね。」

クレアは空に顔を向けて、目を横に寄せてクレアのほうを見ようとした。

「いちいち、教える必要なんかないでしょう。」

「教えるとかではないですよ、気づかないんですかねってことですよ。」

「カスターだってそうだろう、気づいてないよ。」

「ロブさんとカスターさんじゃ、クレアさんとの付き合い期間が違うでしょ。」

「まぁ、そうだけど。一生知らなくていいじゃないの。あいつの驚く顔が見ものだが。」

「はぁ、そうですか。傷つくと思いますけどね。」

「コーディ、ロブに惚れるなよ。」

「いや、そういうことはしないと思います。大丈夫です。思いを寄せている方がいらっしゃる男性に興味はありません。」

「あ、そう。だったら、いいんだけど。」

二人は夜空を眺めていた。

「こうしていると、自分がちっぽけな人間に思えちゃう。」

「世界にはわたしたちがしらないことがいっぱいあるのでしょうね。」

「あるね。いっぱい。そして、私たちの知らないところでいろんなものがうごめいている。無数の星の輝きを奪い取ってしまうかのように。」

BGM: 「満天の星を見上げながら」はじめにきよし


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