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プロローグ
十一月の日光は、静かに燃えていた。
錦を纏った山々の中に、陽明門はただ白く、ただ眩く、四百年前と変わらぬ姿で立っている。観光客の声がその足元を流れては消え、流れては消えていく。誰も足を止めない場所で、随身の像は今日もひっそりと座していた。
その装束に刻まれた紋を、正確に読み取れる者がどれほどいるだろうか。
徳川の三つ葉葵ではない。織田の木瓜でも、豊臣の桐でもない。桔梗――本能寺に火を放ち、主君を裏切った男の紋に、あまりにも似ていた。
この聖域を設計した者の名は、南光坊天海。
怪僧と謳われ、百歳を超えて生きたとも言われるその人物は、陽明門が完成した後も、ただ沈黙を守り続けた。何を知り、何を隠したのか。歴史はその口を永遠に封じたまま、問いだけを残している。
家康を「東照大権現」として神格化し、徳川の世を盤石にした天海が、なぜこの紋をここに刻んだのか。
それはおそらく、誰にも解けぬ問いとして、永遠にここに在り続けるために。
四百年の時を経てもなお、青い花びらは日光の冷気の中で静かに開いている――歴史の闇を、じっと見つめながら。




