29-3.進化したポーション(3)
「ネイト様の属性は、風なの?」
シェリルが尋ねると、ネイトは一瞬間を置いて、なるほどといったように何度も頷く。
「あぁそういえば、俺の属性はまだ言っていなかったな。俺は……シェリルと同じだよ」
「私と?」
シェリルは、明かしている属性は「土」だが、それ以外に火、水、風の属性も持つ全属性持ちだ。同じということは、ネイトもそういうことになる。
「……知らなかったわ」
「そりゃそうだ。このことは、帝国の身内しか知らない。コンラッドでさえ知らないからな。コンラッドには、彼と同じ属性だと言ってある」
「そうなのね」
コンラッドの属性は、全ては明かされてはいないが、王族である限り「火」は確実だろう。そして、複数の属性を持っていることも。きっと、それに合わせたのだ。
「ネイト殿下、ありがとうございます」
「いや、これくらいなんということもない」
濡れていたドリーの服は、もうすっかり元どおりになっている。
ネイトはなんということもないと言うが、自分の持っている属性を上手く調整して使いこなすことは、それほど簡単なことではない。シェリルも風は持っているが、これほど上手くは使えない。
「きゅきゅきゅ~」
「はい、もう元どおりなので平気ですよ。今から片付けますので、危ないですから、きゅい様はそのままシェリル様と一緒にいてくださいね」
「きゅいっ」
「それも問題ない」
ネイトは、再び何かを呟きながら軽く手をあげた。すると、床に落ちていた割れた瓶の欠片が、ネイトの作り出した風に吸い込まれ、作業台に積み重なっていく。それだけではなく、濡れた床も台の上も綺麗に乾いていた。
「わぁ! あっという間に片付いたわ!」
「すごい……」
「きゅきゅ~~っ!」
全員が目を見張り、驚いている。
「これくらいでそんな反応をされると、気恥ずかしいな」
珍しく少々照れているネイトに、シェリルは首を横に振りながら叫んだ。
「そんなことないわ! これほど繊細に魔力を操れるなんて、本当にすごい!」
「ネイト殿下、ありがとうございました」
「きゅいっ、きゅっ、きゅきゅきゅ~っ!」
皆の眼差しに、ネイトは面映ゆい気持ちになる。どう反応していいのかわからないが、悪くない。
一方で、そんなネイトを見つめるシェリルの胸は、トクントクンと高鳴っていた。
いつも余裕の表情でいる彼が、僅かに頬を染めている。しかも、嬉しそうに微笑んでいる。
シェリルは、ネイトの心の隅に残る彼の幼さが少し垣間見えたような気がして、愛おしいという気持ちが増していくのを感じる。
そんな時、バチリと目が合って、シェリルは思わず顔を俯けてしまった。顔がどんどんと熱くなる。
ネイトはそんなシェリルに微笑み、頭のてっぺんあたりに軽く口づけた。そしてすぐ、照れを隠すように言う。
「ポーション作りが一段落したら、応接に来てほしい。セドリック殿とローザ様も交え、話したいことがあるんだ」
ネイトがここへ来たのは、これを言うためだったのだろう。
シェリルは少し考え、言った。
「わかったわ。ポーション作りは急ぎじゃないから、明日に回しても大丈夫。今から行くわ」
「わかった。それじゃ、行こう」
シェリルがきゅいとともにドリーを振り返ると、彼女はここを完全に片してから向かうと言って、一つの場所に積み上がった割れた瓶を片付け始める。
「ありがとう、ドリー。よろしくね」
「はい。お任せください」
キビキビと動くドリーに後を任せ、シェリルときゅいはネイトとともに邸の応接へと向かった。




