第3章☆タイムコーポレーション
第3章☆タイムコーポレーション
夕闇が迫っていた。
「冴子さーん!」
浩次さんが追いかけてきた。
「なんでついてきたの?」
「ここいら辺、『除霊の森』って悪名高い場所なんですよ。一人で大丈夫かなと心配で」
「あっ!そういえば…」
ここの林は、大学近くの本部がある宗教団体の人が「祈らせてください」と言って学生を捕まえる場所で有名だった。特に夕方の今時分は出没する。
「私、急いで帰るから、浩次さんも気をつけて」
「タイムマシンのところまで送ります」
「えーとー。…すみません。お願いします」
蚊の泣くような声でそう言うと、浩次さんはにかっと笑った。真っ白い歯が歯並びよく輝いた。
この人、頼りにされるのが嬉しいんだ…。
私は結構自立している方だから、正直、この反応に戸惑ってしまう。
「タイムマシンが、無い!」
とめた場所から忽然とタイムマシンが姿を消していた。
「嘘…。帰れないの?」
足がガクガク震えた。
「一定の時間過ぎたら戻るとかですか?」
「そんなまさか」
「それじゃあ誰かが動かしたんだ」
「でも、動かせる人は限られてるはずよ。タイムコーポレーションで登録しないと動かせない」
「タイムコーポレーション?」
「そう。…そうだわ!あそこへ助けを求めに行けば良いんだ!」
「一緒に行きます」
「でも…」
口ごもる私の手を握って、浩次さんはざかざかと歩きだした。
「暗くなる前にたどり着きましょう」
本当になんて頼もしい人だろう。
私はぐすん、と鼻をすすった。
「冴子さんと浩次さん!!!」
タイムコーポレーションではびっくりされた。
創業者の2人が、十年前にされた予告どおりの日時に現れたので、従業員は上を下への大騒ぎだった。
「私は二十年後からタイムマシンで来たのだけれど、浩次さんはここの時間軸の浩次さんで…」
「運命の人ですね!」
「そういうわけじゃ…」
私が慌てて打ち消そうとしたら、
「そうです。俺の運命の人です」
と浩次さんが堂々と宣言した。私は口をぱくぱくさせてどうしていいかわからなかった。
「冴子さんが乗って来られたタイムマシンは二十年後に呼び戻されました」
「なぜ?」
「二十年後の浩次さんがそうしてくれって言ったらしくて」
「私が乗っている状態のものを呼び戻したかったのかしら?」
「くそう。俺め!」
浩次さんが言うのが滑稽だった。
「でもあんまり歴史を変えたら困ったことになるんじゃないかしら?」
「ですが、おそらく、これから冴子さんがさらに十年前に遡らないと、このタイムコーポレーション自体存在しなくなりますよ」
「ひえええ」
「当時の流通していた紙幣とお持ちの紙幣を交換しますから、宝くじ買って当ててきてください。話はそれからです」
えらいことになっちゃった…。