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第二幕 ② ~老いゆく光秀~

坂本城の奥御殿、石牢のような一室に籠もった光秀は、暗がりの中で胸元を掻き毟った。震える手が懐へと差し入れられ、指先に触れたのは——あの銀の瓶である。


「……これさえ……これさえなければ……ッ!」


光秀は瓶を、己を呪い殺す蛇の卵のように凝視した。安土の広間で髻を掴まれ、畳に顔を叩きつけられたあの瞬間。視界の端に映っていた森蘭丸の、澄み切った、それゆえに冷酷な眼差しが脳裏を離れない。


「蘭丸……あの、増長した小倅めが……ッ!」


喉から呪詛が漏れる。もとより蘭丸とは反りが合わなかった。理を説く光秀に対し、蘭丸は信長を唯一の正義として信奉し、露骨な軽蔑で見下してきた。だが安土の屈辱の中で鉄扇を手にしたあの眼差しは、軽蔑ではなかった——「もはや貴殿は不要である」という、静かな確信だった。それが何よりも光秀の誇りを引き裂いた。


光秀は部屋の隅の厨子の奥へ、瓶を呪いごと突き放すように押し込んだ。


「見たくもない……。二度と、私の前に現れるなッ!」


だが隠してもなお、掌にはあの冷たさがへばりついて離れない。手の甲には幻の銀の鱗がびっしりと浮き上がり、皮膚を突き破って芽吹いてくる感触に、光秀は悲鳴を上げた。


「黙れ……黙れッ! わしはまだ、わしは……!」


耳を血が滲むほど強く塞ぐ。だが子猫の鳴き声はやまない。それは外からではなく、彼自身の内側から溢れ出していた。


厨子の奥で、銀の瓶はただ静かに佇んでいる。


光秀の狂気など意に介さず、次の主を待つように——冷たく、静かに。



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