ドローエマグの魔道書 8
その日、俺は夢を見た。
「やあ、久しぶりだね小井戸くん」
「スターウェイ……?」
俺は俺と向かい合っていた。といって、俺が見ている俺は明らかに俺じゃない。柔らかな物腰、儚げな存在感、魔法王スターウェイ=ランキャスターだ。
以前会ったときは、映画館のような場所だったが、今回は何もない場所だ。空間すら存在するのか疑わしい黒の中に自分とスターウェイだけが立っている感じ。
「これは夢なんですか? あなたは俺が作った幻?」
立て続けに二つ問う。スターウェイはすらすらと淀みなく答える。
「これは確かに夢だ。そして、僕は幻であり、現実でもある」
夢だということは分かった。ええと……
「互いに干渉しない空間がいくつもある。しかし、それらの時間軸は同じ――神様は案外怠け者でね、それぞれの空間に管理者を配置するのを嫌って、全て一まとめにして管理しているんだ。だから、この僕は幻という基本属性を保ちつつ、本質的には現実の存在なんだよ」
補足してくれたつもりなんだろうか。ムツカシイこと言ってはぐらかしているのか。まあ、どちらにせよ俺にはまったく分からなかった。
「伝わらないか、歯がゆいね。 ――そうだ、この間覚えた言葉を使ってみよう。どれだけ丁寧に説明しても伝わらない時、君が最初にいた世界ではこう言うんだろ?」
スターウェイは諦めたような、人を馬鹿にしたような顔で、
「ググれ」
古代魔法都市を収めていた世界最強の魔法使いが、しょうもないネット用語を……。
*
「大体君が考えていた通りさ。ドローエマグは”魔導書”に分類されているが、実際はただの”ゲーム筐体”だ。仮想世界ではなく現実の異世界を使っていて、プレイヤーは生身の本体。という違いはあるがね」
「それって、もはやゲームじゃない気が……」
「形式が同じという話さ。それに、モンスターを育ててボスを倒しゲームをクリアするというのもRPGゲームというやつと同じ流れだ」
「まあ、たしかに」
話が進まないので”RPGゲーム”は流した。
「それじゃ、やっぱりクリア不可な状況なんですか? ボスを倒さなきゃいけないのに、ボスがいない――手詰まりですよ」
「いや、そうでもない。ドローエマグの魔導書には”こう”書いてなかったか――世界の真実を解き明かせ」
言われて思い出す。
たしか「五体の聖なる獣を打倒し」、「世界の真実を解き明かせ」とページを跨いで書いてあった。
「ボスを倒すのは、世界の真実を知るための工程に過ぎない――と解釈することができる」
「そうか……聖なる獣を倒さなくても、世界の真実を見つければ帰れるんですね!」
「――かもしれない」
かもって……ものすごく説得力があるけど、案外テキトーだなあ。
「でも、そうですね――何も分からないよりはいい。調べる方向性を変えてみます」
「ああ、そうするといい。小井戸くんなら、きっと帰れるさ」
――そんな根拠のない励ましの言葉が、夢の終わりだった。
*
翌日、再び三人で聞き込み。聖獣の居場所ではなく、世界の秘密を知っている人は居ないか、と聞いて回った。すると、いとも簡単に情報が出てくる。
昼頃、昨日と同じ酒場に集合。集めた情報を出し合う。
ラークとマローダも俺と同じような話を聞いてきたようだ。
「この町の長老は何でも知っている」
「長老なら、何を聞いても答えてくれる」
フォエニの町で物知りと言えば長老――というのが共通意思のようだ。
ふと、不思議に思う。
それほど信頼されている人物がいるのに、何故昨日の時点で名前が挙がらなかったのか。
「聖獣の居場所を知りませんか?」
「私は知らないけど、長老なら知っているかもしれません」
という流れになっても不思議じゃない。むしろ、その方が自然じゃないか。だというのに、俺たち三人が長老の存在を知ったのは今日になってから。不可解だ。
昨日と今日で何が違うのかと言えば、質問の内容だ。
――特定のキーワードを使った途端、話が進んだ。
いよいよゲームっぽくなってきた。正しい質問をすれば、意味のある回答をくれる。フォエニの人々はNPCということになる。まったくそうは見えない、どこからどう見ても普通の人だ。しかし、この世界自体非常識なところだらけであり、一概に否定もできない。世界の秘密とやらを暴けば、はっきりするのだろうか。まあ、今は深く考えないでおこう。




