ようこそ魔族の総本山へ
究極の晴れ男というのが居たらどんな感じだろうか。まず間違いなく、大切なイベントの日には雨なんか降らないだろう。もしかしたら一年中晴れなのかもしれない。日焼けのしすぎで、某真っ黒歌手みたいに股間まで黒いのかもしれない。でもさ、本当に凄い晴れ男ってそんなものではないと思うんだよね。雨が寄ってこないんじゃなくて、雨が降っていようとも晴れにしちゃうのが、究極だと思うのよ。
「え、何あの人。どういう原理?」
「映画の撮影かなにか?」
キャリーケースを引きながら、俺は歩いていた。空港に向かうバスまでの道のりは5分少々だが、空は生憎の雨模様。はー悲しいね。さっき降り始めたばかりだと言うのに結構強く振ってるから、もう水溜りも出来ちゃってて、パシャパシャと水溜りを踏みつけていく。
「おい狩虎、お前が家出るまでは雨降ってなかったぞ。私の為にさっさと家帰って寝てろ」
「今日が人生で一度しか経験できない高校の修学旅行って知ってて言ってるそれ?俺にだってこれぐらいの青春は謳歌させてくれよ」
「修学旅行行かなくったって、狩虎なら似合ってるから大丈夫だよ」
「なにに対しての大丈夫なのかよく分からんけど、ひとまず俺に優しさを見せやがれ。こう見えて寂しがり屋なんだぞ」
対して、究極の雨男とはどうだろうか。これもきっと、晴れなのに雨を降らせるような、そういうヤバい人間に違いない。
俺の右手には今日のスピーチのカンペ。そして左手にはキャリーケース。そうです、今俺は傘をさしておりません。周りの宏美や遼鋭は傘をさしているというのに、傘もささずにメモ帳を見ている。
もう大体の人はわかったと思うけど、土砂降りの中なぜか俺のところだけが晴れていた。今俺は究極の雨男であり、究極の晴れ男になっているわけだ。まぁ若干雨の方が優勢な気はするが…………どうでもいいな。
「昨日の影響でどうやら俺、現実世界でも魔力を使えるようになっちゃったみたいなんだ。しかも暴走状態で全くコントロールが効かない。この異常気象も俺のせいだろうし……あぁぁ、修学旅行だってのに嬉しくねぇぇええ」
「嬉しくないって、お前そこまで修学旅行に気乗りしてなかっただろ」
「気乗りしてましたぁ。感情を表に出すのが恥ずかしかったからずっと[気にしてない]フリしてただけですぅ」
「思春期かよ」
「実はみんな知らないかもしれないけれど、思春期真っ盛りなのよ俺達」
「まぁ確かに、そうでもなければ世界を助ける為に死ぬだなんて馬鹿なことは考えないか」
「そうよー?ここまで壮大な思春期を経験してるのは、世界広しと言えど俺ぐらいだろう」
「本当は経験しない方がいいと思うけどねー」
ドザァーーン!!
今度は俺に滝のような雨が降り注いだ。逆に俺以外の場所は晴れ渡っており、俺の真上に蛇口でもあるんじゃないかって本気で疑いたくなるような光景だ。てか雨の勢いが強すぎて首を捻挫するところだった。
「……そうみたいだな、碌でも無さそう」
俺はリュックから折り畳み傘を出して開く。右手に握られていたカンペは、さっきの雨のせいで根本からちぎれてしまってどっかに行ってしまっていた。どんな雨の威力だよと思いながら、カンペの切れ端をポケットに突っ込んで歩いていく。
昨日、俺が魔物化してからというもの世界がおかしいことになっている。魔物が出現したり、俺の魔力が発現したり……表面世界が現実世界に侵食し始めている。雨だからってのもあるだろうけど、空気も何か重たいし……侵食しているというよりかは[重なり合っている]感じか……確かにこうなるのなら魔法は禁止になるよな。先人は偉大だった。
「ていうかさ、昨日から何か変わったこととかない?魔力が使えるようになったとか、身体能力が向上したとかさ」
宏美や遼鋭も表面世界を出入りできる人間だ。何かしらの影響があってもおかしくはないよな。
「私は特に変化はないかな」
「僕もそこまでかなぁ。ああでも、いつもより多くご飯食べちゃったかな昨日は。なぜかお腹空いててさ、食べても食べても満たされなかったんだよね」
「ストレスかぁ。とうとう遼鋭もストレスに悩まされるお年頃になっちゃったのか」
ストレスが原因で食べすぎて太る人とかいるじゃん。正直羨ましいよなぁ、量を食う気にならないからさ。食ってる途中でどうしても飽きちゃって食事が続かないのだ。その点ストレスでご飯食う人って食うことに飽きることはないんでしょ?美味しいものを腹一杯に食わないと満たされない身体……俺も一度でいいからなってみたいね。
「僕がストレス感じたらそんな優しい発散の仕方はしないよ。分かってるでしょ」
「あーあれストレス由来だったんだ、初めて知ったわ」
「こう見えて何かと大変なんだよ僕」
身長高くてイケメンで頭いい奴の人生が大変とかありえないから。舐め腐ってんのか。世の中の7割近くの男性はお前よりも大変な人生送ってんだぞ、生まれた時からハンディキャップあるんだからな。……まぁ、幸福はいつだって相対的だ。遼鋭のようなクソイケメン野郎でも不幸を感じるのは当然のことなのだ。腹立つけどな。俺の不幸をわけてやりてーわ。
「遼鋭くんのストレス発散ってなんなんですか?」
バス停に着くとすでにイリナが待っていた。相も変わらずなんかやけに高貴な雰囲気を醸し出してる。本当に同じ人間なのかこいつ。
「えー秘密。言ったところでつまらないからさ」
「こいつ人ぶっ壊すのが得意なんだよ、精神的にも肉体的にも。まぁつまりそう言うことよ」
「ちょっと狩虎ー」
「バラされたところで痛くも痒くもないだろ?悪いことだと思ってすらいないんだからお前」
「僕に罪悪感はないけど、世間一般的には悪だと見做されてるからね。こんな一言で僕の評価が下がるのはやだよ」
「本当にそう思ってるんならやめんだよ」
「間違いない」
今は落ち着いているが、中学生の頃の遼鋭はかなり酷かった。平気な顔して気に入らない奴を徹底的に潰していた。遠くから見てたら「あれ、遊んでるのかな?」って勘違いしちゃうぐらい、遼鋭は平然と人を破壊する。これのヤバい点は遼鋭は誰よりも頭がいいところだ。世間一般的な物事の指標を理解しているため、善悪の区別がハッキリとついている。しかもその高度な思考能力は他者の気持ちを推し量ることも出来てしまう。殴らればどれほどの痛みを感じるのか、脅されたらどれほどの恐怖を覚えるのか…………それら全てを分かった上で、当たり前のように暴力を振るう。悪事を悪事と理解していながら、まるで悪事ではないかのように行う。こういう奴が本当の[悪]と言うんだろうなと、俺は幼心で理解した。
「被害者数だけで言ったら、宏美よりも多いもんな」
「まぁねー。宏美はそこらへんのチンピラとかいじめっ子とかを相手にしてたけど、僕は無差別だからね。良い子も悪い子も、僕の機嫌を害したらおしなべて捻り殺してたよね」
「人として終わってるよなー」
「逆だよ。野生と理性が併さった人間の極地だよ」
「極端ってことはそれ以上の進化がないんだろ?行き道ないってことは、やっぱり終わってるっことだろ」
「戻れるんだからまだ終わってないさ」
「戻る気ないくせに」
遼鋭は何も言わず、いつも通りの陽気な薄ら笑いを浮かべた。
あーやだやだ、これだけ頭の回転早いのに、常人じゃ到底太刀打ちできないようなフィジカルまで持ってるって言うんだから、そりゃやべぇよなぁ。
正直、俺が今1番心配しているのは遼鋭だ。こいつが魔力持って、なんかの拍子で暴れたりなんかしたら誰も止められない。宏美の抑止力が効かなくなるの本当まずいんだよなぁ……
「考え方が違うなぁ。宏美の抑止力があろうがなかろうが、必要だと思ったことを僕はやるんだよ。魔力がなくたって宏美や君をどうにかする方法を考え、ちゃんと実行することができてしまうだろうからね。狩虎、君が考えるべきなのは[僕が暴れる理由]を隠し通すこと。僕の素行を警戒したって意味がない」
……俺の心を当たり前のように読んでくるのやめてくんない?
「はいはい、分かったよ。注意しますよーっと。遼鋭に暴れられたら死人が出るからな」
「そういえば、遼鋭さんやひろみんって階級ってなんなんですか?ミフィー君と仲良くしてるから魔族だとは思うんですけど……そんなに警戒するってことは結構階級が高い感じですか?」
俺は宏美と遼鋭に視線を向けた。2人とも両眉を一瞬だけ上げて反応してきた。……言ってもいいのか。まぁ、秘密にするほどのことでもないしな。
「……魔王ってさ、何人いるか知ってる?」
「な、なんですかいきなり。3人でしょ3人」
「うん、3人。俺と、どなたかと、どなたかだな。で、俺達幼馴染は何人グループだ?」
「バカにしてるんですか、3人でしょ」
「…………」
「…………えっ、」
イリナは宏美と遼鋭を交互に見比べる。ただでさえデカい瞳が更にデカくなってる。まぁ驚くのも当然だよなぁ。
「ここが魔族の総本山だ。ようこそ勇者イリナ……とでも言っておこうか?」
その言葉と共に雨が土砂降りに変わった。




