飛剣センズリ
【勇者パーティー視点】
地面は割れ崩れ落ちるように数メートル地下へ陥没した。
勇者パーティーがいる場所は地下が空洞になっていて、そこに潜んでいたロックワームの群れが仲間を殺され怒り狂い、地面を割って地上へ出てきたのだ。
立っていることもままならない――――。
メンバーは皆、驚愕し、戦慄し、絶望していた。
そのようななか、ただ1人だけ状況を冷静に把握、判断している者がいた。
この勇者パーティーの隊長を務める女、アナル・ファックである。
彼女は勇者パーティー結成時、高いレベルと豊富な戦闘経験から隊長に任命され戦闘の指揮を任されていた。
【アナル視点】
これはもう全滅は避けられませんねぇ。あたくしは自力で生き残れるとして……。
アナルは戦慄するパンティーの横顔を静かに見詰める。
坊ちゃんは奴隷という過酷な状況を乗り越え
生き残った。
顔付きも逞しくなっていましたねぇ。クスクス。
今のリンダナ領に坊ちゃんは必要です。故にパンティー様は生かしておかなければなりませんねぇ。いずれ坊ちゃんの伴侶になれば、リンダナ領はより良くなるでしょう。
アナルはファック家の養子になった身だが、実の親や兄弟、生家、生まれ育った農村を大切に思っている。
彼女の行動原理は全てそこにある。
「前衛部隊、立て直しをッ! 動ける者は姫様を囲めッ!」
アナルの檄で貴公子団が集まりスクラムを組んだ。
さて、彼らのレベルは30から40。ロックワームを足止めすることはできませんが……。
戦士たちの後ろでパンティーも大剣を抜き構える。
「わ、私も! 私も戦いますッ!」
逃げるよう進言しても、パンティー様の性格を考えると聞きいえれもらえないでしょうねぇ。
ならばあたくしは、この方が致死ダメージを負わないよう、注意深く行動する。
アナルも剣を抜いた。
それは青い刃。薄い片刃の刀身には翼の模様が刻まれている。
アダマンタイトで作られたリンダナ侯爵家最高の剣
――――飛剣センズリ!!
「各位戦闘態勢へッ!」
アナルが叫ぶ。
「アクティブスキル〈インスパイアLv3〉ッ!」
「アクティブスキル〈聖護Lv4〉ッ!」
「アクティブスキル〈加速Lv3〉ッ!」
各支援職がパーティー全体にバフを盛り、攻撃力、防御力、速度、命中、闘争心が上昇し、皆が薄っすらと白い光に包まれた。
「アクティブスキル〈砕甲Lv3〉ッ!」
「アクティブスキル〈鈍重Lv3〉ッ!」
「アクティブスキル〈混乱Lv3〉ッ!」
次に轟音を立てて向かってくるロックワームにデバフを付与。防御力、速度、知性を低下させる。
「前衛ッ! 止めろッ!」
「「「アクティブスキル〈防壁Lv4〉ッ!」」」
盾職【R重騎士】3人が巨大な盾で、それぞれ3体のロックワームを足止めする。
「放てッッ!!」
「アクティブスキル〈サンダーボールLv3〉ッ!」
「アクティブスキル〈アイスエッジLv4〉ッ!」
「アクティブスキル〈ウォーターカッターLv4〉ッ!」
魔法職【R賢者】が攻撃魔法を撃つ。
ゴレーム系のモンスターは水、氷、雷系統の魔法に弱い。
魔法攻撃でロックワームにダメージが入った。
が、次の瞬間――、体を傷つけられたロックワームは環形動物のように胴体を上下左右に大きく激しく振って、周りの岩を破壊、弾き飛ばしながら大暴れする。
「ぎゃぁああああああッ!」
「無理だぁあああああッ!」
「ぐはっ!」
盾職は弾き飛ばされ、支援職は飛んできた岩の下敷きなった。
アナルは静かにパンティーへ視線を向ける。
こうなるとアナルはわかっていた。ロックワームには適わないのだから自分だけ逃げろとパンティーへ暗に伝えたかったのだ。
しかしパンティーは――――。
「皆が死んじゃう……、逃げちゃダメ……、こんなの、やるしかないじゃない……ッ!
アクティブスキル〈聖光Lv7〉ッッッ!!!」
パンティーの体が黄金の光を放つ。
〈聖光〉は自身のステータスを上昇させる勇者の奥義。 Lv1増えるごとにステータスは5パーセント上昇。〈聖光Lv7〉で35パーセント上昇したパンティーはレベル100と同等のステータスを得る。
「はぁあああああああッ!!」――ザンッ!
パンティーの大剣で暴れるロックワームが半分に分断された。
そんなパンティーを見てアナルは「クスクス」と笑う。
やれやれ、アターシャ様は「私だけは助からなきゃ」とかブツブツ独り言を言っているというのに。
しょうがありませんねぇ。パンティー様のMPが切れるまであたくしも付き合いますか。




