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ドローエマグの魔道書 10



 人の手が入っていない森、草木をかき分け進む。しばらくすると、開けた場所に出る。そこには一人の少女が立っていた。


「あ、兄貴、あれは――」

「うん――」


 どこからどう見ても、日焼けしたマローダにしか見えない。

 似ているってレベルじゃない。完全に同じ顔だ。ただ、肌の色だけがチョコレート色になっていて、活発な印象が強い。

 彼女は長老の家で仕事をしている。だから、急に日焼けしたマローダがなぜか森の中にいた――ということじゃないんだろう。

 なら、あれは誰なんだろう。


「クソが! あれだ、ヤバいぜ――とんでもない力をもってやがる。もう見てらんねえ」


 蒼竜が肩の上で宝石に戻る。とてつもない力を持った守護獣が姿を見ただけで逃げ出す存在。あのマローダに似た少女――何者なんだ。

 俺たちは呆然として少女を見つめていた。すると、少女の方が俺たちに気づいたらしく、駆け寄ってくる。軽い足取り、顔には無邪気な笑顔――

 俺の前まで来ると、少女は淀みのない綺麗な目で言う。


「初めまして小井戸くん。私はメイカ、よろしくね」


 話すときの仕草までマローダとそっくりだ。ただ、蒼竜の狼狽え方を見た後だと、少し迫力を感じてしまう。


「ええと、君は一体何者なの? マローダっていう女の子と似てるけど、何か関係があるのかな」


 俺が問うと、メイカは目を細めて笑った。これだけはマローダと似ていない。楽しげでありながら、どこか投げやりな感じだ。


「ほら、ゲームって必ず説明キャラがいるじゃん? 私はついさっき誕生した二代目の説明キャラだよ。マローダは初代って感じかな。だから、あの子はおねーちゃんで私は妹。そんな感じ」

「ちょっと待て、ゲームとかキャラとかって――やっぱりこの世界はゲームの中なのか?」

「そうだよ。じゃあ、肩書通り、説明させてもらうね。

 ゲームの内容が変わったの。最初――マローダが現役だったころはモンスター育成とバトルがメインだった。でも、小井戸くんも感づいてるように、ボスがいなくなってクリア不可能になっちゃったから、ゲームとして成り立たなくなった。小井戸くんが来るまではボスにたどり着く人すらいなかったから誤魔化せたけど、もう無理だった。だから、世界は自動アップデートを始めて、小井戸くんがこの世界に来て五日目の今日、ようやく改変が完了した。

 今度の目的はシンプルに”世界の秘密を知る”こと。ゲームのジャンルとしてはノベルゲームって感じかな。主人公は小井戸くんね。これから、いくつもの選択肢に直面して、そのたび、道を選ばなきゃいけない。失敗し続ければいつまでもこの世界から抜け出せない。正解し続ければすぐに元の世界に戻れる。簡単でしょ?

 えっと、そんな感じかな。何か質問ある?」


 話のテンポが速すぎて驚く暇もない……。

 ええと? モンスターを育成して戦わせるゲームから、選択肢を選んで話を進めるノベルゲームになった。ゲームの内容が変わったから説明役もマローダからメイカに変わった。そんで、主人公は俺。

 何から質問しよう――大量の情報が一度に入ってきて混乱する頭を整理する。


「マローダや君は人間じゃないの? 誰かに作られたとか……?」


 一番最初に出てきた質問はそれだった。


「ううん、れっきとした人間だよ。この世界がゲームでありながら現実なのと同じ。ただマローダは一部の記憶を無くしてるみたいだね。前世界をクリアした人と一緒にいた時のことを覚えてない。凄いよね、上位次元の意思、世界の管理者が作り出した私たちみたいな存在の情報を好き勝手書き換えちゃったんだから、相当出鱈目な人だよ。どうでもいいけど、五聖獣を宝石化してこの世界から持ち出したのも、その全世界をクリアした人だよ」


 ま、また新しい情報が……要するに、全世界をクリアした人が向こうの世界で地下ダンジョンを作り、モンスターやゴーレム化したマローダを配置したってことかな。これについて今は深く考えないでおこう――もう頭の容量が限界だ。


「ええと、じゃあ次の質問――なんで俺が主人公なの? この世界には他にも飛ばされてきた人――プレイヤーって言えばいいのかな。が、居るんでしょ?」

「隣のおにーさんをよく見て」

「――?」


 さっきから一言も発しないラーク。話を聞くのに夢中で気にしていなかったけど、よく見れば様子がおかしい。直立不動で、瞬きすらしていない。


「彼はこの世界の住人だよ。他の世界からやってきた――っていう設定で生まれたの。イベントを起こしたり、プレイヤーの仲間になったり、そういう役目が与えられてるみたいだね」

「そ、そうなんだ――」

「今現在、このゲームにいるプレイヤーは小井戸くん一人。だからノベルゲームという形式が選ばれたし、必然的に小井戸くんが主人公になったの」


 飲み下せたかと言えば、完全に消化不良だが、納得はできた。そんな感じだ。

 ご都合主義で行き当たりばったりな展開――まったくの不条理。愚痴や文句が山ほどあるけど、そんなこと言ってる場合じゃない。元の世界に帰らなきゃ文句を言うこともできない……。

 たとえ信じられなくても、今はゲームをクリアしなきゃならない。疑問や不満をのみ込んで攻略しなければ。


「とても信じられないけど、今は君の話を信じるよ。元の世界に変えるには、それしか”選択肢”がない――そうでしょ?」


 メイカがにっと笑う。


「懸命だよ小井戸くん。そうだね、もし私の話が本当だったら、信じることが攻略への近道だもんね。うん、見込みがある。今、この瞬間にも小井戸くんのシナリオは刻一刻と変わっているよ。ちゃんと帰れるといいね。

 さて、それじゃ次の選択肢に移ろうか――」


 メイカは何を思ったか、オレの右手に飛びついてきた。久しぶりに会った親戚の子供みたいな態度だ。

 すると、さっきまで固まっていたラークが、


「お、おい、気安く兄貴に触るんじゃねえ」


 久しぶりに声を発した。どうやらさっきまでの話は聞いていなかったようだ。


「いいじゃんか、ケチぃ!」


 メイカが歯を見せて拗ねる。どう見ても無邪気な子供だが、


「ねえ小井戸くん、ラークはほっとこう。それより、どうしよっか――」


 腕に張り付いて俺を上げるその瞳は――


「長老の家に帰る? それとも、もっと進もうか?」


 徒党を組み小鹿を追い詰めるコヨーテのようだ。 ――さあ、どうする? ――このままじゃどうにもならんぜ――と、完全有利な立場から、俺を試すような、怪しい光をはらんでいる。


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