会食前の一勝負
シーボーギウムに残っていたお姉さん方の優しさから、移動中に余計な情報を回してこなかったが、家に帰ればその情報から逃げれるはずはない。
そう、お隣の領地から宰相がお帰りになっていた。
ちょうど俺達と入れ違うようにシーボーギウムに到着したらしく、そのまま屋敷で一泊してもらっていた。
早速、俺は衣服も改める間もなく、宰相の前に連れ出され挨拶をする。
「宰相閣下、只今視察から戻りました。
閣下に置かれましては……」
「よいよい、男爵。
そう畏まらんでも。
私のほうが男爵に迷惑をかけているのだからな」
え?
この人、俺達に迷惑をかけていること、認識していたの??
まあ、社交辞令だとしても、感謝くらいはしていそうだな。
「だが、それにしてもあそこは酷いな……あ、男爵がかなり苦労したことは聞いたので、知ってはいるが、男爵の苦労は私には想像すらできんので、あまり偉そうなことは言えんが……」
何やら、お隣の事についてまた、話し始めたけど、まだ俺たちにたかる気なのかな?
いい加減勘弁してほしいのだが、そう簡単に解放して貰えそうにない空気感があるよな。
そんな空気を察したのか、エリーさんが話しかけてきた。
「まあ、積もる話はあるでしょうが、男爵様。
一度身なりを整えになってからお話になられたらいかがでしょうか。
宰相閣下、申し訳ありません。
我が領内ではまだまだ色々とあり、今まで男爵は領外に出ておりましたので、とても宰相閣下の御前に出られるような……」
「ああ、それは構わない。
それにしても忙しそうなのだな。
もし秘密でなければどこに出ていたのか教えてもらえないだろうか」
「ええ、我が領地は致死の森と接しておりますので、領内の自力が著しく劣る現状では、その致死の森の魔物の動向が恐ろしくありますので、近づけるギリギリまで出向き調査をしてもらっておりました」
「え?
そうなのか、男爵」
流石に驚くか。
俺も知らなかったのだが、致死の森ってとにかく魔王の住処って感じで恐れられていたようなので、俺の行動が異様に思われたようだ。
「ええ、ですが森の外周から中を覗くのが精一杯でしたね。
海岸線に沿って調べられる範囲で見てきましたが、たしかに魔物は強力なものが多くいそうです。
そのうちきちんと調べないと不味そうですが、今はこれくらいしか……。
あ、ですので、汚れておりますのでこの後しばらくしお待ちいただいて食事を用意しますので、その際に詳しくお話ができればよろしいかと考えております」
「ああ、帰ってきたばかりで、長らく引き止めて済まなかった。
まだ男爵と少し突っ込んだ話もしたいので、時間をとってもらえるとの事、こちらとしては喜んでその誘いを受けたい。
悪かった、ひとまずはゆっくりと休んでください」
宰相との挨拶は、ひとまず終わったが、まだなにかありそうだが、まあ仕方がないか。
俺はエリーさんと一緒に宰相がいる応接室から出ていった。
後の宰相の世話はメイドたちがしてくれるそうだ。
任せるしか無い。
一歩部屋から出ると、とたんにエリーさんの顔色が変わった。
最近よく鈍いといわれる俺ですら、エリーさんの不機嫌さを理解できる……どころか、少し怖い。
そんな鈍い俺ですら感じるようなので、流石にあからさますぎませんかね。
不機嫌じゃなくて怒っていますよね、エリーさん。
「レイ様、なんですあれは!」
「『なんです?』といわれてもにわか貴族の俺にわかるわけないだろうに」
「ですが、まだ私たちにたかる気ですか、あの宰相は」
「宰相というよりも国だな。
この国の、特に貴族連中がまずい者が多そうだ」
「そうですよ、やたらと私達のような者には高圧ですし、だから私たちは奴隷から身分を解放できないのですからね」
前に聞いたことがあったな。
国の至宝と名で言われるくらいのお姉さん方だ。
とっくに自分だけでも身分を解放できるはずなのに、いまだに奴隷のままだ。
それは、貴族たちから身を守るためらしいが、そのことの不満まで俺にぶちまけてきたけど、少し声が大きい。
「とりあえず、声を抑えようか。
宰相に聞かれたら、まずい」
「いいえ、本当は聞いてほしいくらいですが……そうですね、レイ様のお立場が悪くなりそうなので、我慢します。
レイ様のために、一生懸命に我慢しますわよ」
『我慢』って大切だったのか二回言っていたよ、エリーさん。
とりあえずエリーさんのお怒りをいったん抑えるのに成功したけれど、どこかでこの怒りを含めストレスを吐き出させないとまずいかな。
まあ、方法は一つしか思い浮かばないけど……俺の体力ってどこまで持つのかな。
レベルアップのおかげで、多少は体力が付いたような気はするけど、どうも最近その自信がなくなってきているんだよな。
俺たちはそのまま俺の部屋に入り……エリーさんにベッドに押し倒された。
え?
今すぐにストレス解消をしないとまずいの。
まあ、あれは俺でも怒る案件だけれど、それでも夜まで待とうよ。
一勝負だけで終わらせて、すぐに着替えて会食の準備に走る。
で、会食中に宰相と話したことは、やはりお隣の再建の話だが、実はそれだけでもなかった。




