金銀の山
アナルは片手を上げる。
「アレプニヒト来なさいッ!」
「はッ!」
後方で僕達を眺めていた金髪の男がアナルの横に馳せ参じる。
「そこのお嬢さん、鑑定しなさい」
「ははッ! アクティブスキル〈ステータス鑑定〉」
男の右目の前に小さな魔方陣が発現する。
この男、【R鑑定士】だ。 自分と同等かそれより低レベルの相手であればステータスを覗くことができる加護。
「アナル様、この娘、私よりもレベルが高いようです」
「んん?」
アナルは訝し気にノエルを睨んだ。
「ありえませんねぇ。 アレプニヒト、お前レベル32でしたよねぇ?」
「はッ!如何にも。故にこの娘はレベルは33以上です」
「ありえない。 この若さで、そこまで高レベルになりますかねぇ? 可能性があるとすればレアリティ【HR】以上の加護持ち。 ふふ〜ん。 これは良い人材を見付けました。クスクス。 アレプニヒト、耳を」
男が耳を近づけると、アナルはコソコソと耳打ちする。
「はッ!かしこまりました」
それからクスクスと邪悪な笑みを浮かべ、隣に座る僕の肩をポンポンと叩いた。
「ノエルさぁ〜ん、貴女と坊っちゃんの関係は何となく察しますが、コイツを捨てて、あたくし達のパーティーに加わりませんかぁ?」
ノエルはアナルの顔を睨み付けるが、そんなのはお構い無しにアナルの話しは続く。
「今、高位の加護を持つ人材を集めているのですよぉ。 給金はコイツの数倍払いますぅ。クスクス それに……」
アナルがアレプニヒトに視線を流すと、彼は頷きノエルの隣に座った。
「彼はあたくしがお使いしている御方が趣味で集められた貴公子団の団員ですぅ。 貴公子団は全員が貴族の出身、美男子で【R】以上の加護を持っているのですよぉ。 彼、アレプニヒトも子爵家の子息、そしてご覧の通り見目麗しい容姿。 そんな彼を貴女に差し上げますぅ。クスクス」
テーブルに乗せてあったノエルの手に男は自分の両手を重ねる。 ノエルは咄嗟に手を引いてかわそうとするが、男に掴まれ振りほどくことができない。
「ちょっと、何をするんですか!」
「驚かせてしまい申し訳ありません。 ご紹介にあずりましたアレプニヒトです。 彼とは別れていただき、以後ノエル様の身の回りの世話は私がさせてもらいます」
「私はゼツ君一筋です! 彼と離れるなんて考えられません!」
「問題ありませんよ。 他の男なんて必ず忘れさせますから」
庶民は貴族や騎士の頼みを無下にすることはできない。
父上が権力を傘に町娘に手を出すところを僕は何度も見てきた。明らかに嫌そうにしているノエルも怒鳴り声を上げて拒否れないのは身分を気にしているからだと思う。
ただ、このアレプニヒトはアナルに操られているだけだから、アナルをなんとかしなければならない。
くそっ、どうする。
ビッグベニス王国を敵に回す可能性があるが、いっそのこと暴れて暴力でアナルを従わせるか……。
その時――。
「あの、書き終わったら早く持ってきてくれません?こっちも忙しいんで。 四人で仲良しですか?陽キャですか?あー、うざいうざい。たく、これだから冒険者は」
さっき受付で声を掛けたギルドの受付嬢が話し掛けてきた。黒髪でおかっぱ頭、片目は前髪で隠れて見えないがもう片方の目には濃いクマが刻まれている少し陰鬱な女性。
この状況、使えるかもしれない。
「書き終わりました」
僕は登録用紙を差し出し、受付嬢はそれを受取ろうとする。
「そうだ、ここへ来る途中モンスターを倒したので換金してもらいたいのですが、頼めますか?」
「銀ですか? ああ、めんどくさい。 わかりました。 いいですよ。 早くしてください」
受付嬢は本当に面倒臭そうな顔をしている。
僕はカバンの中かからずっしりと膨らんだ大きな革袋を取り出しテーブルの上でひっくり返す。金と銀の粒が革袋から落ちてテーブルの上で山積みになった。
その量を見て受付嬢はあんぐり口を開け、目を丸くする。
「え?こんなにたくさん? 金もいっぱいありますよ?? え?え?」
「それとこれもお願いします」
僕は胸のポケットからレインボースライムを倒した時に入手した白金の塊を取り出し山積みになった金銀の上に乗せた。
「「「「「ええええええええええええ!!!???」」」」」
ノエルと僕以外の三人と一連のやり取りを遠巻きに見ていた野次馬が一斉に声を上げて驚いた。
まぁ驚くのは当然だ。白金をドロップするA級モンスターは滅多に倒されない。王国の騎士団、それもレベル100以上の者が数人参加して一体倒すのがやっと、という相手だ。だから白金貨の価値は極めて高い。白金貨1枚で金貨120枚の価値があるのも頷ける。
皆が驚いている隙にノエルは僕の隣りの席に移動した。
「さてアナル、これは僕達が一度の冒険で得た稼ぎだ。僕の見立てだが、手数料と税を引いても金貨180枚にくらいになる筈だ。 僕達はこの金を折半する訳だが……。
でだ、お前さっき、ノエルに僕の数倍の給金を払うと言っていたよな? 騎士様がまさか嘘を付くとは思えないが、一度の冒険でこれの数倍給金を払えるのか?」
アナルは現状を理解できず、テーブルの金銀の山と僕の顔を交互に見る。
「もう一度聞くぞ。一度の冒険でこれだけの給金を払えるのか?」
「ぐぬ」
当然払える訳もなく、アナルは悔しそうに下唇を噛んだ。
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