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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
鏡にキスを編
74/92

増えていく敵

 「我が家のご飯は低カロリーで高栄養価が基本だからな。身体にいいぞーーたんと食うんだぞーー」

 「料理作ってない狩虎にぃが偉そうに言わないでよ」


 妹の花華(はなか)が料理を作っている間、俺達はソファの上でダラけながらくっちゃべっていた。


 「ていうか手伝ってよ。1人で大人数のご飯を用意するのって大変なんだから!」

 「それじゃあ私が手伝ってあげようか花華ちゃん」

 「あっ、宏美はいいよ。致命的に料理が下手だから」

 「ぶふーーっ!お前が厨房に立ったらフライパンがコゲまみれになるからな。大人しくダラダラしとけ」


 全てを完璧にこなす宏美だが唯一苦手なのが料理なのだ。料理だけはどうにも下手すぎて、弱火で野菜を炒めているはずなのに炭になるからね。ある意味才能だよね。


 「じゃあ僕が手伝おうか」

 「遼鋭はダメだよ。上手すぎて私のいる意味がなくなるもん」

 「ぶふーーっ!お前はなんでも全部1人でやっちゃうんだから今日ぐらいは人に任せてダラダラしとけ」


 遼鋭は性格の悪さを除けばなんでも出来ちゃうスーパーマンだからね。遼鋭と協力して何かをするなんて不可能なのさ。


 「……………マンガおもしろーい」

 「狩虎にぃが丁度いいんだから手伝ってよ」

 「光輝、いってやれ」

 「俺に任せたらササミと野菜と岩塩だけになるぞ」

 「なんで俺の周りには普通の人間がいないんだ」


 しょうがなく俺もキッチンに向かい準備の手伝いをした。


 我が妹、飯田花華は中学2年生ながらもこの家の台所を任されている。両親は昼夜が逆転した仕事をしているせいで俺らと食事の時間が噛み合わず、光輝は料理に興味がないせいでやる気がなく、俺が料理をすると…………


 「ちょっと狩虎にぃなんでコーヒー牛乳取り出してるの」

 「いや、ほら、飲みたいじゃん」

 「キッチンから出て行け!」


 冷蔵庫の近くにいるせいで毎秒コーヒー牛乳を飲んでしまうのだ。飲みすぎるあまり俺は冷蔵庫に近づくことを制限されてしまっている。1日に2度までしか近づいちゃけいけないってさ…………ここ俺の家よ?なんで接近禁止命令受けてんの。


 「と、ととと、糖分が欲しいぃい」

 「さっきまで普通だったのにどうしたの」

 「飲めると思っていたコーヒー牛乳が飲めなかった為、身体が糖分渇望状態に陥ってしまったたたたた」

 「そんなこと言っても飲ませないからね」

 「ちっ、けーち。花華のサディスト」


 俺はコーヒー牛乳を諦めて普通に料理の手伝いをした。

 花華と料理をするのなんていつぶりだろうか………2年前とかか?俺はずっと塾にいたし、花華はボクシングの練習に行ってたし………2人とも忙しかったもんなぁ。


 「久しぶりだね、こうやって一緒に作るの」


 花華も同じことを思っていたようで、懐かしそうにポツポツと言葉をつなげる。

 

 「そうだなぁ………いつの間にか料理の技術が上がって、俺なんかいらなくなっちゃったもんな。嬉しいような悲しいような………悲しいな」

 「そんなに私と料理したかったのぉ?」

 「両親の育児放棄の結果だからなぁ。悲しみの方が強いんだ」

 「そう考えると私達って特殊な家族だよね」


 この特殊さのおかげで俺たち子供は逞しく成長してはいるのだろうけれど、大人になってから色々な弊害が生まれそうだよな。たとえば親の愛情は無償の愛なわけでさ、人間社会じゃ普通に得ることはできない。もし与えられることなく大人になって子供が出来てしまったら………怖いよなぁ。


 「花華はちゃんと愛してくれる男と付き合えよ。ベッタベタに甘やかしてくれるようなやつな」

 「い、いきなりキッツイこと言わないでよ!絶対そんなのバカで中身ないじゃんやだよ!」

 「お、なんだ?まさか花華ちゃんの今の彼氏はバカなのか?」

 「そんなものに反応しないでよ宏美!ていうか彼氏なんていないから!」

 「こんな馬鹿みたいに甘やかされた女と付き合うバカはいねーよ」

 「ちょっと光輝バカってなによバカって!」


 リビングとキッチンが騒がしくなってきたな。やはり食事は楽しく摂らなきゃな。俺は彼らのやりとりを黙って聞きながら料理を続ける。飯田家はみんな忙しいから家族が揃って食事をすることが珍しい。作業のようにご飯を食う日常に比べたら今日はとても素晴らしいことだよね。

 30分後、料理ができたので食卓に並べて食事が始まった。みんながみんな、最近学校で起きたことを楽しそうに喋っている。そろそろ修学旅行が近いからそれ関連の話題が多い。


 「こいつが修学旅行を休むとか言った時はどうなるかと思ったよ。もうやめろよあんな冗談言うの」

 「そんなこと言ってたの狩虎にぃ?」


 アスパラとベーコンの卵炒めを口に運び咀嚼する。うーむ、我ながらいい焼き加減だ。トロットロの卵とベーコンの油が合わさって美味すぎる。アスパラを単品で食う気にはならないけれど、一緒に炒めると食感によって最高のアクセントになってくれる。


 「そのあと皆んなの前で土下座してなんとか参加できるようになっただろ。あれが一番手っ取り早かったんだよ、そう怒るなって」


 しめじと油揚げを炒めたものを口に入れてすかさず白飯をかきこむ。きのこも単品で食う気にはならないが、やはり何かと一緒に料理すると美味しくなる。食い物なんてそんなもんだよな。何かと合わさって初めて美味しくなるのだ。もちろん採れたての野菜とかも美味いけれど、やはり調理したものには勝てない。火は最強なのだよ。


 「はぁ…………なぁ狩虎。もうそろそろイリナちゃんに全部言うべきだと思うぞ」


 ご飯を食べ終えた宏美はスマホを弄り、俺はそれを尻目にサラダを食べる。ブロッコリースプラウトとレッドキャベツのサラダだ。オニオンチップと醤油ベースの和風ドレッシングがアクセントになって美味すぎる。


 「何言ってんだよ俺はもうイリナを騙してはいないぞ。自分の身分も、目的も伝えている」

 「騙してるだろ。お前は自分を悪者にしようと必死だ。違うか?」

 「しようもなにも俺は悪者だ。偏向的に何かを伝えるでもなくな」


 豆腐のお味噌汁を流し込み、俺は両手を合わせると空いた食器をまとめて流し台に持っていった。そしていつもの定位置に座り、テレビをつけるとぼーっと意味もなく見つめる。


 「[自分のせいで青ローブが裏切った][自分のせいで勇者を殺してしまった]………どうせそんな感じで言ってるんだろう。お前は悪くないとは言わないが、お前だけが悪いわけがないんだ。ちゃんイリナちゃんに説明して謝ろう」

 「…………それでどうなるんだ?」


 テレビを見ながら俺は反論していく。いつもと変わらず芸能人のゴシップだったり殺人事件がニュースで流れていく。


 「俺の印象をよくしてそれでどうするんだ?[俺はこんな悪者じゃないんです殺さないで下さい]って言うのか?…………無理だろそんなこと」


 俺は大量の人間を殺した。勇者達を騙しさらに大勢の勇者を殺した。もう誰も俺の言葉は信じない。もう誰も俺を許しはしない。


 「俺がもし花華や光輝を殺されたら、たとえその殺人犯には殺さなきゃならないどうしようもない理由があったとしても、そいつを殺すよ。絶対に殺す」


 俺的には復讐は賛成派だ。復讐が復讐を呼び復讐の螺旋が生まれるからやめようだぁ?そんなの最初にそれを生み出したやつが悪いのだ。誰も殺さなきゃ復讐などされない。復讐の螺旋が悪いのではない、始めたやつが悪いのだ。


 「悪者になったのならずっと悪者でいなきゃいけない。そうしなきゃ遺された者は気持ちよく復讐が出来ないからな。悪者は許されちゃいけないんだ。永遠と恨まれ続けなきゃいけない」


 そうじゃなきゃ遺族が可哀想だろう?身近な人間を殺されたのに[許さなきゃいけない]だなんて……あまりにも残酷すぎる。この世は加害者に優しい道徳で構成されている。だから嫌いだ。


 「それでも勇者領は救いたいんだろ?」

 「俺のせいでカイが死に、イリナもフェードアウトしてしまった。勇者領の今の危機的状況を作ったのは間違いなく俺だからな。このまま全滅したら気分が悪いだろう」


 せめてものイリナや他の勇者への罪滅ぼしだ。そして勇者領を救った時には、イリナや他の勇者に殺される。………それが一番の贖罪だろう。


 「………君の話を聞いていていつも思うのはさ、その計画ってかなり難しくない?勇者は救うけれど、君自身の好感度はかなり低くしなきゃいけないわけでしょ?」

 「だから俺は好感度が上がらないように、大事な戦争の時に裏切って勇者を殺したんだ。ここから俺が成果を挙げても誰も信用しない。[イリナか他の勇者の手柄を横取りしたんだろ]と考えてくれるはずだ」


 殲滅戦の時の裏切りで、カースクルセイドを全滅させつつ俺が死ぬのが一番だったが、失敗したとしても俺の計画の支障にはならない。失敗しようが成功しようが俺の目的は達せられるようになっていたんだ。


 「かなり難しいことだとは理解してる。それでも俺は成功させるよ」

 「君は本当に…………努力の方向性が狂ってるよ」


 呆れるのかと思ったが遼鋭は笑っていた。こいつはいつもそうだ。俺が変なことをしても笑って見守ってくれる。ただ宏美は…………


 「それでも私は、こんなことでお前が死ぬのは嫌だぞ」


 俺が間違ったほうに行こうとすると必ず止めてくれる。間違っていると言ってくれる。こいつは本当にいい奴だ。幼馴染になれてよかったよ、俺には勿体無いほどに出来た人間だ。


 「私も嫌だよ。狩虎にぃがこんなことで死んじゃったら、まるで私のせいで死んでしまったみたいで………」


 花華までそんなこと言うのか………当然お前のせいなんかじゃない。人を殺したのは俺が悪いし、その原因を作り出した青ローブも悪い。被害者の花華が心を痛めるべきではないのだ。


 「本当はお前を止めてやりたいが、何か言ったところで止まらないのは長い経験から知っている」


 スマホをテーブルの上に置き、宏美が俺の頭を両手で掴んで無理やり捻った。俺と宏美の目があった。


 「だから私がお前を救ってやる。恨まれたくても恨まれないぐらいに完璧なヒーローにしてやる。お前が生み出した復讐の連鎖を、お前がヒーローになることで止めるんだ」


 宏美は笑った。……やべぇな。宏美といいイリナといい超人が俺の計画を邪魔するってのかよ。やめてくれよマジで………


 「まさかお前………今日、勇者領に行ったのも…………」

 「ああ、お前の妨害をする為に色々と準備してるんだ。私を敵に回したことを後悔するんだな」


 こうして俺の悪役計画の邪魔者が1人増えた。まずいなぁ……宏美が敵に回るのは本当にまずいなぁ。


 そこから俺達は何気ない雑談をした後に解散となった。今日は珍しく時間取れる日だからな、頑張って勉強しなきゃ………でも表面世界のことで頭が一杯になって手がつかなかった。





 「イリナちゃん、私たちの会話は聞こえていたか?」


 家に帰る途中、宏美は歩きながらスマホで通話していた。


 「はいバッチリ聞こえてました!ありがとうございます!」


 ご飯を食べている間、宏美は自分のスマホを通話状態にして放置していた。通話のかけ先は当然イリナ。あの会話の全てはイリナに丸聞こえになっていたのだ。


 「イリナちゃんならそろそろ気づいていると思うけれど、狩虎はイリナちゃんや他の勇者のために、悪者のまま勇者を救おうとしている。私はそれを止めたい」


 宏美は狩虎を止めようとしていた。しかし表面世界の情報には疎いため、誰か協力者を探していたのだ。それに最も都合が良いのはイリナに他ならない。彼女は表面世界に精通しているだけでなく、狩虎の唯一のストッパーなのだ。今の狩虎は暴走状態にある。彼の精神がではなく、彼が行おうとしている行為が狂っている。たとえ成功しても待つのは破滅のみ…………あまりにも後味の悪い結末を迎えることしかできない彼の計画は[目指すべき目標ではない]と宏美は認知していた。


 「イリナちゃんは数少ない[狩虎が殺せない勇者]だ。イリナちゃんの協力がなきゃ狩虎を止めることはできないと思う」

 「………宏美ちゃんがそう言うってことは、かなりミフィー君のことを警戒してるんだね」


 イリナに伝わらないと分かっていながらも、宏美は頷いた。


 「あいつは自分が才能のない人間だと思ってるけど、私はそうは思わない。あいつは[学習の天才]で[努力の天才]だ。私はあいつが諦めているところを見たことがない」


 何年かけようとも成功するまで狩虎は努力を積み重ねる。実際、狩虎は何年もかけて学力で宏美を抜いているのだ。宏美が危険視するのも納得がいく。


 「私達魔族とイリナちゃん達勇者が、一丸とならなきゃ狩虎を止めることはできない。………協力してほしい」

 「もちろん!私も全力で協力しますよ!」

 「ありがとうイリナちゃん………完璧に勇者領を救おう」


 宏美は通話を終えるとポケットにスマホをしまった。狩虎を止める絶対条件は表面世界を平和にすること。その為にはカースクルセイドを倒し、勇者と魔族が和解しなければならない。その立役者を狩虎にする事ができれば…………そう考えながら宏美は歩いていた。


 「騙してるのはお前もだろ宏美」


 どこからともなく声が聞こえてきた。宏美は周りを見渡すが、近くには誰もいない。


 「勇者領に行った理由はあれだけじゃあないだろ?なぁ?」

 「…………誰なんだお前」


 宏美は立ち止まり腰を落とした。こんな夜に話しかけてくる不審者にろくなやつはいない。いつ襲われるか分からないから宏美は戦闘態勢に入ったのだ。


 「おいおい誰なんてそんな悲しいこと言うなよ。僕だよ僕。この16年間ずっと一緒だったじゃないか」


 遼鋭?………いやそんなはずはない。あいつの家の前で別れたばかりだ。それにこんな面倒くさい話しかけ方はしない。誰だこいつ…………


 「君の代わりを何回も務めてあげてたじゃないか。忘れたなんてつれないなぁ」

 「…………まさかお前!」


 周りに誰もいないわけだ!こいつは表面世界の私自身!つまりこの声は私から発せられている!


 「そういうこと。どうやら僕も炎帝と同じように同一化してしまったみたいなんだ。よろしく頼むよ」


 そして喋らなくなったもう1人の宏美。事態が飲み込めずに宏美は呆然と立ち尽くしていた。

この小説って変なんですよ

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