27.ターナー領の未来
「シェリル」
ネイトがシェリルの腕から落ちそうになっているきゅいを抱え、自分の肩に乗せる。きゅいは、ホッとしように小さく鳴いた。
「シェリル」
もう一度呼ばれ、シェリルは我に返る。
不安げな表情を浮かべるシェリルに、ネイトは眉を下げ、少し困ったように微笑んだ。
「悪い。突然だったな」
「いえ、でも……あの、それって……」
ネイトはこのことについて、シェリルの両親に話をしているのだろうか。
「自分が聖女である、それは認めるな?」
そう問われ、シェリルは渋々ながらも頷く。
ここで否定しても仕方がないし、自分の魔力量や属性、ネイトから聞いた話、全てを総合すると、そういう結果に辿り着いてしまうのだ。
「そして、聖女についての俺の考えもすでに話したよな。その上で、さっき俺の言ったことを考えてみてくれないか」
「ちょ、ちょっと待って、ネイト様!」
慌てているのはシェリルだけで、ネイトは落ち着き払っている。今はそれが、少々憎らしく思えた。
(ネイト様の言っていることが理解できないわけじゃないわ。でも、いきなり独立……だなんて)
正直、考えたこともなかった。
ターナー領は、クラーク王国から冷遇されている。
広大な領地を治めているにもかかわらず爵位は男爵だし、聖女の護りから外されているので魔物の対応も自分たちで行っている、痩せた土地で育つ作物が少ないせいで貧乏、なのに、国はターナー領に一切手を差し伸べてはくれない。
いや、むしろ虐げている。
だって、他の領と同じ税が一律にかけられているのだから。そのせいで、領をよりよく、住みやすい場所にしたいと願っても、遠く儚い夢である。
国に対して、大きな不満を持っている。──聖女になれる力を持ちながら、それをひた隠すくらいには。
それでも、クラーク王国から独立しようなんて、考えつきもしなかったのだ。
「独立、という話は、お父様とお母様は知っているの? それに、すべきだって言っても、独立なんてそう簡単にできるものじゃないわ。仮にできたとしても……え? そうなったら、お父様が一国の王に!? 嘘!?」
王冠を被るセドリックがポンと頭に浮かび、すぐさまブルブルと頭を振ってそれを掻き消す。
仮に、ターナー領が国になったとしても、貧乏なことに変わりはない。王冠といえど、宝石の散りばめられた豪奢なものではなく、せいぜいプリベロの花冠……臭いのせいで、きっと誰も近づけない。
「青くなったかと思えば、急に笑い出して。いったい何を想像しているんだか」
シェリルの顔を見て、ネイトが呆れている。
大真面目な話の最中だというのにおかしな想像をしてしまったせいで、ネイトの前で百面相を披露してしまった。シェリルはそれを誤魔化すように、コホンと咳払いをする。
「ごめんなさい。続けてもらえる?」
ネイトは小さく笑い、後を続けた。
「この話は、セドリック殿にはしてある。おそらく、ローザ様にも話しているだろう。シェリルには、俺から直接話をしたいと言った。セドリック殿は了承してくれたよ」
「そう……なの」
驚いた。すでにセドリックが知っていたとは。そんなことは、おくびにも出さなかったのに。
シェリルにとっては優しくて、時にお茶目な父親だが、そこはやはり領主であり男爵、内向きの顔とは違うのだろう。
「お父様は、なんて?」
ターナー領の領主は、セドリックだ。父の決めたことに、皆は従う。もちろん、娘であるシェリルも。
ネイトはシェリルを真っ直ぐに見つめ、言った。
「聖女であるシェリルに委ねたい、と」
「えええええっ!?」
あまりのことに、シェリルは思わずその場にへたり込んでしまった。
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