一番かっこいい加護
席に座った僕をアナルは観察するように見てくる。
彼女は嘲笑うような笑みを浮かべていた。
「ボロボロではありますが、なかなか仕立ての良い服を着ていますねぇ。 奴隷の仕事はお辞めになられたのですかぁ?クスクス」
服や靴はここまでの道のりで多少破れたり壊れたりしている。
「まぁな。 お前のせいで酷い目にあったよ」
次に彼女はテーブルに置いてあった僕の登録用紙を見る。
「おまえ? まぁいいでしょう。 それより坊ちゃん、嘘はいけませんよ。クスクス」
「関係ないだろう」
僕は登録用紙をひっくり返した。
アナルは僕の隣りの席に座り、ひっくり返した登録用紙を指先で突いた。そして僕を蔑むようにクスクスと笑う。
「なんですぅ? オレフル・ボッキーダって? いつからオレフルさんになったのですか? それに加護も偽ってますよねぇ。 【R剣闘士】?クスクス。 それ提出されるのですか? あたくしが秒でギルドにバラしますよぉ?w」
くっそ。相変わらず嫌な奴だ。5年前と変わっていない。
僕は用紙を表にする。
「名前は偽る必要がないから訂正するよ」
僕は用紙に書いた『オレフル・ボッキーダ』を黒く塗り潰し、その上の空白に『ゼツ・リンダナ』と記入した。
「ほらっ、加護名も直さないとw 坊ちゃんの気色悪い加護名、書かないとダメですよぉ。クスクス。 書いて差し上げましょうか? あっ、あの気持ち悪い加護名を書くだけで吐き気がするので、あたくしは書けないですねぇw ご自分で書くのが惨めならお連れの方に頼んだらいかがですかぁ?www」
「あのっ! 私、ノエルと言います。貴女はゼツ君の知り合いなんですか?」
ノエルがアナルに問いかける。
「ふ~ん。 綺麗なお嬢さんですねぇ。 ええ、そうですよぉ~。あたくしはアナル・ファックと申しますぅ。 ゼツ坊ちゃんがいたリンダナ侯爵家の騎士団長ですぅ。クスクス」
アナルはノエルににっこりと笑い掛ける。それは不気味な笑みだった。
「ゼツ君って侯爵家の人なの?」
「正確には『だった』だな」
このビッグベニス王国は封建制度を採用している。
領土を持つ貴族は領内の政治を行い法を制定し民衆を取り締まる。また課税対象や税金額を決めて民衆から取り立てる。言わば小国の国王に匹敵する権力を持っているのだ。
「私、ずっとタメ口だった……。 不敬罪になるよね……、あっ!なりますよね?」
ノエルは眉をハの字にし、申し訳無さそうに上目遣いで僕を見つめる。
庶民は許し無しに貴族の前で喋ることはできない。それがタメ口ともなれば首を切られても文句を言えないのが常識だ。
「ノエル、僕はもう貴族じゃない。 だからこれまでと同じように接して欲しい。 今までの関係を壊したくない」
「ゼツ……くん、うん、わかった!」
「あっれぇ〜。 言ってなかったのですかぁ〜? コイツ、クソ気持ち悪い加護のせいで侯爵家を追放されたのですよぉ。クスクス。 惨めだからって隠すのはいけませんよぉw この分だと加護のことも行ってないのですかねぇ?www」
「お前、余計なこと言うな」
僕の一言で不気味に笑っていたアナルの顔から笑みが消えた。そして僕を睨み付けてくる。
「おまえ、じゃなくてアナル様、だろ? まだ自分の立場がわかっていないのですね。 可哀想な人。 おまえは奴隷に落ちた身分、あたくしは侯爵家騎士団長。 不敬罪で捕縛してもいいのですよぉ?」
アナルの言っていることは正しい。
現状僕の身分は奴隷と変わらない。それが騎士に不遜な態度を取ることをこの国の身分制度が許さない。
「クスクス、何も言い返せないですよねぇ。 そうだノエルさぁ~ん、コイツの加護知ってますぅ?www」
「知らないです」
アナルの口角が釣り上がる。
「クスクス、 やはり隠してたのですねぇwww コイツの加護は【MR無責任種付おじさん】ですよ。 気持ち悪い加護ですよねぇ~」
僕は小さく歯を食いしばり下を向く。
ノエルはどう思うのだろうか?これまでの奴等と同様に僕をバカするのだろうか? ……別にどう思われたっていいじゃないか。ノエルが離れていくなら僕は一人で旅をしよう。それでいいじゃないか。
ノエルはアナルを睨んだ。
「いえ全く。 ゼツ君の加護は凄く強いです。 それにゼツ君はとても素敵な人です。 だからゼツ君の加護が【MR無責任種付おじさん】ならそれが一番かっこいい加護だと思います」
彼女は淡々とそれでいて芯の通った声で語った。
初めて加護を誉められた。
ノエル……、僕の加護をバカにしなのか……。 もう少し、彼女を信じてもいいのかもしれない……。
「ふ~ん、生意気ですねぇ。 あ、そうでした。今思い出しましたぉ。坊ちゃんの加護には侯爵閣下より箝口令が出されております。ですから、公の場では加護を公表なさらないようにしてください」
「なぜ箝口令を?」
「リンダナ侯爵家から【MR無責任種付おじさん】などという気色悪い加護持ちが出生したとなっては家名に傷が付くとご判断されたのですよ」
なるほど……。基本的に〈加護の儀〉は教会でたくさんの子供を集めて同時に行われる。そこで珍しい加護持ちが現れると、教会は国に報告しなければならない義務がある。
父上は僕の加護を国に報告したくなかったということか……。
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