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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
彼らは新人類編
44/92

みつみつ♪ やくやく♪

登場人物

飯田(いいだ)狩虎(かこ):あだ名はミフィー君。主人公。

・イリナ:最強の勇者。主人公。

 「ふぁーー暇だ」


 椅子に深く腰掛けペン回しにトライするが、あまりにも不器用な為にペンが指から滑り落ちる。個人的にペンが床に落ちる音ってのがかなり嫌いだ。その音を聞いて周りの人間が気を遣って拾おうものなら最悪。たかがペンを、しかもペン回しの失敗の為に落としたものを拾ってもらうと「こんなくだらない事に意識と時間を割かせてしまって申し訳ない」って気持ちになるのだ。


 「そんなの会長だけですよ」


 しかし生徒会の人達は俺が何かしたところで何も気に留めない。ペンなど気にすることなくカタカタとキーボードを叩いている。助かるなぁ、俺に無関心を貫いてくれるのマジ助かるなぁ………本当だよ?悲しんでないよ全然。


 「修学旅行が近づいてきているのに暇なわけないでしょう。ちゃんと旅行先に連絡して最終確認しておいて下さい。報告書も書いてもらわないといけませんですし」

 「大丈夫だ、全部宏美がやっている」

 「やってないけどなにほざいてんの」


 モニターを睨みつけながら、心底うんざりした声を発する宏美。


 「え、いつもやってくれてるやん」

 「修学旅行の事務仕事ぐらいちゃんとやれ。人生で一回きりしかないんだぞ」

 「留年するかもしれないし………」

 「学年一位のお前が留年するなんて校長と理事長を皆殺しにでもしないとならないよ」

 「それね、留年じゃなくて退学っていうの。そして今の俺は退屈」

 「んじゃあこれは」


 宏美が自分の脚を指さした。


 「ソックス」

 「これは?」

 「サックス」

 「ん?」

 「アックス」

 「んーー?」

 「振りおろすっ!」


 斧を振り下ろそうとしたから、俺は急いで生徒会室から逃げ出した!


 「どこまでもサボりやがって………お前の修学旅行だけ沖ノ鳥島に変えてやろうか」


 狩虎がいなくなった生徒会室で、いまだにモニターを見ながら呟く宏美。それを応接用のソファーに座りながら眺めている私ことイリナ。


 「………いまだに信じられないんですよね、ミフィー君がこの学校で学力1位なの」


 私が転入する前にこの学校でテストが行われ、その結果が張り出されることになったのだが、なんとミフィー君が1位だったのだ。あのパーフェクト人間の宏美ちゃんを差し置いての1位である。正直ビビったよね、あんなにクソ野郎なのに。


 「そうか?私的には全然普通だと思うけどな。………イリナちゃんは知らないだろうけれど、あいつ中学1年生の頃からずっと1位だぞ」

 「中学1年生からずっと!?しょ、小学生の頃は!?」

 「そりゃあもちろん私だ。しかし中学生の頃からあいつに抜かれちゃってなぁ。全ての分野で勝ててたのに、勉強だけは勝てなくなったんだ」


 自分が負けた話をしているのに、この話をしている宏美ちゃんはどこか誇らしげだった。


 「あいつは努力の意味も、限界の先にまだまだ可能性があることも知っている。私から言わせればまだまだこんなものじゃないようちの狩虎はね」


 ベタ褒めだぁ。………宏美ちゃんってミフィー君のこと好きなのかなぁ。


 「それでそれで、正直な話ぃ。宏美さんは飯田さんのこと好きなんですかぁ?」


 私の思いを代弁してくれたのは、1年生の#姫崎__ひめざき__##鈴音__すずね__#ちゃんだ。彼女は毎日ミフィー君に積極的にアプローチをかけているガチ恋勢だ。宏美ちゃんがミフィー君をどう思っているのかは気になるところなのだろう。


 「んー……そういう感情はない気がするな。私達ってどこまでいっても幼馴染の延長線上にいる気がする」

 「幼馴染の延長線上は夫婦ですよ夫婦!」

 「それはない。幼馴染の先には腐れ縁しかない。恋愛感情が生まれるなんてフィクションの中だけだよ」


 そういうものなのか。私には幼馴染というものがいないからよく分からないから変な事は言えないけれど、それってちょっと悲しいよね。ないものから言わせればロマンだよね、ロマン。

 宏美ちゃんとミフィー君のカップルかぁ…………うーん、わからない。どんな生活を送るのか一切わからないけれど、ひとまずミフィー君が尻に敷かれるのは確定している気がする。


 「…………ずっと疑問に思っていたんだが、なんで姫崎ちゃんは狩虎が好きなんだ?あんな最低野郎を好きになるなんてどうかしてるぞ」


 私達が思い思いに2人の結婚生活を想像しているのを察したのか、宏美ちゃんはなんとかして話題を変えようとしてくる。たしかにそれ気になるな。


 「ふふーーん!そんなの決まってるじゃないですか私達は運命的な出会いをしたのです!あれはそう天気雨が降る去年の夏、蝉の音が木霊する森の中でイジメられていた私を飯田さんが助けてくれたのです!あの時私は確信しました!飯田さんこそが私の王子様だと!」

 「す、凄い!それはもう付き合うしかないじゃないですか!応援しますよ私!」

 「ありがとうございますイリナさん!」


 その出会いも凄いけど、なによりもミフィー君が人助けしていることに驚きだ!それはもう以心伝心だよ!


 「イリナちゃん、女の子のそういう話はほどほどに聞いた方がいいよ。夢みがちなやつはよく話を盛る」


 しかし宏美ちゃんは大して興味なさそうにモニターを睨み続ける。さっきからずっと同じ体勢だけど何してるんだろう。


 「本当ですよ!私達は赤い糸で結ばれてるのです!」

 「うーーい、んじゃあ逃げ出した運命の人を追いかけてきたらどうだ」

 「勿論そのつもりですとも!」


 そう言うと姫崎ちゃんは生徒会室を爆速で抜け出し、どこかにいるミフィー君を追いかけ突っ走っていった。


 「…………こんなこと言うのも変な話だけどさ」


 モニターを凝視し続ける宏美ちゃん。大丈夫だろうか全然瞬きしないんだけど………


 「姫崎ちゃんには気をつけた方がいいよ。彼女、私達じゃあ測れないほどのエネルギーがあるから」


 たしかに、あのダッシュを見る限りとてもヤバいよなぁ。エネルギーに満ち溢れてるよ。


 「………そう言えば宏美ちゃんは何をずっと見ているんですか」

 「FXのチャート」


 …………宏美ちゃんもサボってるじゃん。



 一方その頃、姫崎鈴音はというとこの学校の第二棟の1階に来ていた。そこにはボケーっと座りながらコーヒー牛乳を飲む飯田狩虎。


 「なんとか抜け出してきましたよ飯田さん!」

 「へーーよく抜け出せましたね」

 「愛しき飯田さんに会いに行ってきます!って言ったらみんな信じてくれました!」

 「またその手か………やめてよ、俺は全然付き合う気なんてないんだから」

 「付き合うまで続けるのが私のやり方ですので!」

 「困ったなぁ」


 周りを一瞥した後、狩虎は静かに耳打ちをした。


 「雫石さんは?」

 「撒いて来ました。私の全速力に追いつけるのは宏美さんぐらいですよ!」


 そしてもう一度、今度は注意深く周辺を観察した後、再度耳打ちをする。


 「3日後にカースクルセイドとぶつかる。その時に秘密裏に人員を用意してくれ。メンツは姫崎さんが選んでくれればいい」

 「ふむふむ、つまり?とうとう!?」

 「ああ、徹底的に潰しに行く。勇者領側に身を置いている俺はかなり危険な状態になるだろうけれど、なんとかする。だからなんとかして3日後に間に合わせてくれ」

 「あいあいさー!」


 その言葉を最後に姫崎さんは生徒会室へと走って戻っていった。ユピテルさんの話を聞いて覚悟が決まった。イリナを裏切る形になるが全部まとめてぶっ壊すか。

 俺は静かに目を閉じた。




 ~アジト殲滅戦まで残り 3日~


 この学校の生徒会は少し特殊で、この学校で発生する事務仕事の約半分を担うことになっている。なぜ高校生にやらせるのか?理事長曰く生徒の自主性や能率を上げるためだというが、要は人件費の削減だろう。生徒会に属することで一応の給料は発生するが、金額を比べると正規の事務員とは雲泥の差がある。いいようにこき使われているのだ。


 「グループの仲を取り持って欲しい?」


 生徒会室に入ろうとした時、中から宏美の驚いた声が聞こえてきた。うわーお面倒くさそうだな、もう少し待ってから入るか。


ガラッ


 「………………」

 「………………」


 宏美が扉を開けた。この場から去ろうとしていた俺と目が合い、彼女はゆっくりと笑顔を作ると俺を生徒会室に引き摺り込んだ。宏美クラスの人間になると部屋の外にいる人間の気配も察知できてしまうのだ。静かに離れるのではなく全力ダッシュするべきだったな。俺は後悔しながら依頼人の前に座った。


 生徒会の仕事として他には、というか俺的にはこれが一番大切だと思うのだが、生徒のお悩み解決もしなくてはいけない。生徒によりよい学校生活を送ってもらうのは大切であり、俺達は身を粉にしてそのサポートをしなきゃいけないというわけだ。


 「流石は生徒会長よくわかってらっしゃる。さっき逃げ出そうとしていたのが嘘みたいに誠実だな」

 「遠くの方で助けを呼ぶ声が聞こえて行こうとしてたんだ………タイミングが悪かったんだよ、うん。あるだろそういうの。バリバリやる気あるのに便意がきてトイレに長時間いたらサボってると勘違いされて怒られる的な」

 「お前の場合は100%サボりだから怒られて当然だろ」


 というわけで、今回の依頼人をマジマジと観察する。ブルーアッシュでカールのかかったミドルヘアーの女の子。ネイルとかもちゃんと手入れしてキラッキラだし、オシャレに力を入れているのだろう。対照的に俺を見てくださいよ。寝癖ついてても放置よ?


 「修学旅行が3週間後に控えているのに私達のグループはいまだに仲が最悪なんですよ。このままじゃ全然楽しめないんで、どうにかして私達の仲を取り持ってくれませんか?」


 えぇぇ………


 「いや無理でしょ、普通に」

 「諦めるの早くない?」

 「俺と宏美が喧嘩してる時に他人が来て[仲良くしろよ]って言ってきたらどう思うよ」

 「余計なお世話だって思ってぶん殴るわ」

 「ね?無理でしょ」


 人間関係において全くの他人が関わって好転する試しなどないのだ。当人達がどうにかしないと話にならん。


 「でも、私達の仲が悪いのって少なからず生徒会のせいでもあるんですよ」


 ほう?それは………まぁ、心当たりがないわけでもないな。生徒会は学校の規律を守るために学生達に注意をしたり、厳しい処罰を課すこともある。一般社会で警察が煩わしく感じる時があるように、生徒会もまた生徒達の反感を買うことがあるのだ。


 「宏美さん派かイリナちゃん派かで揉めてるんです」


 ごめん、心当たり全然なかったわ。


 「私は雪ちゃん派だと言っているのに全然聞いてくれないんですよ!」

 「え、あんたも!?」

 「今私達のグループは宏美さん派とイリナちゃん派と雪ちゃん派の派閥ができちゃって、会話もまともにできない状態なんです。生徒会でどうにかしてください」


 なんていうぶん投げ方だ。意味がわからないぞこれ。俺は宏美の方を見た。案の定、宏美もどうしたらいいのかよくわからないといった表情で俺を見てきた。


 「………そ、その。派閥が生まれる原因はなんだったんですか?決定的な亀裂を生み出す原因といいますか……ほら、一緒に修学旅行に行きたいと思うほど仲良かったんでしょ?」


 修学旅行のグループ決めは好きな奴らが6人集まって構成される。あまりものを貰わない限り基本的には仲良しグループになるはずなのだ。


 「はい………同好会レベルではありますが生徒会大好きクラブなる集まりがありまして、非公認なんですけど13年続いてる伝統あるクラブです。………私達はそのグループに所属していて、修学旅行のグループ決めの時には真っ先に集まりました」


 すげーーなんていうか、その………すげーー。俺の知らない世界だぜ。


 「同じ志を持った人間が集まれば簡単に目的を達成できるじゃないですか。修学旅行の行き先を自由に決めていいと知った瞬間にみんなこう思ったんですよ、[こいつらと同じになれば修学旅行で生徒会をストーキングしやすい]って………」

 「今サラッと言ったけどかなりアウトだからね?」

 「宏美さんと同じ宿泊先に行って浴衣姿をバンバン写真に撮れるとか最高じゃんって………」

 「欲望丸出しじゃん」

 「一緒にお風呂に入って裸見れるじゃん、あわよくば色々と触れるじゃんって………」

 「そこまでいくとむしろ凄いと思う。尊敬するよ」


 やべー集まりだな。しかもそんな奴らにこの生徒会は狙われていたのか。この女の人が来てくれなきゃそのグループを認知できずに修学旅行をするところだった。あぶなかったー。


 「でも宏美さんとイリナちゃんが同じグループじゃないってことがわかると、私達に亀裂が入ったんです。宏美さん派とイリナちゃん派に別れたのにはそういう理由があるんです」

 「ふーーん…………え?じゃあ雪さん派の貴方は?雪さんは1年生なので修学旅行にいけませんよ」

 「このまま行き先が決まらなくて変なことになるぐらいなら、留年して雪ちゃんをストーキングした方が実りがあるなって………」


 人生賭け過ぎじゃないこの人?生徒会の為にどこまでするつもりなんだよ。いやまぁ今の生徒会の顔面偏差値と才能は歴代でもトップクラスだと言われているから、ファンクラブ的なものができるのも分りはするんだけど…………そこまで人生賭けなくてもいいじゃん。たかだか人間だぜ生徒会役員なんて。


 「………もしかして、もしかしてなんですけど」

 「はいなんでしょうか」

 「髪の毛が白っぽいのって………」

 「当然雪さんを模してです。真っ白にしちゃうと同じになってしまい畏れ多いのでブルーアッシュにさせていただきました」


 うわー当然なんだ。当然なんだぁ…………もしかしてそのグループの髪の色って生徒会メンバーとほとんど同じなんじゃないの?宏美のファンなら赤色っぽくなってるの?うわっ………こっわ。


 「ち、ちなみに俺のファンは?」

 「サボってばっかの役立たずにいるわけないじゃないですか恥を知りなさい」


 辛辣すぎるだろ………期待してなかったけどさ、期待はしていなかったけれどさぁ…………もうちょっと言い方ってものがあるでしょ。


 「…………翔石くんは?」

 「いるに決まってるしょうが愚問も甚だしいですよ」


 いや辛辣すぎるって…………興味本位で質問しただけじゃん。ていうかなんで生徒会長の俺にファンがいないのは周知の事実になってるんだよ。そんな一般常識ないだろ。普通は逆じゃん。生徒会長にこそいるべきじゃん。


 「とにかく、私達のグループは生徒会のせいで仲間割れ中です。どうにかして仲直りさせてもらえないでしょうか。あわよくば写真とか撮っちゃってもよろしいでしょうか」

 「実は仲直りとかどうでもいいでしょ」

 「はい、正直な話。生徒会の方々と喋れただけで私は満足です」


 狂ってるよこいつ…………


 「ちょ、ちょっと待ってね」


 俺は宏美と一緒に生徒会室から出ると、なるべく声を聴かれないように声を小さくして話し合う。


 「これ断った方がいいんじゃないの?そのグループと会合した瞬間に酷い目に遭いかねないぞ」

 「しかしだなぁ…………私達が動けば解決しそうじゃない?」

 「そのとおりです!」


 中から依頼主の声が!なんで聴こえるんだよ!


 「私は、飯田狩虎生徒会長を除いた生徒会役員の声ならば1km離れていても聞き取ることができます。壁一枚隔てたぐらいで密談できると思わないでください!」

 「怖いよ!色々と人間やめすぎなんだよ!」

 「人生、人間やめてからが本番だと思ってますので」

 「それは人生とは言わないんだよ」


 俺と宏美は生徒会室に戻り、改めて依頼主の目の前に座った。


 「…………その、名前なんて言うんですか」

 「#寿々乃井__すずのい__##遥__はるか__#です」

 「寿々乃井さんですか………その、今回はご縁がなかったということで、この場はお引き取りを………」

 「面接落ちした就活生にかける決まり文句みたいなのやめて下さい。雪ちゃんに言われたら納得しますけど」

 「……………」


 俺は無言を貫く雪さんをガン見した。


 「…………ファックオフ」


 思ったよりも程度の高い罵倒を聞けたぞ。


 「承知しました!」


 雪さんの言葉を聞いて寿々乃井さんは走って生徒会室から消えて行った。


 「…………なんていうか姫崎さんみたいな人だったな。怖すぎるよ」

 「………………」

 「あのエネルギッシュな感じなんかもそっくりで………ねぇ、なんで黙ってるの?」

 「………………」


 みんながずっと黙って俺の話を聞いている。


 「え、さっきのスズノイさんの話を信じてるの?」


 生徒会メンバーなら1km先でも聞こえるってやつ。いや、え?ありえないからね人間の体の構造上。


 「…………奴ならやりかねない」

 「その通りですよ宏美さん!」

 「紛らわしいよ姫崎さん!!心臓に悪すぎる!!」


 生徒会室に突如入ってきた姫崎さんに全員がブチギレながら、今日の活動は終わってしまった。



 ~表面世界~


 「アジト殲滅戦を3日後に控え、ひとまず問題点を洗ってきたんだよ俺」


 イリナと黒垓君の前で俺はホワイトボードに情報を書き殴っていく。


 「俺を抜いた勇者領とカースクルセイドの戦力差はカースクルセイドが勝っていると考えるべきだ。勇者と魔族の魔力、2つの魔力を持つミレニアルズは強敵で第二類勇者クラスでも苦戦すると考えた方が良いからな」


 希望的観測はできない。カースクルセイドに所属する勇者達が勇者領を裏切る決断をしたということは、カースクルセイドの方が勝率が高いと判断したと考えてまず間違いない。炎の聖剣を手に入れた偽炎帝、裏切り者のミレニアルズ、昴さんとあちらの戦力は厚い。………もっと沢山の裏切り者が出ると考えて行動するべきだ。


 「ただ、俺がいるせいでその戦力差は帳消しになっている。下手なことをしなければ勇者領は100%勝てるよ、俺が保証してやる」

 「傲慢だね、現実世界だと卑屈まっしぐらなのに」

 「力があるんだから仕方がないだろ」


 しかし問題はここから。ここに負け筋がある。


 「しかし今の俺には魔力制御装置がつけられておりボタン一つで死んでしまう。そのボタンを持っているのはユピテルさん…………奴らが3日後の戦いで1番に狙うのはまず間違いなくユピテルさんだ」


 つまり俺達がしなくてはいけないのは、ユピテルさんを守りつつ敵を殲滅することなのだ。これマジで大切。


 「そのボタンを君が預かるっていうのは?」

 「誰も俺を信じてないんだからそれはありえないよ。そのボタンがあって初めて俺と勇者領は今の協力戦線を張れてるわけなんだからさ。………話を戻そう。とにかく、今度の戦いで一番重要なのは[ユピテルさんを守り切れるか否か]なわけだ」


 守り切れれば勇者領は勝利することができるだろう。しかし守りきれなければ…………待っているのは悲惨な未来、地獄だけだ。俺的にはその未来は拝みたくないものだ。


 「その為に必要なのはユピテルさんの守りを重点化すること。今日俺らがしなきゃいけないのは、ユピテルさんを守れるだけの人材を見繕うことだ」

 「私が守ればいいんじゃないの?」


 イリナからの素晴らしい質問。たしかに勇者最強のイリナがユピテルさんを守れば安全だろう。


 「いや、それじゃあ敵を殲滅することができない。俺とイリナ、黒垓君はあくまで攻めだ。守ってばかりじゃ戦いに勝つことはできない。」


 そもそも防御が完璧すぎると、敵が勝機を見出せずに逃げ出してしまう可能性がある。あくまでも防御は最低限の方がいい。そのためには敵の攻撃力を測り切るのが肝要だ。


 「なーるほどね、だから今日は勇者達を集めたわけなんだね」

 「そういうこと。守ることに適した人間を数人集めて完璧な防御部隊を作ろうと思うわけ」


 ホワイトボードに今日の目標を書き終えた俺は、扉を少しだけ開けて隣の部屋にいる大量の勇者達を眺める。今日のために募集をかけた勇者達だ。勿論俺の名前ではなくイリナの名前を使って募集をかけたから集まりがすごい。ここから適材適所を見つけるのは中々に困難……んっ!?


 俺は勢いよく扉を閉めると全力で隣の部屋から遠ざかった!


 「どうしたのミフィー君。唐突に銃口でも向けられたの?」

 「確かにそれはビビるけど、多分腰抜けて逃げられないよ俺みたいな奴は」

 「じゃあなに」

 「いや、その……見間違いだと思いたいんだけどさ」


 俺は再度扉を開けると、隣の部屋に集合している勇者達を眺める。うん、うん…………ブルーアッシュでカールのかかったミドルヘアの女の人がいるね。


 「ちょっとイリナ………[やっぱり生徒会って最高だよね。]って言ってみてくれない?」

 「え?…………やっぱり生徒会って最高だよね?」

 「そのとおりです!」


 隣の部屋からいきなり声が聞こえてきた。うわーーー…………寿々乃井さんいるんだけど。

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