貴族と暗号
一応、相談はした。
資金面ならばある程度の協力はすると言ってはくれたが、果たして……。
伯爵も寄子には領地持ちもいなくはないが、小さな領地持ちばかりで、しかも皆手堅く収めているらしく、あまりこういう話には詳しくはないらしい。
寄子たちも、先に話した通り小さな領地ばかりでほとんどが村数個や町一つと言ったものばかりで、目の届く範囲を治めているだけなので、今回のようなケースでは話にならないらしい。
それだけは太鼓判を押しながら俺に説明してくれた。
そう、はっきり言って、今回ばかりは……『ごめん、わしは役立たずだわ』って言われたようなものだ。
俺は、何の成果も得られずに店まで戻った。
「どうでしたか?」
店に戻るとダイアから聞かれたので、何の成果も得られなかったことを伝えると「そうでしょうね」と一言だ。
予想していたらしい。
俺は店の隅でうなだれながら思案していると、後発組のお姉さん方が、店に到着した。
お姉さん方も俺の行動を読んでいたらしい。
で、俺から伯爵との面会の様子を聞くと、俺をほめてくれた。
なんで??
俺が聞きなおすと、「伯爵のメンツを守ったと言いますか、まず相談することが大切なのです」だって。
確かに報連相が大事だよ。
しかしそれは俺の元の世界でない限り商人か軍人くらいだろうに。
少なくとも貴族ではありえない。
俺がそういうとお姉さん方は笑っていただけだった。
翌日には屋敷からバトラーさんが店までやって来た。
手には王宮への招待状をもって。
どういうことなのかと聞くと、昨日王宮から遣いが来て、男爵に面会を求めてきたようだ。
バトラーさんが男爵不在を伝えると招待状だけを渡して、厳命してきたそうだ。
招待するのに厳命ってなんだよ。
明日の午後一番から会議があるので、参加するようにとのことだ。
バトラーさんからの報告はかなりきつめの内容だが、貰った招待状にはそんなこと書かれていないし、そもそもこれのどこが招待状なんだよって感じだ。
季節がどうとかから始まって、何やらよく分からない詩の引用があったり、本当に暗号かよって感じの招待状だ。
本当にこれは招待状なのかな。
俺は貰った招待状をお姉さん方にも見せると、お姉さん方の顔色が変わった。
「明日は、午前中から王宮に出向きましょう」
「ええ、私たちのうちで誰かひとり絶対に付けますので、連れて行ってください」
かなりお慌てになっているので、知る人にはあの招待状はヤバ目のものらしい。
なんだ。なんだ、どういうことなのだ
暗号のような手紙をもらったかと思ったら、俺の周りの空気が一変するし、もう俺にはどうしたらいいかわからないような状況になった。
とりあえず、決戦??は明日の話で、俺にできることをするだけだ。
と言っても、俺にできることって……従業員の福利厚生くらいだしな
そう、明日非常に大切な会議があるそうなのだが、結局太陽が黄色く見えるまで頑張りましたよ。
だって、だれも許してくれなかったしね。
翌日は、ギルドで借りた馬車を使い、王宮に出向いた。
王宮の正面わきにある下級貴族用の入り口から中に入り、近くで待機している王宮事務員に手紙を渡して宰相との面会を求めると、その事務員は手紙を一瞥するとすぐに顔色を変えて、もう一度俺の顔をしみじみ見ていた。
その後、別人かと思うくらいに行動が機敏となり、俺たちを控えの間に連れていき、すぐにどこかに行ってしまった。
多分、彼が担当の者に手紙を渡すくらいしか時間がたっていないくらい、控えの間に着いてゆっくりすることもできずに、すぐに呼び出された。
そう、俺たちを案内する人が呼びに来たのだ。
サリーさんが今回ついてきてくれているのだが、そのサリーさんを一瞥して、一瞬顔をしかめたのだが、すぐにあきらめたかのようにサリーさんと一緒に王宮奥に連れていかれた
「レイさん。
ここって、王族の方の執務室などがあるエリアですよ」
さすがサリーさん。
以前王宮でブイブイ言わせていたころには、王族の筆下ろしなどもしていたので、何度も王宮には通っていたという。
多分さっきの人は、サリーさんの顔を覚えていたのだろう。
普通ならば、断るところを彼女では無理と判断したようだ。
で、俺たちが連れていかれたのは王宮奥にある小さな会議室のような場所だった。
その部屋の中にはすでに宰相が俺たちを待っていた。
「やあ、約束通り来てくれたな」
「約束の期日にはあと二日はあったはずなのですが」
俺は慌てて呼び出されたのが悔しかったので、宰相に失礼にならない範囲でギリギリの皮肉を言ってみた。
あ、これ普通でも失礼になるな。
「ああ、確かに期日ではそうだが、こちらもできる限り時間を節約したいのでな。
陛下の都合もあったし」
「陛下……」
サリーさんは宰相の発した言葉に反応を示した。
すると、部屋の扉がノックされて、執事の方が入ってきて開口一番にこう言われた。
「国王陛下、入室なさります」
え? え?
どういうことだ。
俺でも知っているけど、俺のような下級の貴族では国王と会えるのは謁見の間くらいだったはずなのだが……。
「レイさん」
横からサリーさんに肘でつつかれ、かしこまる姿勢をとった。
すぐに、執事の方が入ってきた扉から、前に一度だけ会ったことのある陛下が部屋に入ってきた。
「一同、頭を上げてくれ。
時間が惜しいので、早速始めようか」




