45-4.後始末(4)
「私は関係ない!」
「アシュトン侯爵に脅されていたんだ!」
「無理やり従わされていたのだ! どうか恩赦を!」
有力貴族たちが続々と捕らえられ、部屋から出て行く。その中には宰相まで混じっていた。
「宰相まで罪に加担していたとは……」
王が額を押さえ、首を横に振る。
「これまでアシュトン侯爵家、それに連なる家の者が、政治の中枢を牛耳っておりました。侯爵家は力を持ちすぎたのです。……我々は一刻も早く、腐敗した政治を正常な状態に戻さなくてはなりません」
「そうだな……」
「コンラッド、私はアネッタさんを送ります」
エリアナが、アネッタの肩を抱きながらそう申し出た。コンラッドは頷き、側近に声をかける。
「頼む」
「承知いたしました」
側近がエリアナとアネッタを連れて、部屋を出て行く。
そして、扉が閉まったその時だった。
「父上! 私もアシュトン侯爵の悪事を暴こうとしていたのです!」
ヘンリーが必死にそう訴える。
ヘンリーはこの場に残されていた。大神官もである。大神官は項垂れたまま、石のように動かない。
王はヘンリーを一瞥するが、すぐに目を伏せた。
「父上!」
コンラッドがヘンリーと王の間に立ち塞がり、静かな口調で言う。
「ヘンリー、お前のやったことは許されない。アシュトン侯爵の件は関係なくな」
ヘンリーはコンラッドを睨みつけ、責め立てるように叫んだ。
「聖獣は聖女の元にいるべきだ! 私は、大神官の望みを叶えようとしたまで! そもそも、最初に聖獣をターナー領へ連れ去った彼らが全て悪いのだ!」
そうだろう? と同意を求める視線を大神官に遣るが、彼は俯いたまま顔を上げようとしない。
「大神官! お前も言っていただろう! 今更関係のない振りか!」
「静かにしろ、ヘンリー。大神官にも罪はある。だが、理由はどうあれ、ターナー領を襲ったお前の罪は重い。王族であっても、いや、王族だからこそ許されないのだ」
あくまで淡々と語るコンラッドは、他人の目からすると冷酷に映るだろう。だが、彼も苦悩していた。
なんだかんだ言いつつも、ヘンリーは家族だ。実の弟であり、幼い頃はそれなりに仲も良かった。そんな彼を断罪しなければならないのだから、内心では身を切られるような思いだった。
「ターナー領からも訴えが出ている。非があるのはこちらだ。厳しく対処する必要がある」
「父上! 何とかおっしゃってください!」
ヘンリーは、コンラッドでは埒が明かないと、王に縋るような視線を向ける。しかし、王は何も応えようとしなかった。
彼もまた、裁かれる身なのだ。王は、何が何でもヘンリーを止めなければならなかった。国のトップであり、為政者として。
「ヘンリー、お前は大きな罪を犯したが、私もまた同様だ。再びコンラッドを王太子とし、妃を娶った時点で私は王位を譲る。これはもう決定事項だ」
「!」
ヘンリーは驚愕し、その場にヨロヨロと崩れ落ちた。
王である父が、王位を退く。そして、兄のコンラッドが王となる。自らは廃嫡となり──この先、いったいどうなるのだろう?
「ああああああああーーーーっ!!」
ヘンリーは狂ったように泣き叫ぶ。それに呼応するように、大神官も両手で顔を覆った。
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