魔王男装する
僕と女性陣5人が温泉で戯れていると――、黒い軍服を着た黒髪で赤い瞳の少女が唐突に現れた。
この温泉の入り口から入ってきたわけではない。いきなりそこに出現したのだ。
「こんな所に人がいるはず、ありませんねぇ。何者ですか?」
温泉の隅で休んでいたアナルが低い声で言った。鋭い目付き、アナルは薄っすら闘気を纏い戦闘態勢に入っている。
それもその筈だ。この突然現れた女、レベル250を超えている。
僕も注意深く女に視線を向ける。
よく見ると男か?帽子の中に髪をしまっているようで、片方の耳際の髪は鎖骨の下まで伸ばしているが、それ以外、髪型はわからない。
体形は女性のように見えるが……。
「わた……、ボ、ボクはク、……クリトだ。魔神アエロリット様の眷属である」
ボク?どうやら男のようだ。
アエロリット、……ノエルに〈加護の儀〉を施した少女だな。
ノエルの横に座っていた僕は少年を睨みながら立ち上がった。
「用件を聞こう」
真剣な顔をしていた少年が、立ち上がった僕の下半身を見ると頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに手で顔を覆う。
「ま、先ずは、ふ、服を着てくれないか?頼む。 は、話しはそれからだ!」
【魔神アエロリット視点】時間を巻き戻して
ペルシヤ王国、首都バビロニア。そこにある世界最古のダンジョン〈バビロンの塔〉の最上階にて。
無数の蛇が絡み付き、黒いゴスロリドレスを着た紫色の長い髪の少女は丸い水晶を覗きながら、いつも通りクツクツと笑う。
その目は閉じられているが彼女には水晶に映るものが見えている。
「主め、女を5人も侍らせおって、隅に置けぬわ。クツクツ。 おお、なんと!女の胸で顔を挟みおった。クツクツ、面白いのう」
コン コン
アエロリットが夢中になって水晶を覗いていると扉をノックする音が鳴った。
「入れ」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは青いドレスを着た黒髪ロングで赤い瞳の女。――彼女は【SR魔王】の加護を持つ者である。
「何用じゃ?」
「はっ!〈渇きの砦〉21層の常闇は消えたですが、オリハルコンゴーレムの魔力反応が増大しておりまして――、アエロリット様のアクティブスキル〈魔眼―千里眼〉で覗いていただけないでしょうか?」
「ふむ。妾のMPは底をついておるが一瞬なら見えよう。どれ、覗いてみるかのう」
「お願いします」
アエロリットは小さく頷くと。片目をゆっくりと開けた。その瞳の中では青や緑に光るオーロラのような帯が風で揺れるカーテンの如く揺らめいている。
「アクティブスキル〈魔眼―千里眼〉」
瞳の中の光が消え、瞳は漆黒の闇になる。
「なんじゃ、これは……、む!此奴は……」
そこまで言ってアエロリットは目を閉じた。
「ど、どうでしたか?」
「不味いのう。サラマンダーが居ったわ」
「ではその蛇が……ッ?」
「うむ、龍神――、龍ヶ崎 流花の仕業じゃな。 おそらく妾の魔力が転送されておる」
サラマンダーとはアエロリットに絡み付いている蛇のことである。龍神の眷属で魔力を吸い別の場所へ転送することができる。アエロリットはこのサラマンダーせいで圧倒的な魔力を存分に使うことができない。
また、実態のない精霊のような存在で物理的に倒すこともできない。
「奴め、妾が龍脈を弄って常闇を消したことに感付きおったか……」
モンスターが発生する常闇は龍脈の上にある。【LR魔神】は世界で唯一、龍脈を操作できるスキルを持っている。
「ど、どうしましょう? こんな巨大な魔力を持ったモンスターがスクワードに放たれれば街は壊滅、多くの死者が出ます」
「如何にも、それは望むものではい。妾はMP切れ故、動けぬ。空間転移で飛んでゼツと共にオリハルコンゴーレムを止めてくれぬか?」
「わ、わかりました」
その後、魔王はアエロリットから細かな指示を受けると部屋を後にした。
◇
【魔王視点】
バビロニアの大統領官邸に入ると軍部の者に軍服を用意させた。
私はドレスしか持っていないから、戦闘になるなら軍服を着て――、ついでに男装しておいた方がいいだろう。
あのゼツという男、女と見れば見境がないかもしれん。
軍服に着替え終えると、
「アクティブスキル〈空間転移〉」
私はスクワードのダンジョン〈渇きの砦〉へ飛んだ。




