42-4.悪夢の一夜(4)
「ネイト様が倒してくれたの?」
「あぁ。俺の方はあらかたカタがついてな。セドリック殿が神殿の方へ向かってくれと言うから来てみれば、草むらからシェリルたちを狙っている者たちがいた」
ネイトが早々に敵を見つけてくれてよかった。そうでなければ、この辺りの土地はぐちゃぐちゃになっていただろう。
……今も大概なのだが。
しかし、被害は最小限に食い止められた。
「ギリギリまで殺気も感じなかったし、移動しながら矢を射るなんて無茶なことしてくるしで、手こずっていたの。土を泥にしてくれたのはネイト様よね? 助かったわ」
「あぁ。そっちの方が威力があるだろうと思ってな。……それにしても、土を波のように動かすなんて、とんでもないことをする」
「必死だったのよ」
土だけでも彼らを倒せただろう。だが、土よりも泥の方が攻撃力は高い。泥に足を取られたら、動けなくなってしまう。そこへネイトの攻撃だ。ひとたまりもなかっただろう。
「弓矢使いは暗殺者だ。各国を渡り歩き、報酬次第で何でも請け負うプロだな。セドリック殿が対峙していたようだが、姿が見えなくなったと焦っていた」
その暗殺者は、対象を神殿にいる女子どもに変更したのだろうか。
神殿には、領主の妻と娘がいる。彼はシェリルとローザを人質に取り、セドリックを脅すつもりだったのか。
妻と娘を殺しても、ターナー領は手に入らない。とすると、それしか考えられないのだが……。どこかしっくりこない。
「シェリル?」
「ねぇ、他の暗殺者たちはどうなったの?」
「俺やセドリック殿で倒したが……どうした? 何か気になることがあるのか?」
他の暗殺者は、セドリックやネイトと戦っていた。それなのに、弓矢使いだけはこちらへ来た。彼だけ、何故?
シェリルは、ネイトに自分の考えを話す。
「寄せ集めの集団で、統制は取れていなかった。率いているのはヘンリーだが、彼に戦いの指揮は無理だ。皆は好き勝手に動いていたと思うが」
「ヘンリー殿下は?」
「しょっぱなに抑えた。驚くほど呆気なかったぞ」
聞けば、ヘンリーは大勢に守られていたそうだが、護衛たちは皆たいしたことはなかった。手練れの暗殺者でもいれば話は別だったのだが、彼らはヘンリーの護衛には加わっていなかったらしい。
「暗殺者は護衛などしないだろうと、あの時は思ったが……」
ネイトは表情を引き締め、考え込む。彼も、なんとなく不自然なものを感じたのだろう。
呆気ない、あまりにも呆気ないのだ。
──これで、本当に終わったのだろうか?
「ぎゅうううう~~~~~~!」
二人が考え込んでいると、いままで聞いたことがないような鳴き声がした。
きゅいだ。
「きゅい!?」
「シェリル、伏せろ!!」
その声に、シェリルは咄嗟に地に伏せる。その次に聞こえたのは、何かが刺さる音、そして、小さな呻き、そして──
「きゅうううううう~~~~~~~~っ!!」
けたたましい悲鳴。
身体を起こし、シェリルは信じられない光景を目にする。
「あ……あ……」
「シェリル、きゅいちゃ……」
きゅいの声に反応し、こちらにやって来たローザは、あまりのことに絶句した。
「ネイト様、ネイト様! 目を開けて! ネイト様ーーーーー!」
ネイトが倒れている。その背には、鋭い矢が突き刺さっていた。
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