醜い嫉妬はどうか隠しましょう
「蒼くん?」
困惑したような柚花の顔で、冷水をぶっかけられたみたいに俺は正気に戻った。
衝動的に掴んでしまった柚花の腕をぱっと離して、俺はヨロヨロと数歩後ろに下がった。
「………あ」
谷も怪訝そうな目つきで、突然割って入ってきた俺を眺めていた。
清水も俺の焦った表情を見て、びっくりしたような顔をした。
俺は表情を整えるのに、数秒を要した。
いつも通り、上手く笑おうとした。
「ごめん、何でもない……」
邪魔者は、俺だ。
「ほんとにごめん」
何をやってるんだろうか、俺。
俺はいたたまれなくなって、逃げるようにその場を離れた。
幸いだったのは、ちょうど担任が教室に入ってきて朝礼が始まったこと。
不幸だったのは、朝礼だから同じ教室という空間内に居なければいけなかったこと。
「珍しかったね」
一部始終を見てたらしい宙は、隣にやってきた俺に話しかけた。机や椅子は文化祭展示のために撤去されていて、クラスメイトたちは床に直接座っている。そんな中でもできるだけ隅で、展示のオブジェクトに隠れながら、俺はじっと息を潜めた。
ああ……と体操座りで頭を項垂れて、腕に額を押し付けながら、俺は床を見つめた。
自己嫌悪の嵐が襲いかかってくる。
駿は生徒会の仕事で抜けているし、祐介もサッカー部が頼まれた文化祭の用具設営で教室に居ない。
残った友人は宙のみ。
しかし、いかんせん、人選が悪いと思った。宙が俺を揶揄う気満々なのは、もう顔を見たら分かった。
宙は、ニッと目を細めた。
やめてくれ……
「裏では散々オレとか駿や祐介は見てたけどさあ、表立って…ていうか水無瀬さんの前で嫉妬全開な蒼初めて見た〜。え、マジで初めてだよね?」
「お願いだから、忘れてくれ……!」
「やだよ、せっかく記念すべき蒼の完璧な彼氏像破りの日になったのに」
「あんなの俺じゃない…!いくら何でも嫉妬が醜すぎる……てか元カレのくせに独占欲全開でなんなんだよ俺、絶対柚花に嫌われ……ああぁぁ!!」
頭を抱えて、悶絶した。担任が話している最中だったので、軽く身を捩って上履きを静かにバタつかせる程度だったが、誰も見てなかったら自分にビンタくらいかましたと思う。
「……んふ、…ふ、ふははっ」
「笑うな…」
「いやオレね?蒼って結構見てて面白い人間だと思うよ。スカしてるように見えて感情豊かだから好き」
「うるさい…!黙れぁ!」
だから嫌なんだよお前に俺の恋愛沙汰見られるの!
俺の失敗を笑って楽しいかほらゴラぁ!?
「あんなとこ柚花に見せるつもりじゃなかったのに…」
「駄目なの?」
「駄目に決まってるだろ!俺は自分が重いって知ってるし、柚花の負担になりたくないの。付き合ってる時も余裕のある彼氏でいたかったから、嫉妬してるところとか見せたことないし。だからあんなんアウトなんだよ……うあァ……」
「…ほんと、こだわるねぇ」
呆れたような、諭すような、どちらともいえるトーンで妙に優しく相槌を打たれる。
「気持ちは分からないでもないよ。実際はどうであれ、女にカッコつけたくなっちゃうんだよ男って生き物はさ」
「それ。ほんとに」
「でも蒼は蒼でなかなかぶっ飛んでるからさァ……んん……ガチガチに理想像を固めすぎて彼女からしたら隙がなくて寂しいんだよ。それを今回はちょっとぶっ壊せてみれたんだから、まあいいじゃない」
「良くない」
俺は苦虫を噛み潰したような顔で、即答した。
付き合ってた時ならまだいいと思う。でも今、付き合ってないんだよ。その状態でさ、他の男に嫉妬全開でそれを露わにしちゃったの、やばいと思うんだよ……
気持ち悪いって言われても仕方がない。
てか、自分が耐えられねぇ…。
「分かった。蒼って頑固なんだよなぁ。オレは散々アドバイスしてんのにさ?…はぁ…どうすっかな、この問題児は……」
宙にやれやれみたいな顔をされたので、俺はヘソを曲げた。
「なんだよ、能力が足りないのに理想が高いって言いたいんだろ。知ってるよ」
「違うよ、能力が高くてさらに理想が高すぎって言ってんの」
「つまり?」
「蒼のほうがオレよりうんと頭良いんだから理解してよ」
「勉強してないのに毎回平均点超えてくる俺より地頭のいいヤツがなにを」
俺なんか毎日コツコツ頑張ってやっと上位だと言うのに。
「私怨は一旦おいておこう」
「認めた!コイツ!」
「自分でも要領はいいなって思ってた」
「うわっムカつく!」
「でも『本気を出せばもっとできるはず』って予防線張って、できなかった時に言い訳できるように保険かけてるオレより努力できる蒼の方がずっとカッコいいと思うよ?」
「えっ、な、何だよ…急に」
そそそ、そんな…急に褒めてきたって、何もないんだかんな…!
「まあ、蒼は若干要領悪いと思う時もあるけどね」
「うぉオイ!?上げて落とすな!」
「妥協しないから、いちいち教科書の長ったらしい本文をノートに模写したりするじゃん。ああいうとこ」
「俺はああしないと覚えられないですよ頭が悪くってね!」
馬鹿だと思ってる?でも意外と役に立つんだよ、脳に負荷がかかるから。
「水無瀬さんと付き合ってからもそういう妥協しない愚直さが出てきちゃってたからさ……」
「駄目だってのか!」
「それはオレじゃなくて水無瀬さんに答え合わせしてもらいな」
どうせオレが言ってもきかないんだから〜、と投げやりに宙は言い放った。
まるで俺が手のかかる子供みたいだ。……実際、間違ってなくはないんだろうが。
「ほら、今日の午前中は水無瀬さんと文化祭回る約束してるんでしょ。気になることは全部聞けばいいじゃない」
相変わらず軽い調子で親身になってくれてるとも思えない笑顔だったが、コイツがこんな調子だからそう落ち込まずに済んでいると思うと、そう悪い気分でもなかった。
「頑張れ」
それに、ごくたまに、こうやって味方になってくれるのだから、コイツも憎めない。
「……うん」
担任による文化祭の注意事項の説明が終わり、いよいよその時は始まろうとしていた。
更新したらブックマークの数が減っちゃいましてね。
アレ……。
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モチベがないとね。筆はね、進まないね。




